12月19日
時間は過ぎ、それぞれが思い思いの形で過ごし、ついに19日を迎えた。光はすべての仕事の引き継ぎを整えたのち、再び宇宙ステーションへと戻った。いよいよ決戦の日は迫っている……神々の試練の到達予想時間は24日の午前8時17分であると、観測している技術者達から情報が上がってきており、すでに宇宙ステーションにいる戦士達全員に伝えられている。
今更おたおたするような人間はおらず、決戦の日と時間も決まったと言う事でむしろ落ち着いている。まあ、早く今までの歴史を塗り替えるべく戦いたいと闘志を燃やしている人は一定数存在するが。
そんな空気の中、光は個室でフレグと話をしていた。内容はもちろんヒューマン・トーカー作戦の最終確認。隕石がこう来たらこうする、と言った行動をあらかじめ定めておくことで、戦いの最中でも柔軟に動けるようにしておく。プランB? ねえよそんなもん! と言った会話が行われないようにする為でもある。
「ところでヒカル殿。貴殿の申し出に従って首都から離れた場所に神威弐式50基の配備を許可したが……あの機体は何をするのだ?」「あれはですね、最終防衛ラインをもし突破された時の最後の一手です。神威弐式専用の長距離砲撃を可能とする砲座に乗り込み、首都に落ちる前に消し飛ばすのですよ」
光の言う通り、マルファーレンスから大体100km程離れた場所に、神威弐式50機が配備され、超遠距離狙撃用砲塔、シヴァが20基運び込まれている。
名前はもちろん破壊の神シヴァからとられている。ただ、モノがでかすぎる事で設置しなければ使えない事。地面に固定しないと安定させられない事などの使い勝手の悪さがあったので、今回は宇宙では使えない。
そして神威弐式に乗っているのは、日本皇国の一般人の中でも選りすぐりの成績優秀者50人。狙撃能力に限定すれば、自衛隊員よりも上という面子で固められている。死亡確率は限りなくゼロに近いので、彼らが参戦することになった。
「それと、長門もマルファーレンス付近で待機させています。もちろんこれも最後の一手の為です。ソウル・ガーディアンとなっている長門の砲門が火を噴けば、並みの隕石など一瞬で消し飛ばされるでしょう」
光の言う通り、長門もマルファーレンス付近で臨戦態勢を取っている。そして分体は光と一緒に宇宙に上がっている。当然戦闘時には大和の分体と共に神威参特式のコックピット専用席に座り、光のサポートをすることになっている。
「ナガト……あの巨大なセンカンと呼ばれる船ですね? 我が国でも初めて見た者はみな、巨大な姿に圧倒されて言葉が出なかったあの船……あの船も戦ってくれるのは、非常に心強い話です。そして、この星々の世界ではヤマトという船が共に戦ってくれる手はずになっていると記憶しているが……」
フレグの言葉に、光は頷く。彼の言葉通り、星々の世界での戦闘には大和も参戦する。主砲は言うまでもないが、左右に付けられた副砲もすさまじい威力を発揮する代物へと変貌している。言うまでもなく、今回の作戦における主力の一つである。
「何もかも初めて尽くしの戦いだな。だが、絶望ではなく闘志に包まれて参戦できるのは……日本皇国の全ての人々のお陰である事は明白だ。代表者として、頭を下げさせてもらう。本当に感謝する」
フレグが光に向かって、深く頭を下げた。そのしぐさだけでも、どれだけフレグが日本皇国に対して感謝しているかが理解できるものである。
「後は、勝つだけですね。勝ってマルファーレンスの人々に、そして世界の人々に伝える義務が我々にはあります。絶望に打ちひしがれる歴史は終わり、我々の手で我々の世界を護れる歴史が幕を開けたのだと、そう伝えることが出来るまでがヒューマン・トーカー作戦です。我々は何としてでもやり遂げなければなりません」
光の言葉に、フレグもうなずく。そう、その歴史の幕開けを宣言し今までとは違うのだと国民に理解してもらうためにも絶対に失敗は許されない。失敗が意味する物は、今までよりもより深い絶望。これだけやっても何も成果を上げられなかったとなれば、どれほどの絶望が世界を覆って、それによる悪影響が出るか、想像するだけでうんざりする。
「ああ、やり遂げて見せるとも。歴史は塗り替えるものだ。今までは出来なかったことをこれからは出来るという感じに塗り替えるものだ。何より、それを人の手で成し遂げてこそ意味がある。歴史に出てくる偉人達も、こうだったのかもしれないな。塗り替えるために戦った偉人達も、その前はこのような形で自分自身を奮起させ、必死で不安と戦っていたのかもしれない」
誰もやった事のない事に挑む者は、奇人変人扱い……で済めばまだいい。時には攻撃されたり、時には宗教で裁こうとするものが現れる事が非常に多い。それらの困難に立ち向かいながら、自らの信じた未来のために前に突き進んだ。無論失敗したことの方が多いだろう。そして、失敗すれば周囲はそれ見た事かと大笑いしたり嬉々として裁いて殺したりもする。
だが、時代を変えたのものそれらの人物だ。そんな人物や信じて手を貸した僅かな人が技術を産み、常識を塗り替え、歴史を紡いだ。そうなると一転して天才だなどという言葉を使い、手のひらを返して褒めたたえる……そう言われた人はどう感じるのだろうか。見返してやったと笑うのか、それとも天才なんて言葉で片づけてくれるなと怒るのか、それともまた別の──こればかりは、経験しなければ永遠に分からないだろう。
「ですが、歴史という成功例がある事もまた事実です。ならばまた、成功したという歴史の一ページを我々で作りましょう。そして100年200年先で、ここで歴史が変わったのだと語り継がれるようにしましょう。参戦した人、協力した人、信じてくれた人、皆が胸を張れる結果を出しましょう」
光の言葉に頷こうとしたフレグだったが、ここで乱入者が入ってきた。
「そうじゃな。神々の試練を真っ向勝負で跳ね返し、胸を張れる結果を出す。そのために儂はこんな姿になったのじゃからなぁ。だが、それが現実になる一歩手前まで来ておるのは、色々と感慨深いものがあるモノじゃ」
入ってきたのは、かつて機体を作るために各種鉱物を採掘している時に出会った老魔術師のソウル・ガーディアン。彼もまた、自分専用の機体と共に宇宙に上がってきていた。共に戦うために。
ただ、過去の巨大な体から一部を切り離して人間サイズとして行動できるようになったために、宇宙ステーションの中にも入れる。初めて彼がこれを見た時は大はしゃぎしていたことを蛇足ながら書いておこう。
「儂もすべての魔力を使い果たしても構わんという気概で戦う。新しい歴史を作るための礎となることが出来るなら本望という奴じゃな。本来の寿命はとうに尽きておるし……こんな面白い世界が、神々の試練に負けて消えるなど、それこそ我慢がならんという物じゃよ」
ソウル・ガーディアンと言えど全ての魔力を失えば……その先にあるモノは消滅である。だが、それでもかまわないと老魔術師は言い切ったのである。かつて、己の全てをかけても僅かな場所を護る事が精いっぱいだった彼にとって、今回の作戦には並々ならぬ思いがあるのは言うまでもない。
「まあ、儂に限った話ではない。お主らには見えぬだろうし聞こえぬだろうが……数多の思いの切れ端が今ここに集ってきておる。世界に残った悲しみ、悔しさ、絶望、怒り……多くの人々の切れ端が集ってきておる。全ては、お主らが無念を晴らしてくれるのかを見届けるためじゃろうな。心するがいい、お主らは今を生きる者とこれから生まれて来る者だけではない。過去の人々の思いすら今背負っておるのだ」
だが、この老魔術師の言葉を聞いたところで臆するような心は、光もフレグも持ってはいない。むしろ、より闘志が湧きたつという物。
「ならば、多くの無念を抱えて散ったご先祖達よ、とくとご覧あれ。あと数日で歴史は塗り替えられる、我々の手によって! それを特等席にて見届けられよ!」
口にこそ出さなかったが、光も同じ意見であった。態度にこそ出さないが、心の中では無念を掃ってあげようと固く誓った。それから数日たって──ついに、全ての答えが出るその日がやってきた。
いよいよ、このお話も終わりがすぐそこまでやってまいりました。
1年以上筆が止まってしまっても見捨てずに見続けて下さった皆様には、あらためて感謝を。
それでは、あと少しだけお付き合いいただけると幸いです。




