王都への旅立ち
王都への出発当日。 レンたちは、街の正門前で荷物をまとめていた。
「忘れ物はないか? アリア、眼鏡の予備は?」 「持った持った。ったく、お前は私のオカンかよ」 「ミリス、マナ・ポーションは?」 「はいっ、リュックに詰め込めるだけ詰めました!」
レン自身も、装備を一新している。 報奨金で念願の『魔法の鞄』を購入したのだ。見た目は小さなポーチだが、中には大量の物資が入る。 中には、特注した3000本の鉄杭と、数種類の食料、野営道具が詰め込まれていた。これで兵站の心配はない。
「……レン君!」
そこへ、息を切らして駆けてくる女性がいた。 ギルド受付嬢のルナだ。 彼女の後ろには、腕を組んだギルドマスターのグスタフや、武具店の頑固親父など、レンがお世話になった面々が並んでいた。
「ルナさん……見送りに来てくれたんですか」 「当たり前でしょ! ……もう、寂しくなるわね」
ルナは目を潤ませながら、レンの手をぎゅっと握った。 かつて「ゴミスキル」と蔑まれていた頃から、唯一優しく接してくれた恩人。
「元気でね。王都に行っても、たまには手紙ちょうだいよ?」 「もちろんです。ルナさんこそ、お元気で」
続いて、グスタフが前に出た。
「レン。王都は魔物の巣窟よりも厄介な場所だぞ」 「厄介、ですか?」 「ああ。『貴族』という名の化け物がうようよしているからな。……お前の力は異質だ。利用しようとする奴、潰そうとする奴が必ず現れる。心してかかれ」
グスタフの言葉は重かった。 物理的な暴力なら『固定』で防げるが、権力や陰謀はまた別の強さが必要になる。
「肝に銘じます。……あ、それとマスター。これ、返します」
レンは懐から、一枚の銀貨を取り出した。 それは物語の始まりの日、パーティを追放され、路頭に迷っていたレンにグスタフが投げ渡してくれた、「恵んでもらった」銀貨だ。
「もう必要ありません。今の僕は、自分で稼げますから」
グスタフは目を見開き、やがてフッと笑って銀貨を受け取った。
「……いい面構えになったな。行け! この街の英雄の名を、国中に轟かせてこい!」
◇
「時間です。参りましょう」
近衛騎士のエリスに促され、レンたちは豪華な王室専用馬車に乗り込んだ。 御者が鞭を振るう。 馬車が動き出し、慣れ親しんだ街並みが遠ざかっていく。
窓から見える景色。 修理した城壁、アリアと出会った酒場、ミリスと特訓した訓練場。 全ての場所に思い出がある。
「……なんか、しんみりしちゃうな」
アリアが窓枠に頬杖をついて呟く。 ミリスも、小さく鼻をすすっていた。
「でも、行くしかありません。私たちは、もっと強くならなきゃいけないから」 「そうだな。……次は王都で伝説を作ってやるさ!」
レンは二人を見て頷いた。 感傷に浸るのはここまでだ。視線はすでに前方へ向けられている。
道中、馬車の揺れに身を任せながら、エリスがレンに話しかけてきた。
「レン殿。王都に到着したら、まずは騎士団の詰め所へ案内します。その後、謁見の儀となりますが……一つだけ忠告を」 「忠告?」 「陛下は寛大な方ですが、側近の『宰相』や『大臣』たちは古い考えの持ち主です。……平民であるあなたが英雄扱いされることを、快く思わない者もいるでしょう」
やはりか、とレンは思った。 グスタフの懸念通りだ。
「わかりました。礼儀正しく振る舞いますよ。……売られた喧嘩を買うかどうかは、相手次第ですけど」
レンの言葉に、エリスは苦笑しつつも、頼もしそうに目を細めた。
数日の旅路の果て。 丘を越えたレンたちの目に、圧倒的な威容を誇る巨大な城塞都市が飛び込んできた。 白亜の城壁、天を突く尖塔、そして無数に立ち並ぶ石造りの家々。
王都『グランド・レギオン』。 この国の心臓部であり、すべての冒険者が目指す最高峰の舞台。
「でっけぇ……! あんなのが全部人の家かよ!?」 「あのお城……絵本で見たのと同じですぅ……」 「ここが、僕たちの新しい戦場か」
レンは拳を握りしめた。 田舎街の英雄から、国一番の英雄へ。




