試験開始(中盤〜ボス戦)
『試練の塔』3階層。 ここは「迷路エリア」と呼ばれ、複雑に入り組んだ通路と、無数の落とし穴や罠が受験者たちを苦しめる難所だ。 先行していた数組のパーティも、地図を片手に右往左往していた。
「くそっ、行き止まりか!」 「また罠だ! 解除班、急げ!」
そんな中、後発のはずのレンたちのパーティが、スタスタと歩いてくる。 レンは地図も見ず、真っ直ぐに「壁」に向かって歩を進めていた。
「おい、そっちは行き止まりだぞ」
親切な受験者が声をかけるが、レンは立ち止まらない。 彼は壁の前で足を止めると、背後のミリスに指を鳴らした。
「ミリス。この壁の向こうが最短ルートだ」 「はい、レンさん!」 「出力10%。……発射」
ミリスが杖を突き出す。 レンの『魔力固定』によって制御された赤熱の炎弾が、一直線に放たれる。
ズドォォォォンッ!!
爆音と共に、分厚い石壁が見るも無残に粉砕され、大穴が空いた。 向こう側には、4階層へ続く階段が見えている。
「な、なんだと!?」 「壁をぶち抜いた!?」
驚愕する受験者たちを尻目に、レンは冷静に天井を見上げた。
「崩落しないように、周囲の瓦礫と天井を『固定』。……よし、安全確保」 「さっすがレン! 話が早くて助かるぜ!」
アリアが瓦礫を蹴散らして先へ進む。 罠? 迷路? 関係ない。 道がないなら作ればいい。それが『空間の支配者』の流儀だ。 レンたちは呆然とする他のパーティを置き去りにし、最短距離を一直線に駆け抜けていった。
◇
開始からわずか30分。 レンたちは最上階である5階層のボス部屋の前に立っていた。 歴代最速ペースだ。
「準備はいい?」 「いつでも!」 「魔力、満タンです!」
レンが重い扉を押し開ける。 広大なドーム状の空間。その中央に鎮座していたのは、全身が鋼鉄で作られた巨像――『アイアン・ゴーレム』だった。 推定レベルは30。Dランク昇格試験の壁として、多くの受験者を絶望させてきた番人だ。
「ゴオォォォォ……!」
ゴーレムが侵入者を感知し、巨大な鉄拳を振り上げる。 だが、レンたちの動きは止まらない。
「作戦通りにいくよ。アリア、上だ!」 「応ッ!!」
レンが指を天に突き出す。 アリアが何もない虚空へ向かって跳躍した。 通常なら届かない高さ。だが、彼女の足元には、レンがコンマ一秒のタイミングで『空気の足場』を固定していた。
タッ、タッ、タッ!
アリアは空中に作られた見えない階段を駆け上がり、一瞬でゴーレムの頭上を取る。
「小賢しいハエめ!」
ゴーレムが迎撃しようと腕を振るう。 しかし、その動きはレンに読まれていた。
「ミリス、目くらまし!」 「はいっ! 『フレア・バースト』!」
ミリスが放った閃光弾がゴーレムの目前で炸裂する。 視界を奪われ、ゴーレムの動きがわずかに鈍る。 その隙に、レンはゴーレムの巨大な腕に向かって掌をかざした。
「そこだ――『空間固定』」
ガギィッ!!
振り上げられた鋼鉄の腕が、空中で強制停止させられる。 不自然に固定された腕は、そのままゴーレム自身にとっての「邪魔な障害物」となった。
「隙だらけだぜ、デカブツ!」
アリアが空中の足場を強く蹴り、重力加速を乗せて落下する。 手にした剣は、レンの『状態固定』によってダイヤモンド以上の硬度を与えられている。 狙うは脳天。
「断ち切れ――『流星斬り(メテオ・スラッシュ)』!!」
銀色の閃光が、鋼鉄の巨人を縦に走った。
ズンッ。
一瞬の静寂。 次の瞬間、ゴーレムの体が中心から左右にパカッときれいに割れ、轟音と共に崩れ落ちた。 鋼鉄をバターのように両断する一撃。 アリアは着地すると、無傷の剣を掲げてニカッと笑った。
「へへっ、レンの魔法があれば、鉄だろうが紙切れみたいだ!」
◇
塔の外。 試験開始から一時間も経っていない。 出口の扉が開き、レンたちが涼しい顔で出てきた時、待機していた試験官たちは我が目を疑った。
「お、おい……まさかリタイアか?」 「いや、見てみろ。あれは……」
レンが試験官の前に進み出て、討伐証明部位であるゴーレムの動力核を差し出した。
「試験終了です。確認をお願いします」 「ば、馬鹿な!? まだ一時間も経っていないぞ!?」 「そんなに早かったですか? まあ、壁を少し壊してショートカットしましたから」
レンは事も無げに言う。 試験官が慌てて水晶板を確認すると、そこには【攻略時間:48分】という、過去数十年で誰も出したことのない異常な数字が刻まれていた。
「……合格だ。文句なしのトップ通過だ」
試験官の声が震える。 周囲の冒険者たちも、もはや笑うことなどできなかった。 彼らは目撃したのだ。 「欠陥品」と呼ばれた者たちが、正しい「使い手」を得た時、どれほどの怪別へと進化するのかを。
「やったな、アリア、ミリス」 「おう! 最高だったぞ!」 「私、初めて……足手まといにならずに戦えました……!」
三人はハイタッチを交わす。 即席のパーティ? 寄せ集め? そんな評価は、今日この瞬間、完全に過去のものとなった。 これが、後に世界を救う最強パーティ『銀翼の奇跡』の、鮮烈なるデビュー戦だった。




