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ドリーム・ファンタジー  作者: ゆうぱむ
第二章 幻
10/25

6.出発

 窓から差し込む朝陽のまぶしさに、ソラは目を覚ました。

 見覚えの無い天井が見えた――が、ついいつもの癖で、パソコンデスクがあるあたりに手を伸ばして、眼鏡を探してしまった。

 もちろん黒い眼鏡もパソコンデスクもそこには、無い。

 徐々に頭がハッキリしてくると、ここが自分の部屋ではないことが分かって、

「夢――じゃなかったんだ」

と、ソラは落胆した。

「よぉ、ねぼすけぇ」

と、だみ声が聞こえてきた。

「今ころお目覚めかぁ。早く朝飯食っちまえよ」

 血圧の高いダイチが〝こん棒〟らしきものをブンブン振り回している。

「朝から元気だな……」

「おはようございます。良く寝られましたか」と、緑の紳士ジフォッグが現れた。行儀よくお辞儀をひとつ。

「朝ごはんができておりますよ。よければ出発前に召し上がってください」

「じゃあ……いただきます」

 ソラが食卓に座ると、ウミが朝食のサンドイッチをほおばっていた。

「おはよ、ソラ」

「おはよう、ウミさん」

 いつも朝食は食べないソラだったが、これから旅に出る――と考えれば、今のうちに美味しいご飯を食べておこう、と思った。ソラは食卓に並んでいたベーコンエッグが載ったお皿を手に取り、コショウらしき調味料を振りかけて食べた。

「おいしい」と、思わずもらす。

「おいしいね」と、何気なくウミも言った。

 会話するつもりで「おいしい」と言ったつもりではなかったので、ソラは一家団欒の朝食を囲んでいるような気分になり、急に恥ずかしくなった。

「どうしたの、ソラ」食事の手が止まっているソラにウミが尋ねた。彼女はさっさと何個目かのサンドイッチを口にしていた。

「まだ、寝ぼけてんじゃ、ないの?」

「ん、いや……。朝食を誰かといっしょに食べるなんて……なんか、久しぶりだったから」

「ふうん、そう……なんだ」と、ウミはソラを見て、

「昨日の夜も、みんなと夕食できて楽しかったね」

と笑顔でソラに言った。

「うん……。まぁ、昨日はいろいろありすぎて、頭が混乱していたけどね。ペガサスもとんでもなくチャラ男だったし……」

 ソラは苦笑いしながらスクランブルエッグをスプーンですくって口に入れた。

「おめぇら、まだ食ってんのかよ」ダイチが、どん、とソラの背中を叩く。ソラは面食らってむせてしまった。

「オレッちなんかよ、ジフォッグのオッサンから剣術を教えてもらっているんだぜぇ」

と、自慢げに手に持ったこん棒をソラたちに見せた。

 先ほど、ブンブンと振り回していたのは、どうやら剣士のまねごと、らしい。

 ゴリラから原人に進化したか。

「それは――良かったね」

 のどに詰まらせた食べ物を、水で流し込みながらソラが言った。

 ダイチは得意げに、えい、やぁ、とまたチャンバラを始めている。

「やる気、満々ね――彼は」

と、ウミも苦笑いした。

 朝食を食べ終わったころ、ジフォッグが3人の所にやってきて言った。

「では、出発前に簡単に旅のプランを申し上げます」と始めた。

 ダイチが、よぉっ、とオヤジばりに拍手したので、ソラもついつられて軽く拍手してしまった。ウミが「おバカ」と2人を冷たく言い放った。

「昨晩も申し上げましたが」と、咳払いしながら緑色の案内人は言葉を続けた。

「初日の今日は、まず近くのソソ村に参ります。旅の道中、ペガサスさまに手助けしてもらうために〝黄金の手綱〟を入手することが目的です。

 その後は、一路、西に進路を取ってドゥポンゴールド城へ向かいます。それには、最初に森を抜けなければなりません――」

 ジフォッグの説明は長くなりそうなので、割愛して順路を並べると次の通りだ。


①ソソ村、で黄金の手綱を手に入れる

②クングースカの森、を抜ける

③キリカリ山脈、を越える

④シーブードゥーの大沼、を渡る

⑤ドゥポンゴールド城、で魔王ドゥポンと対決


 ……以上、約7日間の行程――提示された期限ギリギリの旅のプランである。

「森に山に沼……か。けっこう長ぇな」

 少しテンションが下がるダイチ。

「ドゥポンの魔力を無効化できる〝無常の果実〟の情報も、常に収集しながら旅を進めて参ります。ありかが分かれば、行程を変更してでも入手に向かわなければなりません。

 ――約束の期日はあと7日です。

 決してたやすい旅ではございませんが、伝説の勇者の方々なら、必ずや成し遂げていただけると信じております。わたくしも、非力ながら力添えいたしますので、心して挑んでいただきとう、ございます」

と、深々とお辞儀をした。

 子供たち、まばらに拍手――大人に気を遣う年頃なのだ――。まるで選挙当日の街頭演説のようにこっけいで、ソラは笑いをこらえた。

「ドゥポンを倒して、マリアンヌ姫を助け出して――

 そうすれば現実の世界に帰ることができるのよね」

と、ウミは念を押した。

「クリアしたら、オレのこの毛むくじゃらの格好も元に戻るんだろうな」と、ダイチ。

「ま、この世界ではこのままでもいいんだけどよぉ」

「すっかり、元通りにございます」

と、再びお辞儀するジフォッグ。

 そうなのだ。

 とにかく、やることやらないと現実の世界に戻ることはできないのだ。

「それにしても」と、ソラが言った。

「この世界のこと詳しいよね、ジフォッグ。まるで全部行ったことがあるみたい……」

 軽い気持ちで尋ねただけなのだが、ジフォッグが押し黙ってしまった。

「そりゃそうだろ、ゲームん中の案内役なんだからよぉ」

と、ダイチが助け舟を出したので、ジフォッグも、

「はい、全て人から聞いた話を参考にしている設定、でございます」

と、落ち着き払って、ソラにお辞儀した。

 ソラには、弁解じみた口調に聞こえた……。


「日沈む、暗黒の国ドゥポンゴールドへ……ッ、――いざ行かん!」

 ジフォッグの掛け声とともに、4人一行は朝焼けのサルマリア城を出発した。

 誰ひとりからも見送られることのない、密かな旅立ちだった。


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