砂漠の追跡行
王都を出発して数日。 レンたちを乗せた王室専用の高速馬車は、植生豊かな平原を抜け、一面が黄金色に染まる『灼熱の砂海』へと足を踏み入れていた。
「あっつぅぅぅ……! なんだよここ、サウナかよ!?」
馬車から降りた瞬間、アリアが悲鳴を上げた。 気温は優に40度を超えている。じりじりと肌を焼く日差しと、照り返す熱波。 鎧を着込んでいるアリアにとっては地獄のような環境だ。
「うぅ……私、干からびてミイラになっちゃいますぅ……」
ミリスもローブのフードを目深に被り、ふらふらとしている。 これでは戦う前に熱中症でダウンだ。 だが、レンは涼しい顔で周囲を見回した。
「慌てないで。……これくらい、想定内だよ」
レンは二人の肩に手を置いた。 イメージするのは、王都の快適な室温。 二人の体の周囲数センチの空気の温度を、その状態でロックする。
「――『状態固定・恒温結界』」
ヒヤッ。
瞬間、アリアとミリスの周囲に清涼な風が吹き抜けた。 熱波が遮断され、まるで避暑地にいるかのような快適な空気に包まれる。
「え……? すずしっ!?」 「わぁ……生き返ります! レンさん、これすごいです! 歩くエアコンです!」 「これで暑さは克服だね。さあ、先を急ごう」
レンたちは砂漠を歩き出した。 本来なら過酷な行軍となるはずが、レンのスキルのおかげでピクニック気分だ。
だが、砂漠の脅威は熱だけではない。
ズズズズズッ……!!
足元の砂がすり鉢状に沈み込み、巨大な顎が地中から飛び出した。 『サンド・ワーム』。体長20メートルを超える、砂漠の捕食者だ。 それも一体ではない。振動を感知して、周囲から5体ものワームが一斉に姿を現した。
「出やがったな、デカミミズ!」 「ちょうどいい。新装備のテストだ」
レンが指示を出す前に、二人は既に動いていた。
「行くぞ、『天覇』! その切れ味、見せてもらおうか!」
アリアが抜刀し、正面のワームに向かって疾走する。 ワームが巨体をしならせ、アリアを飲み込もうと襲いかかる。 アリアは速度を緩めず、すれ違いざまに横一文字に剣を閃かせた。
スパァァァンッ!!
抵抗感ゼロ。 鋼鉄のように硬いはずのワームの皮が、まるで水面を斬ったかのように滑らかに両断された。
「軽ッ! マジかよ、豆腐みたいに斬れたぞ!」
アリア自身が驚くほどの切れ味だ。 レンの『耐久固定』なしでも、この剣は最強クラスの硬度を誇っている。
「私も負けてられません! ……えっと、出力は1%で……」
ミリスが新しい杖を構え、魔力をほんの少しだけ込める。 以前なら「種火」程度しか出ないはずの魔力量だ。 だが、杖に組み込まれた増幅回路と、レンが纏う『夜魔のローブ』による支援効果が重なり――
「『ファイア・ボール』!」
ドゴォォォォォォンッ!!!!
放たれたのは、通常の中級魔法を遥かに凌駕する爆炎だった。 残りのワーム4体が、一撃で消し炭になる。
「ひゃあ!? 1%でこれですか!?」 「うん、上出来だね。燃費効率は以前の100倍だ」
レンは満足げに頷いた。 アリアの近接火力と、ミリスの継続戦闘能力。 これなら、長丁場のダンジョン攻略も息切れすることなく進める。
「よし、邪魔者は片付いた。……見えてきたよ」
レンが指差した先。 陽炎の向こうに、砂に埋もれた巨大な石造りの遺跡が姿を現した。 『太陽の遺跡』。 ボルットンが逃げ込んだ、古代の遺産。
そこからは、生物の本能が「近づくな」と警鐘を鳴らすような、ドス黒く澱んだ魔力が立ち上っていた。
「……嫌な気配だな。王都のキメラよりヤバそうだ」 「レンさん、あそこにお化けとかいませんよね……?」 「お化けはいないけど、魔神くらいはいるかもね」
レンは冗談めかして言ったが、目は笑っていなかった。 感じる。 遺跡の奥底で、何者かが目覚めようとしている波動を。
「行こう。ボルットンとの鬼ごっこは、ここで終わりだ」
『銀翼』の三人は、熱砂の風を切り裂き、決戦の地へと足を踏み入れた。




