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ドリーム・ファンタジー  作者: ゆうぱむ
第二章 幻
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5.旅前夜

 ソラたちは宮殿の離れに案内されて、そこで豪華な夕食を食べた。

 子羊や山羊のステーキ、こんがり焼いた黒豚のベーコン、季節の山菜、果物やらケーキなどをたらふく食べて、今では皆すやすやと眠り込んでいる。

 ――国王からは準備金として2万リアを手渡された。

 「1リア10円だから……」と頭の中でまた円換算してしまう。別段、自分たちの世界に持って帰ることもできないので、面倒な反射反応だ。

 ほかに3日分の水と食料を与えられ、用意してもらった自炊道具もまとめて、すでにこの部屋の隅っこに積み上げている。しかし長い旅路の道のりを、こんなに多くの荷物を持って歩くのは大変だろう……。

 4人で食卓を囲みながら、

「この大荷物を運ぶ馬があればさらに良いのですが」

と、ジフォッグが珍しく苦情を言った。

 彼だけは成人なのか、長細い指をグラスにからめて赤いブドウ酒を傾けている。

「馬が一頭でもいれば、その背中に荷物を乗せて歩くことができるのですが……」

 ウミやダイチが食事の手を止めて、ソラをジッと見る。嫌な予感がして、ソラは口にほおばっていたプディングケーキを一気にゴクリと飲み込んだ。

「いるじゃん、馬、なら」

と、ウミがイタズラっぽく言った。

 やっぱり――と、ソラは思った。

 彼女は伝説の白馬ペガサスのことを言っているのだ。

「そうだ、ソラ。ペガサスがいるじゃねぇか。

 あれも一応〝馬〟だろ。召喚してみろよ、今すぐここで」

と、まるで近所のオヤジのようなダイチ。

「ほう、ペガサス――ですか」

と、ジフォッグもしらじらしい。このゲーム世界の案内人のくせに。

 ご飯もたらふく食べたし、今日の所はゆっくり寝てしまいたかったが、ほかの3人からの注目を浴びて、むげに断ることもできなかった。

 ソラは素直にペガサスを召喚してみることにした。

「〈ナソール・ダ・ペガサス〉」

と、恥ずかしそうに小さな声で唱える。

 部屋の天井が黄金色に輝く――まばゆい光のトンネルをくぐって、白銀の翼を背負った伝説の白馬ペガサスが舞い降りた。

 皆が注目を集める中、〝彼〟から衝撃のひと言が発せられた。

「――やだね」

 子供たちは自分の耳を疑い、食事の手が止まった。

 ジフォッグもワイングラスからブドウ酒をこぼしそうになった。

「もいちど言うよ」と、かまわずペガサスは言った。

「そんな重そうな水や食糧が入った皮袋や調理具をボクの背中に乗せるなんて……まっぴらゴメンだね。僕は神聖な馬なんだ。そこいらの荷馬車の馬といっしょにしないでほしいね――で、用はそれだけ?そんならボクは帰るよ。今日は女神アルテミスさまが催す晩餐会に呼ばれているんだ。じゃ、急ぐから」

と、早々に白銀の翼をはためかせ、飛び立とうとする。

 慌ててソラは「ちょ、ちょ……、ちょっと待って」と、白馬を引き止めた。

「ぼ、僕は……君のあ、あるじ……じゃないの?」

「たしかに、あなたは僕のご主人さまですよ」

 ペガサスは部屋の隅に置かれた大量の荷物を横目に見た。続けて濃いブルーの瞳を眠そうに細めて、「でもあんな荷物は運びたくないッス」とチャラ男的な捨て台詞。

「で、でも……そうだ、せめて人間を――ボクたちを乗せていってよ」

「ご主人さまはまだ、〝黄金の手綱〟を手に入れてないッスよね?」と、ぶっきらぼうにペガサス。

「僕はアレが無いとやる気が起きないんだよなぁ……」

 ゲームの中でもベレロフォンは〝黄金の手綱〟でペガサスを操っていた。

「アレがなけりゃ……話はこれで終わりってことで。――じゃ、さいなら」

と、また背中を向けて飛び立とうとする白馬を、ソラが再び引き止めるように聞いた。

「その黄金の手綱って、どこにあるの?」

 面倒くさそうに白馬が振り返る。彼は早く〝晩餐会〟に向かいたくて、イライラしているようだが、ご主人さまの質問だ。答えないわけにはいかない。

「黄金の手綱は――このサルマリア城からほど近い〝ソソ村〟にあるみたいッス。

 〝エクトール・ガント〟っていうちんけな居酒屋の店主が持っているらしいッス」

 そう答えると、ペガサスはぶるぶるっとたてがみを震わせて、

「あの手綱を見ると、この広い空を思いっきり気持ちよく駆けることができるんだよね」

と、興奮する。

 ペガサスがテーブルの奥の席にいるジフォッグをチラリといぶかしげに見たような気がした――が、すぐに目をそらして、

「じゃ、黄金の手綱が手に入ったら、また呼んでねぇ~~~」

と、チャラい言葉を残して、あっという間に空高く、白馬は飛び去ってしまった。

「なんだ、あいつ。ぜんぜん役にたたねぇじゃねぇか」

と、ダイチは骨付き肉を食いちぎった。

「でもペガサスがいれば、〈ヴァ・キュラス〉が使えるじゃない」

と、ウミが言った。

 ベレロフォン――ソラの最終奥義のことだ。

「そのためには、まず黄金の手綱を入手しないと……。

 えぇっと、ソソ村って言ってたわね。ジフォッグ、そのソソ村ってどこにあるの?」

 白魔導士の少女が、緑色の案内人に尋ねる。

「サルマリアから西へ、徒歩かちで3時間くらいの場所にあります」

と、ジフォッグは答えた。

「じゃ、ちょうど通り道じゃない?」

「でもよぉ――」と、ダイチが横やりを入れる。

「ソラの最終奥義で本当にドゥポンを倒せんのかよぉ。最期まで見たこたぁねぇし……」

「無常の果実を入手できれば、一番安心なんだけど」

 当人のソラも言った。

「では――」と、小人族はワイングラスをテーブルに置いて言った。

「明日はまず、黄金の手綱を手に入れるため、ソソ村に向かいましょう。荷物は重いですが……仕方ありません。皆で手分けして運ぶことにしましょう。食べ物や水は嫌でも減ってゆきます。すぐに軽くなりますから。

無常の果実の正体やありかは、旅の道中に情報収集しながら、なんとかドゥポンゴールド城に到着するまでに、入手いたししましょう」

 緑色の保護者からの演説が終わると、3人の子供たちは、

「はーい。異議な~し♪」

と、明るく答えたのだった。


 ――暗くなった部屋の中で小人族のジフォッグだけは目を覚ましていた。

 明日からの旅に緊張しているのか……?

 彼は充分に時間を置いてから、むくりと起き上がり、釣りあがった大きな目で周りを見回す。子供たちが寝静っていることを用心深く確認しているようだ。

 もう大丈夫、と思いながらも、もう一度ソラたちの寝顔を食い入るように眺め回す。

 ダイチが「もう……食えねぇよッ」と寝言を言ったときは、ビクっとしたようだったが、ようやく決心して、すっくと立ち上がった。

 長細い節くれだった手足を蜘蛛のように交差させて、音を立てないようにゆっくりと部屋の扉を開けた。

 上弦の月光に緑の肌を照らしながら、彼は外の闇に消えて行った……


 どんな光も抜け出せないような深い闇に包まれた世界――

 野生の動物はもちろん、草や木も生えていない死の世界……腐りきった水棲の植物が湿地に横たわっている。

 底なしの大沼が広がり、そのまっただ中に孤立して薄汚れた古城――ドゥポンゴールド城がそびえていた。

 円形の主塔がそびえたち、幾つかの尖塔が配されている。

 全ての窓に明かりは無く、月の光も吸収されてただの黒いガラスにしか見えない。

 その中の鉄格子をはめられた窓の部屋に、マリアンヌ姫は監禁されていた。

 黒い石の壁、黒い石の床、黒い石の天井に囲まれた部屋であったが、彼女は手厚く扱われており、木のテーブルと椅子、そしてふかふかのベッドが用意されていた。

 サルマリア王国を手中に収めたいドゥポンにとっては、重要な人質であると同時に、7日後には自分の妻となる大切なフィアンセでもあるわけだ。

 泣き疲れた様子の姫はベッドに寄りかかるように倒れていた。

 彼女は白いドレスの胸元に見える金のネックレスに手を添える。ネックレスにはハート型の林檎を象ったリングが通してあり、姫はその細く白い指で、そっと握りしめた。

 マリアンヌ姫が囚われている部屋の階下に、魔王ドゥポンの玉座の間がある。

 玉座の間も例に漏れず、暗闇に閉ざされていた。

 その暗闇の中で大きな影――高い天井に届くほどの巨体がうごめいていた。

 それは、大蛇の如くとぐろを巻いて直立している魔王ドゥポンの毒々しい体だった。

 筋骨隆々とした上腕と胸の上には人間を思わせる頭部が乗っているが、顔色はどす黒く、髪の毛も無数の蛇で渦巻いていて、とても人間には似ても似つかない。

――あの……いまいましい……無……常の果実……ッ

 耳の辺りまで裂けた口を動かしながら、ドゥポンがうめいた。

――伝……説の勇者の手に……渡らぬよう……しっかり……見張るのだ……ぞ


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