第25話 扉の外の声
通用口の手前には、二枚の扉があった。
内側の扉が開くと、外側が閉じる。二枚の間で、搬出する物を確かめる仕組みだった。ナギたちは運搬台を二つに分け、順に通すことになった。
外から、人の声が聞こえた。名前を確認する声と、こちらへ届くように少し大きくした返事。研究所の放送とは違い、何度か言い直す声だった。
ナギはそれだけで、扉の向こうが本物の外だと思えた。
最初の運搬台には、晴を含む四人が乗っていた。律子がついていき、外側の扉が開く。白い服の職員が、台を受け取る姿が見えた。
晴が振り返った。
「ナギは?」
「次に行く。そこにいて」
約束してから、守れなかったらどうしようと思った。それでも、何も言わずに離れることはできなかった。
二つ目の台をユノが押したとき、搬出画面が赤くなった。
『納品登録との競合。対象NG-04を保留』
ナギの足元だけ、床の線が赤く光った。出生の予約は、まだ取り消されていなかった。
澪が端末を操作する。公開された保全番号を入れても、画面は同じ警告を返した。外部の処理と、内部の古い手順が、別々に動いている。
背後から征一が来た。
「だから、手順をまとめる必要があると言ったんだ。こちらへ戻せば、解除できる」
その横で、回収機が腕を持ち上げた。ナギは、痛めた手首を胸へ寄せた。
ユノが前へ出た。
「対象の安全な引渡しを実施中です。保全通知が受理されています」
「現在の所有者登録を優先します」
機械同士の声は平らだった。どちらも怒ってはいない。けれど、ナギの体は、何も考えずに逃げようとしていた。
回収機の腕が伸びる。ユノが受け止め、肘の部分で鈍い音がした。白い外装が少し浮き、細い破片が床へ落ちた。
ナギは足を止めた。
「ユノ」
「近づかないでください。いまは、離れるほうが安全です」
ユノの右腕は、途中で動かなくなっていた。それでも左手で、回収機との間に距離を作っている。
澪が征一へ向いた。
「取り消して。公開通知を確認したうえで回収を続けていることも、記録されます」
外側の通話機から、担当者が同じ内容を告げた。征一は壁のカメラを見た。ナギには見えない誰かへ、自分がどう映るかを計っている顔だった。
ようやく、征一が認証を入れた。
赤い床の線が消え、回収機の腕が下がった。機械は誰にも謝らず、元の位置へ戻った。
ナギはユノのそばへ行こうとして、今度は自分で止まった。先に、外の職員へ状態を伝える。ユノがさっき言った安全な距離を、守ることにした。
二つ目の台が扉を抜けた。ナギも歩き出そうとして、ハチが来ていないことに気づいた。
振り返ると、持ち物の箱を載せたまま、充電不足で止まっていた。表示は暗く、曲がったブラシが床に触れている。
「ハチも。あれも、一緒に」
澪は台を取りに戻った。外の職員と二人でハチを載せる。ナギは箱を支え、落ちないように押さえた。
最後にユノが出た。動かない腕を体の前で支え、歩くたびに小さな部品の音を立てていた。
外の空気は、冷たかった。
ナギは空を見上げた。雲がゆっくり動き、同じ形には戻らなかった。遠くで鳥が鳴いたが、どこにいるかは分からない。
分からないまま、音を聞いていてよかった。
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