英雄たちの凱旋
デュラハンとの決着から数日が過ぎた。 スタンピードによる被害は甚大だったが、奇跡的に民間人の死者はゼロ。城壁の修復も、レンの『固定』スキルによる応急処置のおかげで驚異的なスピードで進んでいた。
そして今日、街の中央広場では、防衛戦の勝利を祝う盛大な式典が開かれていた。
「『銀翼』万歳!!」 「ありがとう! あんたたちのおかげで助かったよ!」
紙吹雪が舞う中、レン、アリア、ミリスの三人は、馬車に乗ってパレードの主役となっていた。 沿道には溢れんばかりの人だかり。 かつてレンを嘲笑っていた者たちも、今は声を枯らして英雄の名を叫んでいる。
「お、おいレン……手ぇ振れよ。みんな見てるぞ」 「わかってるけど……こういうの慣れてないんだよ」
アリアは照れ隠しに不機嫌そうな顔をしているが、その耳は真っ赤だ。 ミリスに至っては、あまりの注目の多さに「ひゃうぅ……」とレンの背中に隠れてしまっている。 レン自身も、少し前までただの「荷物持ち」だった自分が、こんな場所にいることが信じられなかった。
(……悪くないな)
レンは小さく笑い、ぎこちなく手を振り返した。 その光景を、ギルドのバルコニーからグスタフが満足げに見下ろしていた。
◇
その夜、ギルド『銀の羅針盤』で開かれた祝勝会は、文字通りのどんちゃん騒ぎだった。 酒と料理が無限に振る舞われ、誰もがレンたちのテーブルに乾杯に来る。
「それでは、今回の論功行賞を行う!」
グスタフの声が響くと、静まり返ったホールで、レンたちに革袋が渡された。
「今回の報酬総額は、特別報奨金を合わせて金貨500枚だ!」
ドヨォォォォ……ッ! 会場がどよめく。金貨500枚。日本円にして数千万円規模の大金だ。 一生遊んで暮らせる額だが、レンたちの功績(数千の魔物撃破+将軍討伐+城壁修復)を考えれば安いくらいだろう。
「さらに、国からの正式な感謝状と、名誉勲章も授与される予定だ。……だが」
そこでグスタフは言葉を切り、少し困ったような顔で入り口を見た。
「ここからは、俺の管轄外だ。……入れ」
ギルドの扉が開き、重厚な鎧に身を包んだ騎士たちが入ってきた。 その先頭に立つのは、凛とした佇まいの女性騎士。 胸には王家の紋章が刻まれている。
「近衛騎士団、第三隊長のエリスと申します」
彼女はレンたちの前まで進み出ると、恭しく一礼した。 ざわついていた冒険者たちが息を呑む。近衛騎士といえば、王都のエリート中のエリートだ。
「冒険者レン・ヴェルベット、並びにパーティ『銀翼』の皆様ですね?」 「……はい、そうですけど」 「この度のスタンピード鎮圧、誠に見事でした。その功績を聞き及び、国王陛下より勅命が下りました」
エリスは懐から、豪奢な装飾が施された書状を取り出し、読み上げた。
「――『銀翼』の三名を王都へ招待する。速やかに参内し、余の前にてその武勇を語るがよい。……以上です」
シン……と、酒場が静まり返る。 国王からの直接の呼び出し。 それは、一介の冒険者にとっては最大級の名誉であり、同時に逃れられない命令でもあった。
「王都、ですか」 「はい。王都までの護衛は我々が務めます。……拒否権はありませんよ?」
エリスが微笑むが、その目は笑っていない。 どうやら、レンの「異常な能力」について、国の上層部が興味を持ってしまったらしい。 利用しようとしているのか、それとも危険視しているのか。
レンは横を見た。 アリアは「王都? 強い奴いんのか?」とワクワクしており、ミリスは「王様……緊張でお腹痛いです」と青ざめている。 いつもの二人だ。
「……わかりました。謹んでお受けします」
レンは答えた。 この小さな街で終わるつもりはない。 世界を知り、もっと強くなるためには、いずれ通るべき道だ。
「よろしい。出発は三日後です」
エリスが一礼して下がると、再び酒場に歓声が戻った。 今度は「王都行きおめでとう!」という祝福の声だ。
レンは窓の外、遠く北の方角にある王都の空を見上げた。 そこには、地方都市とは比べ物にならない権謀術数と、そして未だ見ぬ強敵たちが待っているはずだ。
「……忙しくなりそうだ」
レンは残っていたジュースを飲み干した。 Fランクから始まった少年の物語は、ついに国の中枢――王都へと舞台を移す。




