戦術の確立と『銀翼』の結成
『試練の塔』での衝撃的なデビューから数日後。 レンたちはギルドの受付カウンターで、ルナと向き合っていた。
「それじゃあ、正式にパーティ登録の手続きをするわね。……で、パーティ名は決まった?」
ルナが羽ペンを構えて尋ねる。 そう、パーティには名前が必要だ。これまでは「即席パーティ」で済んでいたが、今後はその名がギルドの戦績に残ることになる。
「名前か……。アリア、何か案はある?」 「ん? そうだな……『最強剣舞団』とかどうだ?」 「却下です。ダサすぎます」
ミリスが即答で切り捨てる。
「じゃあミリスは?」 「えっと……『爆裂マニア』とか……」 「犯罪者予備軍みたいだからやめよう」
レンは頭を抱えた。ネーミングセンスまで欠陥だらけだとは。 レンは腕を組み、二人の姿と、自分たちの戦い方を思い浮かべた。 アリアのトレードマークである銀髪。 そして、レンのスキルで空を駆ける機動力。
「……『銀翼』はどうかな」
レンが提案すると、二人が顔を見合わせた。
「『銀翼の奇跡』……略して『銀翼』。空を飛ぶ戦い方にも合ってるし、アリアの髪色とも被る」 「ふむ。……悪くないな。なんか速そうだ」 「かっこいいです! それにしましょう!」
こうして、後に伝説となるパーティ『銀翼の奇跡』の名前が、この場の思いつきであっさりと決定した。
◇
登録を終えたその足で、レンたちは街の雑貨屋へと向かった。 これからの活動に向け、装備を整えるためだ。
「おいレン、ここは眼鏡屋じゃないか。武器屋に行こうぜ」
アリアが不満げに言うが、レンは彼女を強引に店内へ押し込んだ。
「アリア、君のその目つきの悪さ、どうにかしたほうがいい」 「うっ……。だ、だって見えないんだから仕方ないだろ! 眼鏡なんてかけてたら、激しい戦闘ですぐにズレるし、割れるし……」 「だから、それを解決するんだよ」
レンは店主に頼んで、丈夫なフレームの眼鏡を購入した。 そして、アリアにかける前に魔法をかける。
「――『状態固定・耐久』。さらに、『座標固定・相対追従』」
レンが施したのは二重の固定だ。 一つは、剣と同じく絶対に「割れない」強度固定。 もう一つは、アリアの顔の動きに合わせて、眼鏡の位置が常に一定に保たれる座標固定だ。これにより、どれだけ首を振っても、バック転をしても、眼鏡は顔に吸い付いたようにズレない。
「ほら、かけてみて」
アリアが恐る恐る眼鏡をかける。 その瞬間、彼女の碧眼が大きく見開かれた。
「……見える」
アリアは店内を見回し、自分の手を見て、そしてレンの顔を見た。 しかめっ面が消え、パァッと花が咲くような笑顔になる。
「すごい! 世界がくっきり見えるぞ! レンの顔って、近くで見ると案外かわいいんだな!」 「かわいいは余計だ。……これで誤爆の心配も減るね」
眼鏡をかけたアリアは、理知的な剣士に見えなくもない。中身は戦闘狂のままだが、少なくとも「睨みつけて喧嘩を売る」リスクは減っただろう。
「次はミリスだ」
レンは次に、ミリスが抱えている巨大な樫の木の杖に触れた。 ミリスは小柄で非力だ。この重い杖を持って走り回るだけでスタミナを消耗し、パーティの機動力を下げてしまう。
「『重力固定・無効』……いや、これは難しいな。よし、『座標固定・追従モード』だ」
レンは杖を空中に浮かせ、ミリスの背中から常に数十センチの位置に浮遊してついてくるように設定した。
「わっ! 杖が勝手に浮いてます!」 「手を離して走ってみて」
ミリスがトコトコと走ると、杖もまるでペットのように彼女の背後をフワフワとついていく。 これなら重量はゼロ。使う時だけ手に取ればいい。
「すごい……! これなら私、いくらでも走れます!」 「よし。これで二人の『生活面での欠陥』も解消だ」
レンは満足げに頷いた。 絶対に折れない剣と、絶対に割れない眼鏡を持つ最強の剣士。 リミッター付きで連射が可能になり、重い杖も苦にならない固定砲台。 そして、それらを支配する司令塔。
「さて、『銀翼』の初仕事といこうか」
レンたちは装備を整え、自信満々でクエスト掲示板の前に立った。 狙うはCランク相当の討伐依頼。 もはや、彼らに恐れるものなど何もなかった。




