神々に抗う人々 その6
光は連合軍から一定の距離を取った事を確認すると、神威参特式の専用コンソールを呼び出した。現れた8×8のキーが並んだコンソールを、決められた順番で叩いていく。神威参特式に付けられたリミッターを解除すれば、機体の能力は跳ねあがるがエネルギーの消費は激しくなり、更に搭乗者の魔力を吸うようになる。
なので、間違っても簡単に解除できないようにいくつかの手順を踏む様になっている。その第1段階がこのコンソールである。特定の順番にコンソールを叩く事がキーになっているのだ。光がコンソールを叩き終えると、入力確認、第2認証に移りますという機械音声が流れる。
「私は藤堂 光。神威参特式のリミッターを解除し、フルパワーモードへの移行を要請する」
光の言葉の数秒後……機会音声がチェック完了。生体認証、声紋認証。及び内容共に問題なし。残りエネルギーと同乗者の魔力残量を鑑みて、30分間限定でフルパワーモードに移行します。そう告げた瞬間、神威参特式は激しく発光した。発光が収まると、そこには赤と白が入り混じったオーラを纏う神威参特式がそこにいた。
『ヒカル殿、それは一体!?』「細かい話はあとだ! これからしばらくの間、私は少々の無理をする! その間にまだ生存しているパイロットと大破していない機体を宇宙ステーションに運搬してくれ! 早く!」
フレグの問いかけに光は吐き捨てるように返答を返すと、隕石群に向かって単独で突撃した。ある程度間合いを詰めた所で、フルパワー状態の草薙の剣を左から右に薙ぎ払うように降る。すると、草薙の剣から発せられるエネルギーの刃が、触れた小中の隕石をすべて溶解させたのちに爆散させた。
更に八尺瓊勾玉によるビットが隕石たちを消し飛ばす。一つ一つの勾玉が放つレーザーはまるで大きな川の様な奔流となり、隕石を宇宙のかなたに押し流して吹き飛ばす。そして隕石からの熱線による反撃は八咫鏡が受け止めるどころか反射して更に隕石を吹き消す。その神威参特式のフルパワー状態の戦いに、同じ場にいた人々は見とれてしまい、誰もが手を止める。
「早く動け! この状態は少々無理をしているから長く維持できない! だから早く動け! こちらが動けなくなる前に少しでも状況を立て直せ!」
一回の攻撃を行うたびに魔力が削られているので、今までの戦闘よりも光は疲労感を強く感じている。だが、ここは踏ん張りどころ。大和も副砲が立ち直った様で、支援射撃を飛ばしてくれるようになってきた。ここで何とかしてある程度連合軍の立て直しが図れないと、先の戦いが絶望的な展開になる。
だからこそ、光は神威参特式の切り札を切った。フルパワー状態はあまり使わないで欲しいと如月指令には言われていたが、状況を鑑みて、ここで使わないわけにはいかないと判断を下した。魔力回復の効果がある飲み物を少し飲みながら、隕石破砕を光は単独で行う。とにかく、機体が中破した人たちがパーツの交換や修理を受けて最前線に復帰できれば、まだ何とかなる。
だが、交換にしろ修理にしろ、それなりの時間が必要だ。ゲームの様に十数秒ドッグや基地に戻れば全快すると言う訳にはいかない。だからこそ、ここで何としても時間を稼ぐ必要がある。彼らが立ち直れば、フルパワーモードを終了して今度は神威参特式の補給に戻ればいい。そこから先は、今までと同じ感じでやれば……何とかなる。立て直ったところで神威参特式の補給が行えれば、再びフルパワーモードも起動できるからもしもう一度同じような事態に陥っても……
その様に考えながら、光は大和の支援を受けつつ小中の隕石を一人で破砕し続ける。そうして戦い続ける事10分弱。ついに、光が駆る神威参特式の前に先ほどの一斉射撃で唯一熱線を放たなかった大型隕石が迫ってきた。今の所大和の主砲で砕いてきた大型隕石であったが──光は神威参特式に、草薙の剣を正面に構えさせた。
「八百万の神々よ、今あなた方の力の一端をここに。人が振るうには過剰な力なれど、今は未来を切り開くため、国家の安寧の為……この力を振るう! 草薙の太刀・天閃!」
一応言っておくと、これも音声認証である。草薙の太刀の力を更に一瞬だけ魔力による補強で引き上げ、上段から一瞬で斬り裂く神威参特式の必殺技と言っていい一撃を使う為に、長い詠唱の様な認証を経ないと放てないリミッターがかかっている。そして、そのリミッターを外して放たれたその一撃は──
『『『『『『『おおおおおおおおおおお!』』』』』』』
連合軍の、そして如月指令を始めとした司令部の歓声が上がった。見事その一撃は大型隕石を真っ二つにし、切断面から融解させ、その後に大爆発を起こした。巨大なソウル・ガーディアンである大和の主砲でなければ砕けないと思われていた大型隕石を、たった一機の機体が斬り裂いて破砕して見せたのだ。特にマルファーレンス出身のパイロット達は盛り上がった。
『山とも思える隕石を、一機の機体が斬り裂いたぞ!?』『あれが、あの剣が持っている本気という物か!』『カムイサントクシキ、何という機体だ!』『日本皇国の神器を模して造られたという話だったが……納得がいくという物よ! かのような巨大な隕石を、たった一機で斬り伏せるとは……まさに神の一撃と呼んでも差し支え無かろう!』
通信越しでそんな会話が行われる。また、これにより多くの機体が被害を被った事で下がり気味だった士気が再び盛り上がり始める。中破した機体や無事だったパイロットを宇宙ステーションに送り届けるついでに補給を受けてきた戦士達は、俺達も続くとばかりに隕石の破砕に復帰。猛然と戦いを始めた。
一方で如月指令がいる司令本部も盛り上がっていた。草薙の太刀による一撃は、こちらの士気もまた大きく回復させ活力を与えていた。
(総理には感謝せねばなりませんね。フルパワー状態はあまり乱用して欲しくはなかった能力ですが、それ以上の成果を出してくださった。このままではまずいという空気が流れていた此方の状況も一変してくださったのはありがたいですよ)
分かりやすい希望の一撃、とでも言えばいいのだろうか。大型隕石すら一刀両断して見せた神威参特式の姿は、それほどまでに大勢の人の心を揺さぶり、希望を取り戻させるものだった。
(ですが総理、これ以上の極端な無茶は控えてくださいよ……安全なうちに終了して補給を受けつつ休息を取ってください。もしここで総理が落ちたら全体の士気にかかわる事になってしまいますから戦略的に辛くなりますし、個人的な考えでも総理には死んでほしくありません)
如月指令は一人、隕石破砕の最前線で戦い続ける神威参特式を見つめながら、両方の手を組み合わせ、祈るようにしていた。
『神威参特式に続け!』『今連絡が入った、生きてる奴は全員復帰できる! それまでは俺達がしっかりこの場を支えるんだ!』『俺達は終わっていない、作戦も失敗はしていない! ここからだぞ、お前ら気合を入れて戦いやがれ!』
各国の戦士達がお互いに声を掛けつつ、減った人の穴を埋めるべく奮戦していた。神威参特式の猛攻と、大和の副砲による支援もあるとはいえ……次々とやってくる隕石を後ろに逃さず戦い続けているのは十分に立派な戦果であると言えるだろう。ひっきりなしに飛んでくる熱線攻撃だって当然ある。だが、それらをすべていなしながら連合軍は戦っている。
それから更に十分後、比較的破損個所が修理しやすかった機体がちらほら前線に復帰し始めた。これにより前線はより手数が多くなり隕石の破砕速度が上がる。その状況を確認し、光は神威参特式のフルパワーモードを終了させた。オーラも消え去り、普段の神威参特式に戻る訳だが……パイロットの光はコックピット内でかなり荒い息を吐いていた。
「マスター、大丈夫ですか!?」「ああ、ちょっと予想以上に魔力を持っていかれたが問題はない。前線も落ち着いたようだし、今のうちに補給と休息を行うべきだろうな」「そうしてくれよ、このまま戦い続けるのだけは絶対ダメだ!」
長門の分体に光は返答し、その言葉を聞いて大和の分体は光の言葉に同意した。光はフレグに一度撤退して補給と休息を取ってくると断りを入れる。
『そうしてくれ。あれだけの戦闘をすれば相当な魔力を一気に浪費したはずだ。今は前線も建て直せているし、休息するにはいいタイミングだろう。それにしても……あのような隠し玉があったとは。私の機体にもこの戦いが終わったらつけてもらうか』
そうして光は神威参特式を宇宙ステーションに向けて発進させた。一時の休息を得るために……そして宇宙ステーション側も、光がフルパワーモードを使った事で神威参特式の消耗はかなり激しい事が分かっていたので、大急ぎで受け入れ態勢を整える。念の為、機体のチェックも行わなければならないからだ。
戦いはこうして中盤戦を越え、ついに終盤に向かってきていた。この時点でまだ、あと一つ大きな山がある事を、連合軍側は誰も知らない……




