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Fランク冒険者、誕生

「――それでは、こちらが今回の精算になります」


 騒動が落ち着いた後、ギルドの応接室で、ルナがトレイに載った革袋を差し出した。  ずっしりとした重み。袋の口を開けると、眩いばかりの黄金色が目に飛び込んでくる。


「レッドベアの素材買取金が金貨30枚。そして、『暁の牙』からの賠償金が金貨50枚。合わせて金貨80枚です」


 金貨80枚。  Gランクの荷物持ちが得ていた日給が銅貨数枚だったことを考えると、一生遊んで暮らせるほどの額ではないにせよ、数年分の日当が一瞬で手に入った計算になる。


「……夢みたいですね」 「現実よ。レン君が命がけで勝ち取った、正当な対価だわ」


 ルナは優しく微笑むと、新しいギルドカードを手渡してくれた。  そこには銀色の文字で【ランク:F】と刻まれている。


「おめでとう、レン君。これであなたは正式に、戦闘職の冒険者よ」 「ありがとうございます。……長かった」


 カードを握りしめる。  これでもう、誰かの荷物を背負って歩く必要はない。自分の意志で道を選び、自分の足で歩いていけるのだ。


 ◇


 ギルドを出たレンは、その足で街の武具店『鋼の槌』へと向かった。  懐は温かい。まずはボロボロの服と、錆びたナイフを新調しなければならない。


「いらっしゃい。……おや、見ない顔だな」


 頑固そうなドワーフの店主が、レンを値踏みするように見る。


「装備を一式揃えたいんです。軽くて動きやすい革鎧と、丈夫なショートソードを」 「ふむ。予算は?」 「金貨10枚までなら出せます」 「ほう! 坊主、いい金を持ってるな。なら、この『飛竜の革鎧』はどうだ?」


 店主の態度が一変し、奥から上質な装備を次々と出してくる。  レンは防御力と機動性を重視した黒革の軽鎧と、ミスリルが微量に含まれたショートソードを購入した。  これだけで見違えるほど冒険者らしくなった。


「あと、オヤジさん。相談があるんですけど」 「なんだ? 盾でも欲しいか?」 「いいえ。……『鉄の杭』が欲しいんです」 「杭?」


 店主が怪訝な顔をする。


「テント用のペグか? それとも吸血鬼退治でもするのか?」 「いえ、武器として使います。長さは20センチくらい。先が鋭く尖っていて、投擲とうてきに適したバランスのものを。……あるだけ全部ください」


 そう、レンが考えた新しい戦術。  それはスキル『空間固定』を最大限に活かすための、「使い捨ての足場」兼「弾薬」だ。  レッドベア戦ではナイフを使ったが、毎回武器を空中に固定して放置するわけにはいかない。安価で量産でき、回収できなくても惜しくない「何か」が必要だった。


「……変わった客だなお前さんは。まあいい、倉庫に建設用の余りが大量にある。安くしとくぞ」


 結局、レンは100本近い鉄杭を購入した。  かなりの重量だが、レベルアップした今の筋力なら問題なく持ち運べる。それに、いざとなればリュックの中身を『固定』して重心制御すればいい。


 店を出ると、すっかり夜になっていた。  新しい鎧の匂い。腰には新品の剣。背中には大量の鉄杭。  レンは夜空を見上げた。


「明日は、Fランクの初仕事だ」


 心臓が高鳴る。  不安はない。あるのは、自分の力がどこまで通用するのか試したいという、純粋な冒険心だけだった。


 こうして、荷物持ちの少年はいなくなった。  そして、後に『空間の支配者』と呼ばれることになる、一人の異端な冒険者が誕生したのだった。

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