決着、そして朝日
「ガァァァァァッ!?」
デュラハンの絶叫が戦場に響いた。 それは痛みによるものではない。絶対の自信を持っていた防御結界を、人間に――それも小僧一人に無力化されたことへの屈辱と恐怖だった。
「アリア、今だ!」 「おうよッ! 随分と待たせやがって!」
アリアが地面を蹴る。 先ほどまでは弾かれていた漆黒の鎧。だが、今は魔力の輝きを失い、ただの分厚い鉄板と化している。 最強の剣士にとって、それは紙切れと同義だ。
「砕けろォッ!!」
ガギンッ!!
銀閃一閃。 アリアのフルスイングがデュラハンの右肩に直撃する。 今度は弾かれない。剣は鎧を豆腐のように食い破り、その下の肉と骨を深々と断ち切った。
「グオッ……貴様らぁッ!!」
デュラハンが片膝をつく。 そこへ、ミリスの追撃が降り注ぐ。
「私の魔法を……『蚊ほども効かぬ』と言いましたね!」
ミリスの杖から、圧縮された火球が放たれる。 レンのリミッターによって収束された熱量は、拡散することなくデュラハンの胸板を直撃し、鎧ごと肉体を溶解させた。
「ガハッ……! おのれ、人間風情が……!」
満身創痍のデュラハン。 だが、その左脇に抱えられた「兜(頭部)」の奥で、赤い瞳が狂気の色に染まった。
「ならば……道連れにしてくれるわ!!」
デュラハンが、抱えていた自分の頭を、レンたち目掛けて全力で投げつけた。 その頭部は、ドス黒い光を放ちながら膨張していく。 自爆だ。自身の魔力核を暴走させ、周囲一帯を消滅させる最後の手段。
「死ねぇぇぇッ!!」
迫りくる爆弾。 アリアとミリスが息を呑む。回避は間に合わない。
だが、レンだけは動じなかった。 彼はゆっくりと右手を前にかざした。
「……君の負けだ、将軍」
レンがイメージするのは、爆発そのものの封じ込め。 膨れ上がるエネルギーのベクトルを、内側へと無限に固定する。
「――『空間圧縮・固定』」
ピタリ。
空中で、デュラハンの頭部の動きが止まった。 直後、カッ! と強烈な光が溢れ出し――しかし、爆風は広がらなかった。 まるで透明な「箱」に閉じ込められたかのように、爆発はレンが指定した50センチ四方の空間の中だけで荒れ狂い、そして行き場を失って消滅した。
「な……我が、自爆すらも……」 「悪いけど、僕の許可なく爆発させるわけにはいかないんでね」
レンは冷たく言い放つと、アリアに視線を送った。 アリアが頷き、最後の一撃のために剣を振り上げる。
「これで終わりだ! 地獄で眠ってな!」
ズバァァァァァンッ!!
袈裟懸けの一撃が、デュラハンの巨体を真っ二つに両断した。 黒い鎧がガラガラと崩れ落ち、やがて黒い霧となって霧散していく。
静寂。
そして。
「……あ」
ミリスが東の空を指差した。 地平線の彼方から、眩いばかりの光が差し込んでくる。 朝日だ。 長い、長い夜が明けたのだ。
太陽の光を浴びた瞬間、指揮官を失い、統率を欠いていた魔物の群れが、蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げ帰り始めた。
「……かった」 「勝った……勝ったぞぉぉぉぉぉッ!!」
城壁の上から、衛兵たちの割れんばかりの歓声が沸き起こった。 抱き合う者、座り込んで泣き出す者、空に向かって拳を突き上げる者。 誰もが、『銀翼』の名を叫んでいた。
「ふぃ〜……。疲れた……」
レンはその場に大の字になって寝転がった。 魔力は空っぽ。体も鉛のように重い。けれど、こんなに清々しい朝は初めてだった。
「レン! やったな!」 「レンさん、私たち、街を守りましたよ!」
アリアとミリスが、泥だらけの顔で笑いながら覗き込んでくる。 二人ともボロボロだが、朝日を受けて輝くその笑顔は、どんな宝石よりも美しかった。
「ああ……最高の勝利だ」
レンは二人とハイタッチを交わし、眩しい空を見上げた。 Fランクの荷物持ちだった少年は、今、数千の命を救った英雄として、新しい朝を迎えたのだった。




