即席パーティ結成
昇格試験の当日。 会場となる『試練の塔』の前には、Dランク昇格を目指す十数組のパーティが集まっていた。 その空気は張り詰めている。 だが、レンたちが現れた瞬間、その緊張感は別の種類のざわめきへと変わった。
「おい見ろよ……あれ」 「うわあ、マジかよ。噂の『クラッシャー』と『一発屋』だぞ」 「それにあのFランク、最近調子に乗ってる『念動力使い』だろ? よりによってあの三人が組んだのか?」
クスクスという失笑と、憐れむような視線。 無理もない。ギルド内でも「組んではいけない地雷冒険者」のトップ2が揃っているのだ。まともな連携ができるとは誰も思っていない。
「……なんか、すげえ見られてるな」
アリアが不機嫌そうにド近眼の目を細めて周囲を威圧する。 その背中には、レンが新品で購入し、耐久固定を施したロングソードが背負われている。
「うう、帰りたいですぅ……」
ミリスはレンの背後に隠れ、杖を抱きしめて震えている。 レンだけが、周囲の雑音を無視して涼しい顔をしていた。
「注目されてるね。実力を証明するには最高の舞台だ」
そこへ、試験官を務めるギルド職員が声を張り上げた。
「これより特別昇格試験を開始する! 目標は塔の5階層にいるボスモンスターの撃破。制限時間は24時間! パーティとしての『連携』が評価対象となる。……では、解錠!」
重厚な石の扉が開き、受験者たちが次々とダンジョンへ吸い込まれていく。 レンたちも最後尾から足を踏み入れた。
◇
1階層。薄暗い石造りの通路。 現れたのは、Dランク相当の魔物『スケルトン・ソルジャー』の群れだった。 錆びた剣を持った骸骨が5体、カシャカシャと音を立てて迫ってくる。
「よし、一番槍はもらったァ!」
アリアが叫び、レンの指示も待たずに突っ込んでいく。
「あ、アリアさん待って! 射線が塞がって撃てません!」 「関係あるか! 私が全部斬ればいいんだろ!」
アリアは本能だけで動くタイプだ。味方の位置などお構いなしに剣を振り回す。 ミリスは杖を構えるが、アリアに当たりそうで魔法が撃てない。
「ええい、なら私が横から……『ファイアアロー』!」 「わっ、熱ッ!?」
ミリスが慌てて放った炎の矢が、アリアの髪を数センチかすめて飛んでいく。 スケルトンには当たったが、あわや同士討ちだ。
「バカ! どこ狙ってんだ!」 「アリアさんが動き回るからです!」
案の定、連携は最悪だった。 個人のスペックが高すぎるがゆえに、互いが互いの邪魔をしている。 レンはため息をつき、パン! と手を叩いた。
「そこまで。二人ともストップ」 「あ? 何言ってんだ、まだ敵が……」 「いいから下がって。……このままだと試験に落ちるよ」
レンの静かな声に、二人が動きを止める。 レンは残ったスケルトンたちの足元を『固定』して動きを封じつつ、二人の前に立った。
「はっきり言うけど、今の君たちはバラバラだ。ソロで戦ったほうがマシなレベルだよ」 「う……」 「でも、噛み合えば最強になれる。……だから、これからは僕の指示通りに動いてほしい」
レンはアリアの方を向いた。
「アリア。君の役割は『矛』だ。僕が『行け』と言うまで一歩も動くな。その代わり、ゴーサインが出たら何も考えずに全力で振れ。防御は僕がやる」 「……わかった。背中は任せる」
次にミリス。
「ミリス。君は『砲台』だ。僕が敵を固定して的を作る。君はそこへ、指定した出力で魔法を撃ち込め。味方の位置は気にしなくていい、僕が守るから」 「は、はいっ! 信じます!」
レンは二人を背後に配置し、再び前を向いた。 通路の奥から、追加のスケルトンと、オークの混成部隊が現れる。
「さあ、実験再開だ」
レンの瞳が、戦術家の色に変わる。
「アリア、前へ。――剣の耐久値、固定完了」 「おうッ!!」
レンの合図と共に、アリアが飛び出す。 今度は迷いがない。なぜなら、剣が折れないことを知っているからだ。 オークが鉄の盾を構えるが、アリアは減速することなくフルスイングで叩きつける。
ガギンッ!!
盾ごとオークの胴体が両断される。 恐ろしい切れ味。いや、質量と速度による破壊だ。
「右舷、敵3体。ミリス、出力5%で散弾!」 「はい! 『ファイア・バレット』!」
レンが敵の足を一瞬だけ『固定』して転ばせたそこへ、ミリスの放った無数の炎弾が吸い込まれる。 これまでは一発撃って終わりだったが、レンのリミッターのおかげで、正確無比な連射が可能になっていた。
ドガガガガッ!
炎の弾幕が敵を一掃する。 塵一つ残らない殲滅。 かつて「クラッシャー」と「一発屋」と呼ばれた欠陥品たちは、今、レンという「制御装置」を得て、完璧な殺戮マシーンへと変貌していた。
「……すごい」
アリアが自分の剣を見つめる。 ミリスが自分の杖を見つめる。 そこには、今まで感じたことのない「全力を出し切れる快感」があった。
「行こう。5階層なんて、散歩みたいなものだ」
レンが歩き出す。 二人は顔を見合わせ、ニカッと笑うと、頼れるリーダーの背中を追った。 「即席パーティ」? とんでもない。 これは、この塔を最短記録で踏破する、伝説の始まりだった。




