神々に抗う人々 その11
作戦開始まで、20分の時間が与えられた。この20分で剣や槍を突き刺し、己を固定具とする17機のブレイヴァーは武装をすべて解除。追加装甲と追加ブースターを与えられて、急造品ながら耐久性と隕石に対して得物を突き刺し続ける持久性を手に入れた。突貫作業故、ほぼすべての作業員がこの17機につきっきりになった。
また、今前線に残って戦い続けている神威弐式、ソーサラー、ランチャーを駆っているパイロット達にも作戦内容が通達された。もちろんそれぞれに反応があったが、他の案を出せるような者が居る訳でもなく……作戦実行まで、ただひたすらにやってくる小型と中型の隕石をひたすらに破砕している。
そして、作戦実行者たちは……最後の杯を交わし合っていた。
「まさか、戦いの最中で酒が飲めるとはな!」「はは、まあ最後の一大作戦の前だ。これぐらいは許されるだろうよ」「ただ飲み過ぎるなよ。酔う為じゃなくて味わうために飲んでいるんだからな」
今から間違いなく死にに行くというのに、彼等には悲壮の色が一切ない。本当にただただ酒を楽しんでいるだけのようにしか見えない。一方で光は……悲しみを湛えた目で彼等の酒盛りを見ながら静かに酒を少しだけ含んでいた。こうして彼等の顔を見れるのは、これで最後となる。特にガレムとの付き合いがあっただけに、その友人を斬らねばならないという事実が、光の心に悲しみを深く落とす事に繋がっている。
(無論、この戦いではすでに死者が多数出ている。そんな彼らの死を悼まないわけではない。だが、まさか、友を贄としなければらない日がこうも突然やってくるとは。現実とはなんと非情で理不尽なのか)
そして、光の頬に一粒の涙が流れ落ちる。だが、作戦が始まってしまえばこうして悲しみにくれる事すら許されない。17機が己の命を楔として超巨大隕石に武器を突き刺して固定したら、即座に草薙の太刀の最大出力で超巨大隕石の目に沿っての無慈悲な一撃を繰り出さなければならないのだ。
そんな光を見たガレム達は──光の周囲に集まって、光の杯に酒を注いだ。
「あまりそう深く考えなくていいんだぜ。ガレムの言葉じゃないが、儂らは子や孫もいる。幾つもの災害を越えて長生きもできた。こっちに思い残す事はたった一つしかねえんだ」「子や孫がこれから元気で生きていける世界を残せるかどうか、それだけでな。ここを乗り切れば、少なくとも50年は平和がつづくだろ」
そう口にすると、豪快に笑うマルファーレンスの老兵たち。その笑顔には何の無理もない、まさに透き通った笑顔と表現するべきなのだろうか……誰が見てもただただ美しいとしか思えない素晴らしい笑顔だった。
「それに、あんたらが今日ここに居なければ、命を懸けて戦う事すらできなかった」「ああ、これほど戦士として悔しい事は無かったし、そして今こうして戦えるのは戦士として最大の喜びでもある」
また他の者が己の腹の中を素直に明かす。それにつられて他の者も口を開く。
「そして、この大一番で敵総大将の首を取りに行ける大役を任せられた。これこそ戦士にとって最大の名誉という奴だな」「ああ、まさかこうして一大決戦に役に立てる日が来るとはな……長生きはするものだ、先に逝った戦友に最高の土産話が出来るという物よ」
ニヤリと笑い、そして酒を口に運ぶ。光は、そんな彼らの顔を一生忘れまいと思った。一層心に刻んで生きようと改めて決意を固めていた。
「あいつら、悔しがるだろうな。そんな戦士の名誉の手本となる形での戦いをしたのか! と歯ぎしりするだろう」「だな、ここまで教本通りの戦士の誉を体現する戦いは1000年生きても出会えるものではない」
一方で老兵たちは皆楽しげに会話を弾ませている。戦いが始まるのが待ちきれない、そんな雰囲気である。
「新しい時代がやってきたな。それが見れただけでも、長生きした価値はあった」「ああ? 何言ってんだよ。長生きしてよかったのは可愛いお姉ちゃんたちにちやほやされたことだって前に言ってたじゃねえか。今更格好つけんなよ、似合わねえぞ」「なんだとぉ!?」
2人の老兵がにらみ合い、そしてほぼ同時に噴出して大笑いした。戦士として長生きする、それはここに集った17名がみなマルファーレンスの中でも抜きん出た猛者であることを意味する。ただ長生きしているのではなく『戦士として戦える』のだから。
「まったく、これだから女遊びを止められない奴らは」「お前、人のこと言えんのか? お前は散々賭けに興じすぎていつもひーひー言っていただろうが」「そう言うお前は酒で何度もやらかしてただろう? いい年して情けないと周囲から言われてたのを知らないと思ってか?」
やいのやいのと、いろんな話──暴露も多々混じる──が行われて笑い声がこだまする。いつしか、その笑い声に釣られて光も笑っていた。そしてそんな光の笑顔を見て老兵たちも満足そうにまた笑った。20分という別れを惜しむ時間は、こうして和やかに過ぎていった……
その一方で整備士達は残り時間に追われる地獄に対して、必死に作業を行っていた。突貫作業で17機もの機体を改造しなければならないのだから……ゲームやアニメの様に取り付ければすぐ完了と言う訳にはいかない。ましてや今回は、機体運用の想定にない装甲の上にさらに装甲を着せてブースターを増量し、押す力を極限まで高めるという話なのだからなおさら厄介である。
それを20分でやらねばならないのだから、整備士達は皆鬼のような形相で取り組んでいた。だが、文句があるわけではない。この17機に乗るマルファーレンスの老兵達は生きて帰ってこれない事を理解したうえで乗り込み、出撃する。その覚悟に敬意を払うが故に、文句だけは絶対にない。
各機体に追加装甲と追加ブースターを乗せるのに10分。そこから細かい調整を行うのに7分という異常な短時間で彼らは改造を完了させた。残り3分で一部機体のOSの書き換えなどが行われ、純粋な楔となって散る為の機体となる。
20分が経過した。楔となる17機+神威参特式は整備を終えて、いつでも出撃できるように配置されている。そこに、光やガレムを始めとしたこの作戦に関わる18名が姿を見せた。当然、パイロットスーツは着込んでいる。
「整備は完了しています。最終チェックもすべて終え、オールグリーン。いつでも出せます」「ご苦労、貴殿らの多大な貢献によって、私達は戦いに挑める。貴殿らに感謝を!」
光の感謝の言葉に、ガレムを始めとした老兵達が続いた。お互いに敬意を示しあった後、各自機体に乗り込んでいく。そうなれば、皆が先ほどまで語り合った人の好い笑みは顔から消え、敵を討つ戦人の顔となる。酒に酔っている筈の顔が一瞬で引き締まり、酒の酔いを戦いに向かう興奮が打ち消す。
『各自発進、あの超巨大隕石を討ち取って我々の勝利を確実なものとする! 行くぞ!』『『『『『応!』』』』』
武運を祈るといった言葉を光は使わなかった。今必要なのは祈りではなく、巨大隕石を打ち砕いたという結果のみ。その結果を願うのではなく自分達の力と意思によって取りに行く。そんな意思が彼に、そして彼らにあったからこそ17人の老兵も応えた。もう、光に刃を振り下ろす事に迷いはない。彼等と最後の酒宴で思いも含めて酌み交わしたのだから。
そして、老兵達にも悔いはない。ここで世界を護れれば後を託すに値する男の道を塞ぐ邪魔者を排除する事の手伝いができるのだから。再び星々の世界に飛びたった18機は、超巨大隕石に一直線に向かう。ヒューマントーカー作戦は、いよいよ大詰めの一戦を迎える事になる。勝つのは、人か、神々か。
(勝って見せる、そして理不尽を跳ね返すという人の意思を世界と神々に対して存分に見せつける!)
光はそんな思いを胸に、決戦の舞台へと神威参特式を走らせる。結果が出るのは一瞬だ、もう一度やり直しはない。世界の命運が、この18機に託される。
『現場に到着! これより超巨大隕石破砕作戦を始める! 勝つのは我々だ! 神がいるならしかと見よ、我々の意思と意地を!』




