第016話 女の世界は怨恨渦巻く混沌の世界
お久しぶりです。一年近く放置して申し訳ない。これから少しずつ更新していくのでまたよろしくお願いします。
その後、俺たちは葛城のパソコンを起動してHDDの中身を盗撮云々を無視してフォーマットしようとしたら、陸上部の部室以外にも銭湯やスポーツジムらしい更衣室での盗撮があった。これにより葛城が常習犯であることを知って「こ奴はおなごの敵ぢゃ!」と、女から最も遠いところに位置する女である玲が憤慨したので、落ち着かせる意味を込めて盗撮のデータをすべて現像し、それらを部屋中にばらまいた上で警察に通報してあげた。その後の葛城がどうなったかなど、朝刊を見れば明らかだ。
俺がパソコンをいじくっている時に玲に言われたんだが、俺がブッ倒した時に葛城から異能が抜けた形跡があったらしく、玲の見立てではどうやら過度の恐怖で抜けたらしい。陽菜に異能の滓がついていたのは、性欲が溜まりすぎて異能に取り憑かれた葛城の悪事に協力させられていたからということか。やっとつじつまが合ってスッキリしたよ。
朝に斑鳩さんから異能逮捕の知らせを受けた。そういえば異能の逮捕ってどんな感じなんだ? 無難に手錠か? それとも掃除機でゴーストバスター的な? いやでも機動隊の指揮官が源義経だからやっぱ逆落としとかしちゃうわけ? こう、大空から急降下する的な感じで。
まあなんやかんやでようやく、俺の懸念はあと一つだけになったよ。
「おいリョーマ、今日一日中殺人鬼みてーな顔してたけどなんか悩みでもあんのか?」
そう、あと一つに。
俺と嘉隆は教室を出て図書室と昇降口にそれぞれ向かっていた。嘉隆は今日はバイトがあるからさすがに付き添えず、イインチョは塾があるから先に帰った。
「ああ。まあ時間がすべてを決めるというか、俺が当事者ではない悩みだ」
「ふーん、あっそ。そーいやメシの時に陽菜がなんだか覚悟を決めたような顔してたけどなんかあった?」
「……お前ってなんていうか、バケモノじみた何かを持ってるよな」
「あ? どーゆー意味だよ?」
嘉隆が不可解そうに眉をひそめたが、すぐに何かを思い出したような顔をして、
「そーいやリョーマが教えてくれた秘奥義よー、あれサイコーだな!」
殴られまくってボコボコになった顔に笑みを浮かべた。
「うん……、お前ならやってくれると信じていたよ」
「おーよ! お前の説明通り演劇部に侵入して変身して前もって呼び出しておいた小鳥遊先輩の上から強襲してクルッポーって言って『魔王』を歌い出したらマジで気絶してくれたぜ!」
「それはよかったな」
「ただなー、そのままキャッキャグヘヘと洒落込もーとしたらまさかのキャッキャウフルボッコだったぜー……」
「ああ、嘉隆が同志であるファンクラブの会員たちから袋叩きに遭う映像が見てもないのにHD画質で脳内再生されるよ」
ていうか反省を活かせよ鳥姫様。まさかの鳥頭か?
「会長職を追われたが後悔はしてねーぜ。また耳寄りな情報を頼むぜ」
まさに一片の悔いもないといわんばかりの清々しい顔で、嘉隆はバイトのために学校を後にした。
今は放課後。つまり、部活の時間。つまり、懺悔の時間。
俺は陽菜の謝罪と玲のフォローがどうなるか気になって、見守るために図書館に行った。
大丈夫だろうか。陽菜の奴は頑張ると意気込んでいたが、気張りすぎて鼻息と一緒に鼻水も「ピフン」って噴き出していたし、肝心のフォローがあの玲だし不安だらけだ。
図書館についたら六法全書を持って席に座り、彼女らが部室に入ったことを見計らって集中を始めた。着替え中かもしれないからまずは聴覚からだ。
……よし、つながっ————
『テメェ何がしてぇんだよオラァ!』
『その汚ぇツラ見せろよクソが!』
『ママの子宮に還らせるぞこの(自主規制)が!』
こ、怖ぇ! いったい何がどうあって女子が(自主規制)とか言うんだよ!
【玲、ちょっと状況を詳しく教えてくんない!?】
【親父は黙って見とれ。これはおなごの聖戦ぢゃ】
とだけ言って念話を一方的に切られたので、仕方なく言う通りにして視覚をつなげた。
すると頭を深々と下げる陽菜が殺気を放つ部員たちに囲まれているという尋常ならざる風景が映し出され、思わずその緊張感にブアッと鳥肌が立った。
『テメェ自分が何やったか分かってんのかアァン!?』
『ごめんなさい』
『自分が女だからって盗撮が許されるとでも思ってんのかゴラァ!』
『ごめんなさい』
『変な性癖晒してんじゃねえぞキモいんだよ!』
『ごめんなさい』
『このクソが!』
ひたすら頭を下げ続けて静かに謝る陽菜が、横側にいた部員に腰を蹴り飛ばされ、体をくの字に曲げて倒れ込んだ。それに対して玲は近づいてから屈み、
『もう我慢の限界ぢゃ。お主らは何も分かっておらん。陽菜がどれほどお主らを売り渡したことに後悔していたか。誰にも助けを求められないことに苦しんでいたか。謝りたくても謝る勇気がなかったことに、どれほど苛まれていたか!』
『もうやめて玲。なんであろうと悪いのはアタシに変わりないわ』
二十は優に超える部員をたじろがせるほどに力強くまくし立てたが、それを陽菜が手で制する。
そして、
『ごめんなさい』
土下座をして見せた。よほど罪悪感を感じているのであろうことにこっちの胸が潰されそうになってしまう。
これにはさすがの部員たちも押し黙り、
『ワシからも頼むわい! どうか陽菜を許してやってください!』
陽菜に続くように玲も土下座した。
視界は床しか映っていないからよく分からないが、周りからは戸惑いを隠せずにさざめく音が聞こえる。
と、そこで。
『ちょっと。これはなんの騒ぎですの?』
部室のドアが開かれる音とともに誰かが入ってきて、そいつは人垣を割って二人の前に立った。土下座している玲の首の角度だとシューズと足首しか見えないが、
【この真珠のように滑らかで白い肌、富士山のように雄々しく荘厳なくるぶしは、まさか、小鳥遊先輩!?】
【親父、今は真面目な場面だから黙っちょれ】
『面を上げなさい』
小鳥遊先輩の凛とした言葉に導かれるままに二人が顔を上げると、そこには扇子を持って腕を組む小鳥遊先輩が凛々しく佇んでいた。
お手本のような無表情を二人に向けている小鳥遊先輩の、その圧倒的な存在感で部室外の俺を含む誰もが息を呑む。扇子を繰り返し小さく開いて閉じる音がやけに威圧感のあふれるもので、それを出せることが小鳥遊先輩が相応の風格を持っていることを示唆しているように感じた。……これマジで鳥頭姫?
『何をしているのか説明していただきましょうか』
足元の二人を睥睨してしゃべらせるように促す鳥頭姫。
『盗撮の件を謝っているのです。本当にごめんなさい』
自分の罪を清算するために深々と頭を下げる陽菜。
『ワシからもお願いするわい! どうか陽菜を許してください!』
友人を許してもらうために振り下ろすように頭を下げる玲。
三十秒。少なくともそれ以上の時間を全員が肌を刺すような緊張感に身を置いた。
『……まったく。さっさと謝ればよかったものを』
それを破ったのは、女子陸上部の長である鳥頭姫だった。
『部長、それって……』
『ちょっと待ってくださいよ! こんな奴を許すとでもいうんですか!?』
『お黙りなさい。もちろん条件があります』
鳥頭姫が二人と頭の高さを合わせるように片膝をついて、陽菜と目を合わせ、
『私は今まで陸上部の発展に尽力して参りました。それは部長になった現在も、OGになった未来でも変わりません。影宮さん、その発展のためにエースであるあなたにはより一層の努力で部員たちを盛り上げ、部の中心的存在となっていただきます』
次に俺……じゃなくて玲と目を合わせた。
『荒垣さん、数日見ましたがあなたは筋がいい。このままいけば私を超える選手となることも可能です。そこであなたには皆さんを追い上げて緊張感を生むカンフル剤となっていただきます。それで今回の件は水に流しましょう。皆さんもよろしいですね?』
そこまで言って周囲を見回すと全員が「まあ部長が言うなら……」といった顔をして、特に反対意見は出なかった。たぶん彼女たちもいじめをしていたのはあくまで惰性で、やるなと言われたらやらなかったんだろう。
『あなたたちもこれを呑めますね?』
『『は、はい! ありがとうございます!』』
『いいでしょう。ところで私は陸上部の発展のためにある人物を入部させたいのですが、皆さんはお知りになりません? その人物というのが人外のように足の速い鳥人げ————』
これ以上は野暮というものだ。俺はここで感覚のリンクを解いて席を立ち、窓際まで近寄った。見下ろせばグラウンドでは部活の準備でいそいそと動く生徒が、前を向けば傾きかけた太陽が俺を、そして世界を照らしていた。
よかったな、陽菜。よくやったよ、玲。これでようやく、最後の懸念が消えたよ。
安心したからかな、なんだか急に眠気が襲ってきたぜ。昨日は殺人鬼の名演技をしてて遅かったからなあ。家に帰るまで持ちそうにないし、図書館は放課後遅くまでやってるから、少し寝ていくか……————
感想お待ちしております。




