一発屋の魔術師
「……おいレン。本当にあいつを勧誘する気か?」
ギルド裏にある広大な訓練場。 その入り口で、アリアが嫌そうな顔をして足を止めた。 彼女の腰には、レンが『状態固定』を施した安物のロングソードが差されている。
「ルナさんの情報だと、火力だけはギルド随一らしいからね。一度見ておかないと」
レンが指差した先。 訓練場の中央に、一人の少女が立っていた。 栗色の髪に、大きな垂れ目。小動物のような愛くるしい容姿だが、その手には身長ほどもある巨大な樫の木の杖を抱えている。 ミリスだ。
「……いきます」
ミリスが震える声で杖を構える。 狙いは、20メートル先に設置された木製のカカシだ。
「我が魔力よ、炎となりて敵を討て――『ファイアボール』!」
初級魔法。魔術師なら誰もが最初に覚える、基本中の基本だ。 通常なら、拳大の火の玉が飛んでいくだけの魔法。
だが。
ドォォォォォォォォンッ!!!
詠唱が終わった瞬間、訓練場が閃光に包まれた。 火の玉ではない。それは、まるで太陽の欠片だった。 直径数メートルはある灼熱の奔流が、カカシどころか、その後ろの防護壁、さらには地面すらも抉り取って直進していく。
凄まじい爆風と熱波が、離れた場所にいるレンたちの髪を逆立たせる。
「な、なんだあれ!? ドラゴンのブレスか!?」
アリアが目を丸くして叫ぶ。 爆煙が晴れると、そこにはカカシの痕跡はなく、黒く焼け焦げた巨大なクレーターだけが残されていた。 そして。
「……きゅぅ」
術者のミリスは、白目を剥いて地面にパタリと倒れていた。
◇
「……あの、ごめんなさい。弁償しますから……」
数分後。 レンがポーションを嗅がせて目を覚まさせたミリスは、開口一番、涙目で謝罪してきた。 どうやら、訓練場を破壊して怒られると思ったらしい。
「いや、怒りに来たわけじゃないよ。すごい威力だったね」 「うう……またやっちゃいました。私、手加減ができなくて」
ミリスは膝を抱えて縮こまった。
「私の魔力回路、生まれつき『蛇口』が壊れてるんです。魔法を使おうとすると、全魔力が一気に流れ出しちゃって……。一発撃つと、魔力欠乏(ガス欠)で気絶しちゃうんです」
それが、彼女がどのパーティからも追い出される理由だった。 ダンジョンの中で一発撃ったら即・気絶。あとは荷物になるだけ。 しかも広範囲すぎて、狭い通路では味方を巻き込みかねない。
「だから、パーティのお誘いは嬉しいですけど……無理です。私なんかと組んでも、迷惑をかけるだけですから」
ミリスは悲しげに首を振った。 その様子を見て、アリアがレンに耳打ちする。
「おい、どうする? 確かに火力は魅力的だが、一発撃って気絶する砲台なんて、お守りが大変すぎるぞ」 「いや、逆だアリア」
レンの目は、原石を見つけた鑑定士のように輝いていた。
「蛇口が壊れているなら、外から『別の蛇口』を取り付ければいいだけだ」 「は?」 「ミリスさん、ちょっと失礼」
レンは跪き、ミリスの細い肩に手を置いた。
「え、あ、あの……?」 「魔法を使おうとしてみて。大丈夫、撃たなくていい。魔力を練るだけでいいから」
ミリスは戸惑いながらも、言われた通りに体内の魔力を循環させようとする。 その瞬間、いつものように暴走しそうになる魔力の奔流。 ダムが決壊するような感覚。 だが。
「――『魔力固定・出力1%』」
レンが呟いた瞬間、溢れ出しそうだった魔力が、ピタリと制御された。 レンの手を通して、体外へ出る魔力の「量」が物理的に固定(制限)されたのだ。
「え……?」
ミリスが目を見開く。 指先に灯ったのは、ライターの火のような、小さくて可愛らしい炎。 生まれて初めて見る、「制御された魔法」だった。
「これならどう? 気絶しないだろ?」 「う、嘘……。魔力が、暴れない……?」 「君の魔力放出量を、僕のスキルで強制的に絞ったんだ。これなら、あの極大魔法を100発撃ってもガス欠にはならない」
レンは手を離し、ニッと笑った。
「君は無能じゃない。エンジンが凄すぎてブレーキがついてないだけだ。……僕が君のブレーキになる。だから、一緒に来てくれないか?」
ミリスの大きな瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。 化け物扱いされ、役立たずと罵られてきた彼女にとって、それは初めての救いの言葉だった。
「……はい! 私でよければ、連れて行ってください!」
こうして。 武器クラッシャーの剣士。 一発屋の自爆魔術師。 そして、それらを「固定」して操るFランクの司令塔。
ギルド史上、最もアンバランスで、最も凶悪な「はぐれ者パーティ」がここに結成された。




