第27話 朝の仮の名前
外へ出て最初にしたことは、毛布を選ぶことだった。
職員が青と灰色の毛布を広げ、どちらがよいか尋ねた。ナギは違いが分からず、少し迷った。迷っている間、職員は次の質問をしなかった。
ナギは青を選んだ。
冷たさを感じる体に、毛布は温かかった。それだけで、外の朝を始めてもいいのだと思った。
征一は別の車へ案内された。ここで何が決まるのか、ナギには分からない。罰を受けるのか、研究所がなくなるのかと聞くと、外部担当者は、調べて決めることだと答えた。
すぐに全部が終わるわけではなかった。それでも、ナギを連れ戻すための指示を、征一が一人で出せる状況ではなくなっていた。
晴は折りかけの家を膝に載せていた。紙が折れるほど強く握っていたらしく、片側がつぶれている。
「屋根、あとで一緒に調べよう」
ナギが言うと、晴はうなずいた。そのあと、ポケットから黄色い髪留めを出し、家の中へ置いた。
誰の物か尋ねられて、晴はミナのだと答えた。六人について、まだ何か分かるかもしれないと、担当者は記録した。同じ人として戻せるとは言わなかった。
ハチは運搬台の上で眠っていた。電源が落ちているだけだと聞いても、ナギは表示がつくまで不安だった。ユノの右腕にも、応急の固定具がついている。
外の保守担当者は、必要な部品を調べるため、二体の記録を確認した。ナギはユノの横へ立った。
「触る前に、何をするか言ってあげて」
担当者は少し驚いたあと、ユノへ向き直って説明を始めた。
ユノは通常の応答を返した。何を感じたかは分からない。それでも、説明してから触れられたことを、ナギは見ていた。
三か月のあいだ、ナギは仮の保護先で暮らした。
ここでは窓が開いた。すぐ外にある建物の壁しか見えない日もあったが、同じ鳥が同じ場所を飛ぶことはなかった。雨の日は雨のままで、晴れに直す人はいなかった。
晴たち八人は、体の状態に合わせて別の部屋や施設へ分かれた。全員で会える日も、会えない日もあった。充電、診察、聞き取り。自由な暮らしには、思っていたより多くの予定があった。
ナギは何度か夜中に目を覚まし、自分の名前と、昨日したことを紙に書いた。書かなくても覚えている日が増えてからも、紙は捨てられなかった。
追加で開示された製造記録には、ナギという呼称を選んだ理由もあった。穏やかで、家庭を乱さない子。その期待は引き受けたくなかったが、名前を残すかどうかは、すぐには決めなかった。
記録の調査は続いていた。澪も律子も、呼ばれるたびに出向いた。署名した範囲の責任を、夫の指示だけで済ませる説明は認めなかった。
ナギは二人へ会わない週を作った。連絡が来ても、返事をしない日があった。何も消されず、翌日も同じ体で起きられる。そのことを、何度も確かめる必要があった。
ハチは二週間後に戻ってきた。ブラシは真っすぐになっていたが、角の欠けた箱はそのままだった。ナギの持ち物を返したあとも、部屋の端で、何かを預かるように待っていた。
ユノの修理には、もう少し時間がかかった。戻ってきたとき、右腕だけ色が少し違った。
「分かる?」
ナギが腕を指すと、ユノは答えた。
「部品交換の履歴は保持しています」
忘れていないという返事に、ナギはうなずいた。
四か月目の住まいを決める日、澪が面会に来た。以前の職場を離れ、小さな部屋へ移ったという。ナギと暮らす場合に必要な支援と、保守の契約について、支援担当者と何度も話し合っていた。
同時に、ナギには別の選択肢も用意されていた。晴たちと連絡を取りながら暮らせる、少人数の支援住宅だった。澪と同居しなくても、会い続けることはできる。
澪は二つの資料を、同じ向きに並べた。
「一緒に暮らすことを、私からも望んでいます。でも、あなたが別の場所を選んでも、連絡を断つ理由にはしません」
ナギは、その言葉が今夜の脱出と引き換えではないことを確かめた。三か月のあいだに、約束を守った日も、うまく話せなかった日もあった。その時間の上で、澪は話していた。
ナギは青いボタンを机へ置いた。保護先で教わって、自分で小さな袋へ縫いつけたものだった。
出てきた夜には、帰る場所を選べなかった。今日は、その続きを決められる。
【選択】
・支援を受けながら、澪との暮らしを始める。→第29話へ移動
・支援住宅へ移り、澪とは別々に暮らしながら関係を続ける。→第30話へ移動




