神々に抗う人々 その10
熱線をばらまくように放ってくる超巨大隕石であったが、それでも連合軍の狙いを阻止するには至らなかった。複数のおとりで熱線を誘い、生まれた隙に剣や槍を打ち込んでいく。17か所全てに打ち込むまでにかかった時間は7分弱、被弾した機体はゼロ。これは超巨大隕石側が連合軍の意地に対する見積もりを見誤っていると言った所だろうか。
だが、そこからが上手く行かない。突き刺さったところに光が八咫鏡で熱線を跳ねのけながら神威参特式の草薙の太刀による一太刀を振るおうとする前に、隕石側は刺さった剣や槍を吐き出して該当部分を修繕してしまう。17か所すべてに突き刺す事にこだわりを捨て、一か所に差したらすぐさま行動に移ると、今度は熱線を神威参特式に全て集中し、時間を稼いで剣や槍を抜いてしまうのである。
(く、完全にマークされている! 他の機体が剣や槍を突き立ててもここまでの熱線による集中砲火は無いというのに! こちらの一撃をどうしても食らいたくないという意思表示なのは間違いないが、これでは此方の太刀が届かない!)
アタックをことごとく防がれた光は、内心で焦りを覚える。17か所に突き刺した状態で剣を振るおうとすれば、草薙の剣を振るう前に突き刺した剣や槍が引き抜かれてしまう。一か所づつ潰そうとすれば、熱線の集中砲火で、八咫鏡の護りを全力で使っても後ろに押し戻されてしまい、その隙に剣や槍を抜かれてしまう。
(あと一歩、いや二歩足りない! やるべき事は分かっているというのに、そのやるべき事に剣が届かない! ここまで拒絶するのだから、届けば恐らく、この隕石を叩き割れるはずなんだ! だからこそ向こうもこれだけ必死になっているのは間違いない!)
そんな思考になっている光をよそに、長門の分体から提案が飛ぶ。
「強化状態はあと一分しか維持できませんわ! ここは一旦引き、補給するのと同時にどうすればこちらの太刀が届くのかの話し合いを司令部と行うべきでしょう! あの超巨大隕石が星に落ちるまでにはまだまだ時間があります! ここは冷静になるべきです!」
長門の分体の言葉に、光は頷いた。確かに、このままでは埒が明かない。何らかの策を用意しなければこいつは叩けない。ならばここは一旦引くべきだと。
「一旦引いて、補給を行おう! 補給している間、この超巨大隕石をいかにして砕くかの策を立案する事を提案する! 如何か?」
光の言葉に、司令部やブレイヴァー、並びに近接戦に参加していた神威弐式のパイロット達も同意した。小型や中型隕石破砕の為に射撃戦闘をしている機体を残し、一旦宇宙ステーションへと帰還した。戻ってくれば当然待ち構えていた整備士たちの手によって各機体の簡単な整備に様々なエネルギー補充が行われる。
パイロット達は、司令部によって指示された大部屋の中へと集まった。そして、如月指令を始めとした司令部の面々も集う。全員が用意されていた椅子に腰を下ろし、前に進み出た如月指令が壇上に立つ形で話は始まった。
「全員集まっていますね、では時間がありません。あの超巨大隕石をいかにして砕くかの作戦立案を行います!」
如月指令の言葉に、この場にいる全員が頷く。
「まず、おさらいです。あの隕石には残念ながらソウル・ガーディアンである大和の攻撃は通じません。ですのでブレイヴァー、神威弐式、そして神威参特式による攻撃で破壊するしかありません。そしてあの超巨大隕石には目が存在し、その目に沿った17か所の剣や槍を突き刺せる脆い部分がある。ここまでは問題ありませんね?」
この言葉にも、皆が頷く。
「そして、その突き刺した剣や槍に対して各機体が攻撃を仕掛けましたが、より深く内部に押し込むことが出来ていません。特にパワー自慢なブレイヴァーの大型ハンマーを振るう機体であってもダメであった事はこちらも認識しています。唯一効果があると期待できるのが──光総理が動かしている神威参特式のフルパワーモードで振るう草薙の剣による一撃です」
現に、神威参特式のフルパワーモードによる一撃で大型隕石を一刀両断している。大和の攻撃が通じない以上、現時点で用意できる最大火力は間違いなく神威参特式の草薙の剣である。
「ですが、ここからが皆さんもご存じの通り、あの超巨大隕石は神威参特式に対して徹底的に拒絶する行動を行っています。そして、こちらもあの隕石に対して様々な計算を行った結果……あの隕石を叩き割る方法は一つだけ、17か所すべてに剣や槍を突き立てた状態で、神威参特式のフルパワーモードによる草薙の太刀最大出力で振りぬく。これしかありません」
これでまず、何をすればいいのかがハッキリした。ならば次は、それを成し遂げるためにどうすればいいか、という話になる。
「17か所全てに突き刺した状態か……しかし、いくら突き刺してもあのカムイサントクシキが剣を振り上げようとすると反応して、突き刺しておいた剣や槍が抜けてしまう問題をどうにかしないと成功する見込みはないぞ。そこをどうするか、何か手立てはあるのか?」
このパイロット側からの質問に……如月指令は唇を強く噛み、絞り出すような声でこう告げた。
「パワーのあるブレイヴァーに……全力で突き刺した剣や槍を抑えてもらいます……」
この一言で、全員が理解した。なぜそんな声色になったのかも。神威参特式のフルパワーモードで放たれる草薙の剣の威力やリーチは誰もが近くで見た。つまり、それから導き出される答えは──
「そうか……つまり最低でも17機。パイロットと共に隕石と一緒に斬られてくれ。そう言う事か……」
自衛隊員の誰かが、その現実を口にした。その言葉を否定する声は上がらない、つまりそれこそが唯一の手段であると残酷に、かつ冷酷にパイロット達に伝わっていく。だが、これは斬られる側も辛いが、斬る光の方も辛い。己が手で、殺したく無い仲間を斬らねばならないからだ。誤射などではなく、己の手で、自分の意思を持って。
「他の手段も模索しました。しかし、他の手段は……どれも成功する可能性は無いだろうという答えしか出ませんでした。無能な司令部と罵られても、文句は言えません……」
如月指令も、半分泣くような声でそう言葉を絞り出した後は泣き崩れるのを必死で堪えていた。そう、このような作戦しか出せなかった司令部もまた苦しかったのだ。すでに被害は相当に出ている、それでも彼らの戦いと死が無駄ではなかった証を立てるには、この戦いに勝って世界が護られる事。それを成し遂げるほかない。
誰もが押し黙り……そして、立ち上がった者達がいた。
「ヒカルの大将! その大役、俺達にやらせてもらいたい!」
そう口にしたのは、ガレム。立ち上がったのは彼を始めとした17人だった。皆年老いてはいるが歴戦の猛者たちである。
「ガレム!?」
その発言に驚いた光であったが、ガレムはゆっくりと頷いた後に言葉を続ける。
「俺達は、ここにいる面子の中でも一番の年寄りでさ。ヒカル殿には言い忘れていたが、実はあっしら17人は2000年以上生きてるんでさ。流石に今回の戦いが最後のお勤めになるだろうとこっちに立っている16人とは話し合っていたんだが……ここで最高の大一番がやってきやがった。だったら、逝く順番的にもあっしらが適任!」
2000年以上生きている、の言葉に光は心底驚いたが……周囲からは否定する言葉が上がらない。それは真実なのだろうと光はすぐに理解した。だが、ガレムは時に一緒に飯を食い、酒を飲んだ相手だ。そんな彼を、わが手で殺すのか? 光はそう考えて躊躇しそうになるが……そうなっては困るとばかりにガレムの言葉がさらに続く。
「大将! 大事な事を間違えるなよ! ここをしくじったらみんなが死ぬ! 護りたい世界が消えちまう! それを後17人の犠牲を最後にして被害が出ないように抑えるのが国の頭であるアンタの仕事だろう! それに、国には俺達の子供や孫が生きているんだ! 大将、俺達の命で大事な大事な、目に入れても痛くねえ可愛い子供達を護らせてくれよ! 頼む!」
ガレムの言葉が終わると同時に、ガレム他16人は全員が光に向かって深く頭を下げた。それを見て、光はもう何も言えなかった。彼らはもう、覚悟を決めたのだ。自分達の命と引き換えに、愛する人々と世界を護ると決めたのだ。ならばもう、引き止めるような言葉は彼らを侮辱する事になりかねない、と光は魂で感じ取った。
「──分かった、お前たちの命を貰い受ける。代わりに、お前たちの子供や孫達の未来は俺達が全力で護っていく! それを今ここで、俺の命と魂に誓う!」
──この光の一言にガレム達が了承した事で、17人の命と引き換えに世界を護る為の作戦が──失敗の許されない作戦が──静かに幕を開ける……




