特務冒険者と新たな装備
ボルットンの逃亡から数日。 『王直属特務冒険者』という仰々しい肩書きを得たレンたちは、王城の敷地内にある『王立工房』を訪れていた。 逃げたボルットンを追う前に、戦力を整える必要があるからだ。
「うおおお……! すっげえ熱気だ!」 「ここが、国一番の職人さんがいる工房ですか……」
轟々と燃え盛る炉の炎と、カンカンという槌音。 工房の奥から、髭もじゃの小柄な老人が現れた。王宮鍛冶師長を務めるドワーフ、ガルドだ。
「ふん。お前さんらか、陛下が『好きに作らせてやれ』と言っていた小僧どもは」 「初めまして。レンです。無理を言ってすみません」 「構わんさ。国を救った英雄への贈り物だ。……で、注文は?」
ガルドが腕組みをして問う。 レンは事前に考えていたプランを伝えた。
「まずはアリアの剣です。彼女の筋力に耐え、かつ僕の魔力を通しやすい『ミスリルとオリハルコンの合金』でお願いします」 「ああん? オリハルコンだと? そんな硬い金属、加工するだけで数ヶ月はかかるぞ!」
ガルドが呆れたように言うが、レンはニヤリと笑った。
「加工のサポートは僕がします。炉の温度を『固定』して、常に最高温度を保ちますから」 「……ほう? 面白い。やってみな!」
◇
そこからは、常識外れの鍛冶作業が始まった。 レンが『状態固定・温度』で炉の熱を数千度に固定し続けることで、本来なら加工不可能な伝説級の金属が、まるで粘土のように溶けていく。
「すげえ……! 温度が1度もブレねえ! これなら不純物が完全に取り除けるぞ!」
ガルドの職人魂に火がついた。 槌を振るう手が残像に見えるほどの速度で金属を叩き、鍛え上げていく。 そうして完成したのが、一本の大剣だった。
「――魔剣『天覇』。切れ味も耐久性も、間違いなく国宝級だ」
白銀に輝く刀身。 アリアが恐る恐る手に取り、軽く振るってみる。 ヒュンッ! 空気が鋭く鳴いた。
「軽い……! それに、魔力がスルスル通るぞ! これなら全力で振ってもレンの負担が減るな!」 「ああ。強度固定をしなくても、素の状態でドラゴンの鱗を斬れるはずだ」
次はミリスの杖だ。 素材は、宝物庫から提供された『世界樹の枝』。
「ミリスの杖には、魔力増幅回路を組み込みました。これで出力1%でも、以前の10%分の威きが出ます。逆に言えば、魔力消費が10分の1で済む」 「ええっ!? じゃあ、私……1000発くらい撃てちゃいますよ!?」 「まさに歩く弾薬庫だな」
ミリスが新しい杖を抱きしめて頬ずりする。これで彼女の継戦能力は飛躍的に向上した。
そして最後は、レン自身の装備だ。 ガルドが差し出したのは、漆黒の繊維で織られたローブだった。
「『夜魔のローブ』だ。魔法防御が高いのは当然だが……特筆すべきは『魔力伝導率』だ」 「伝導率?」 「ああ。このローブを着ている間、お前の魔力は周囲の空間に馴染みやすくなる。つまり――」 「……『固定』の射程距離と、発動速度が上がる」
レンが袖を通すと、肌に吸い付くような感覚があった。 意識を集中する。 これまで半径50メートル程度だった『空間支配』の領域が、一気に100メートル以上に広がる感覚。 これなら、遠距離からの狙撃も、広範囲の防衛も、より完璧に行える。
「ありがとうございます、ガルドさん。最高の装備です」 「ふん、礼には及ばん。……それより、客人が来てるぞ」
ガルドが顎で入り口をしゃくると、そこにはエリス隊長が立っていた。 その表情は険しい。
「装備は整ったようですね、レン殿」 「エリスさん。……何かわかったんですか?」 「はい。逃亡したボルットンの行方が掴めました」
エリスが地図を広げる。 指差された場所は、王都から遥か南東。 レンたちがかつて住んでいた街のさらに奥地にある、広大な砂漠地帯だった。
「目撃情報によれば、奴は『太陽の遺跡』へ向かっています」 「遺跡……?」 「太古の魔法文明が残したとされる場所です。ボルットンが口にしていた『真の主』……おそらく、そこに封印されている何かを呼び覚ますつもりでしょう」
嫌な予感が的中した。 ただの逆恨みならまだいい。だが、奴は世界そのものを道連れにしようとしている。
「行きましょう。新しい装備の試し斬りには、ちょうどいい相手だ」
レンがアリアとミリスを見る。 二人は力強く頷き、新しい武器を握りしめた。
「ああ、今度こそ逃さない。一刀両断にしてやる!」 「あんな悪い人、私が燃やし尽くします!」
準備は整った。 最強の装備と、王国のバックアップを得た『銀翼』は、決戦の地へ向けて出発する。 そこには、過去の因縁と、世界の命運をかけた戦いが待っていた。




