1月12日
数日後、土産を携えて今度はフォースハイム連合国に向かう事になっている光。その移動を行うのは、何とフォースハイムの象徴であるフェルミナである。彼女曰く。
「私が直接動くことで、こちらの誠意を伝えたいからです」
との事らしい。そのフェルミナによる転移魔法で日本皇国からフォースハイム連合国に飛ぶ。フォースハイム連合国では家は大樹にらせん状に巻きつく形で作られており、これまた独特な風景を生み出している。木々の間には多くの橋が架かり、その橋の上にはいくつもの店が立ち並ぶ。そんな立体的な街が、フォースハイム連合国の一般的な光景だ。
「以前来た時も思いましたが、この光景はすごいですね……」
光の言葉に、フェルミナは微笑む。マルファーレンスやフリージスティから初めてやって来た人も、この木々の立体街を見て驚くからだ。
「ふふ、私達からしてみれば、日本皇国のビルという建物には驚かされましたからお相子ですね。木々に頼らずあれだけの高さを誇る建物を建てられる。しかも魔法の補強もなしに……日本皇国に派遣した兵士の皆さんも、初めて見た時は圧倒されたと言っていましたよ」
魔法による補助や補強が当たり前なフォースハイム連合国出身者達からしてみれば、日本に建っている各種ビルや清水寺などの建造物を見て驚嘆の声を上げるのも無理はなかった。自分達の常識をこうも打ち破る世界があったのか、と心を揺さぶられていた。じっくり見ていたいが、こちらの世界にやってくる前の日本は色々と騒がしかったので叶わなかった。
「なるほど、ところ変わればという奴ですか。こちらとしても、これから先はお互いの技術を交換して双方がより発展できるように協力し合えることを望んでおります」
光の言葉に、フェルミナはハッキリと笑みを浮かべつつ頷いて同意する。そんな会話を交えながら、光はフォースハイムの国会議事堂に当たる大集会所へ到着する。大集会所はフォースハイム一の巨木の天辺に配置されており、フォースハイムで一番高い場所にある建造物だ。フォースハイムの法により、これより高い場所に建物を建てる事は禁止である。
「ようこそお越しくださいました。フォースハイムは日本皇国の総理であるヒカル・トウドウ様の到着を心より歓迎いたします」
フォースハイムのファーストアークメイジであるティア・フレイブスが、光を出迎える。そのあと数人の重鎮たちが光と挨拶を交わした後に席に着く。光は案内された席に腰を下ろし、一歩引いた高い場所にフェルミナが腰を下ろして話し合いの場が出来上がった。
「本日はお招きいただき、誠に感謝いたします。本日は正式にフォースハイム連合国との国交の成立。並びに今後の事を見据えての話し合いの為にお邪魔いたしました。お互いに益がある場にいたしましょう」
光の簡単な挨拶に、フォースハイム側も礼をもって応える。こうして、正式な場での国交調印が始まった。
「こちらとしては、日本皇国との間に小難しい条件を付けるような事は考えておりません。日本皇国の方々の在り様については先んじて派遣していた多くの兵達から感想を聞いておりますし、我々と共にやっていける方々であると確信しております」
まずはフォースハイム側の言葉から場がスタートした。が、腹の探り合いなどはなく、フォースハイム側は日本皇国に対し、条件なしの国交成立を望む姿をみせた。これは兵士たちから聞いた日本人の性質と、日本と協力しない訳にはいかない現状という面から出てきた言葉だ。特に神威シリーズに乗った兵士からは『あのゴーレムこそが、我々が防戦一方から反撃に移るためのキーだ。絶対に日本皇国とは敵対すべきではない』とティアを始めとした政府の重鎮たちに繰り返し熱弁をふるった事も影響している。
「そうですね、我々日本皇国といたしましても、フォースハイムの皆様とは今後末永いお付き合いをして行ける事を望んでおります。ただ、しばらくはこちらの世界の常識に疎い我々ですので、そちらの機密に触れない範囲での魔法に関する知識が欲しいと考えております。もちろんこれは2年を切った神々への試練に立ち向かう為であり、我々が共に長く歩き続けることが出来るようにする為の要求となります。
光の言葉に、フォースハイム側の重鎮たちが顔をしかめる様な姿は見せない。これも神威シリーズをフォースハイム側の兵士が十全に使えるようにする為に必要な事であるという通知が通っているからである。
「ええ、その辺りはこちらとしても調整いたします。その代わり、と言っては何ですが、先に約束して頂けた例の話は日本皇国の国民の皆様に通達されたのでしょうか?」
ここでティアが出してきた例の話とは、一夫多妻、多妻一夫法案の話である。
「はい、その話ですが、すでに国民に私が直接通達いたしました。すでに複数の結婚予定の話が上がってきておりますので、そちらにも話がそろそろ届くのではないでしょうか?」
光の言葉に、フォースハイム側も満足そうな笑みを浮かべた。次世代を担う新しい命が生まれてくることが出来る、それは日本皇国の存在を知るまでは持てなかった希望。その希望がもう少しで現実となるのであれば、笑みを浮かべるのも当然のことと言えよう。
「そうですか、それはこちらとしても実に喜ばしい事です。こちらとしても出来る所は積極的に支援を行わせていただきますのでご心配なく。もちろん魔法の方も講師を日本皇国に向かわせ、授業を行わせるだけの準備が此方にはありますよ」
フォースハイム側の重鎮の言葉に、光も笑みを浮かべながら頷く。
「ありがたい話です。頂いたご支援は必ず2年を切った神々の試練の時に、絶望を砕く事でお返しいたします。また、フォースハイムの方々がより使いやすい神威のアッパーバージョンの開発もすでに進行しております。できるだけ早く試作機を作り上げ、フォースハイムの皆様の意見を取り入れつつ、神々の試練に間に合うように作り上げます」
光の言葉に、フォースハイム側も再び頷く。今回やってくるのはマルファーレンスの所にだが、その次は自分達の真上にやってこないとも限らない。だからこそ、使いやすい神威を手に入れる事はフォースハイムの魔術師兵達から嘆願が上がる案件の一つであった。その案件がこうして片付くのであれば、フォースハイム側としても喜ばしい事なのだ。
「その件に関しましても、こちらから兵を一定期間で交代させながら出兵させます。ぜひ例の巨人の調整を行う時の情報を得るために使ってください──むしろ、そちらに行きたいという兵が多くて困っておりますので、それなりにおきつい事をやらせても構いませんから」
ここで、ティアが少し頭を押さえながらそんな事を口にした。そして行きたいという兵が多いという時点で光も察する。マルファーレンスでもいたが、日本に滞在して日本の食事に胃袋を掴まれてしまった兵士の皆さんの心の声という事だろうと。人間、胃袋を掴まれるとかなり辛い。
「これは確認なのですが、その様に仰っている兵士の皆様がいらっしゃる理由はやはり食事が理由ですか?」
光の確認に、マルファーレンスの重鎮の一人が答えを口に出す。
「ええ、そうなのです。あれを食べたいこれをもう一回早く食べたいというぼやきが訓練の休憩時間に漏れているので。特にエダマメ、トウフ、ニクジャガ、ウナギと言った物の名前が上がりますかね。そしてそこにレイシュでくぃっとやるなんてある部隊長が言った途端、皆が頷く様で……」
──そういえば、まだ日本が地球に居た頃に冷酒で一杯やるという事がどういうことなのか分かってきたと発言していた部隊長が居たような。なんて事を光は思い出す。そうか、あの部隊長の出身はここだったのかなんて事を光は思いながら持ってきたお土産を取り出す。
「冷酒というのはこいつですね。マルファーレンスにお邪魔したときにも持ち込んだのですが、私達の国のお酒で日本酒と言います。量が少ないですが、お土産として納めて下さい。おそらく彼らがこれを口にした場所は、こちらでは居酒屋と呼ばれる場所だと思われます。ウナギはともかく、他は居酒屋のメニューに出て来そうな物ばっかりだったので」
光の説明を受けて、日本酒の瓶にフォースハイム重鎮達の視線が固定される。その視線がずいぶんと熱いものだなと光は心の中で苦笑する。
「ううむ、ヒカル殿。これを今晩の晩餐会で出させていただいてもよろしいか? お土産にすぐ手を付けるのは少々情けないかも知れないが、部下たちがああまで切望する酒とはいかほどの物なのかを正直知りたくもありましてな」
そんなフォースハイム重鎮の一人から出た言葉に、光は頷く。
「ええ、構いませんよ。マルファーレンスの方でも晩餐会にて試飲して頂きましたから、お気になさらず」
光の言葉に、笑みを隠せずに浮かべるフォースハイムの重鎮達。例外はティア一人。
「まったく、お酒の事となるとこうなんですから。ヒカル様、お恥ずかしい所をお見せいたしました」
そんなティアの言葉に、お気になさらずと光は返す。この後の調印式も無事滞ることなく済み、この日を持って正式に日本皇国とフォースハイム連合国との国交が樹立した。それからしばしの休息時間をおいて、晩餐会が幕を開ける。
世間はお盆休み、我が家はお盆大戦。この違いは何なのだ。




