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街道の怪物

 カンカンカンカンッ!!


 早朝、冒険者ギルド『銀の羅針盤』に、耳をつんざくような警鐘が鳴り響いた。  それは、街に危機が迫っていることを知らせる「緊急招集」の合図だった。


「なんだ!? 魔物の襲撃か!?」 「スタンピードじゃないだろうな!?」


 眠い目をこすりながら集まった冒険者たちで、ロビーは騒然としていた。  その中には、いつものように依頼ボードを眺めていたレンの姿もあった。


「静粛に!!」


 ギルドマスター・グスタフの怒鳴り声が、喧騒を一瞬で黙らせる。  演台に立ったグスタフの表情は、かつてないほど険しかった。


「緊急事態だ。今朝未明、王都へと続く主要街道『北の交易路』にて、大型の魔物が出現した」


 グスタフが地図上のポイントを指し示す。そこは、食料や物資を運ぶ商隊キャラバンが必ず通る大動脈だ。


「被害に遭った商隊の生き残りによれば、敵は『キメラ』。……それもただのキメラではない。背中に甲羅を持ち、通常の刃が通じない変異種――通称『鎧砕よろいくだき』だ」


 その名を聞いた途端、ベテラン冒険者たちの顔色が変わった。


「『鎧砕き』だって!? あのユニークモンスターかよ!」 「推定ランクはC……いや、Bランク上位だぞ!」 「堅すぎて魔法も剣も弾かれるって話だ。俺たちじゃ無理だろ……」


 悲観的な空気が広がる。  それも無理はない。この街の主力であるBランク以上のパーティは、現在、遠方のダンジョン攻略遠征に出払っており、数日は戻らないからだ。  現在、街に残っている戦力は、Dランク以下の冒険者と、少数のCランクのみ。


「放置すれば、街への物流が完全にストップする。食料価格の高騰、薬品不足……影響は計り知れん」


 グスタフは重苦しい声で告げた。


「よって、ギルドは『緊急討伐クエスト』を発令する。参加条件はDランク以上、もしくはそれに準ずる実力を持つ者。報酬は金貨100枚を山分けとする!」


 金貨100枚。破格の報酬だ。  だが、誰も手を挙げない。命あっての物種だ。「鎧砕き」の悪名と、主力不在という状況が彼らを萎縮させていた。


「……誰もいないのか! このままでは街が干上がるぞ!」


 グスタフが焦りを滲ませた時だった。  人垣を割って、一人の少年が前に出た。


「僕が参加します」


 黒髪の少年、レンだった。  その胸にはまだ新しい「Fランク」のタグが揺れている。


「おいおい、Fランクが何言ってんだ?」 「死にに行く気か?」


 事情を知らない一部の冒険者が野次を飛ばすが、オーク討伐の噂を知る者たちは息を呑んだ。  グスタフはレンを見ると、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「……『それに準ずる実力者』が来たか。だがレン、相手は格上だぞ。勝算はあるのか?」 「あります。……硬い敵なら、相性は悪くありません」


 レンは背中のリュックに手をやった。そこには、大量の「鉄杭」が入っている。  防御力が高い相手? 関係ない。  レンの『固定』は、防御の上から物理法則でねじ伏せる力だ。


「それに、この街の飯が不味くなるのは困りますから」


 レンの軽口に、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。  それを見て、迷っていた数名のDランクパーティや、Cランクのソロ剣士たちが意を決したように声を上げた。


「……ちっ、新人に良いかっこさせたままでたまるかよ!」 「俺もやる! サポートくらいはできるはずだ!」 「数で囲めば勝機はある!」


 次々と手が挙がる。  レンの勇気が、停滞していた空気を動かしたのだ。


「よし! 討伐隊を結成する! 出発は一時間後だ、準備にかかれ!」


 グスタフの号令で、ギルド全体が慌ただしく動き出す。  レンは静かにギルドを出て、空を見上げた。


「キメラ……。複数の生物が混ざった怪物か」


 相手にとって不足はない。  これは、レンが初めて「自分のため」ではなく、「誰かのため」に戦う大一番となるはずだった。


 ――だが、レンはまだ気づいていなかった。  その討伐隊の末席に、金に困り果てた『あの連中』が、汚い欲望を抱いて紛れ込もうとしていることに。

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