第24話 封をした記録
「いまは、公にしない。でも、なくさないで」
ナギが言うと、外部担当者は非公開保全の手順を表示した。受付番号と、引き渡す物の一覧が現れる。
ナギの体にある監査領域は、生活記憶を扱う部分とは別になっていた。製造からの操作履歴を記録した、小さな封印部品だった。ユノと澪が一緒に説明し、取り外す前に、ナギへ確認した。
「これを外しても、いま話しているあなたの記憶は変わりません。外したことは、残る制御側と、外部の受領記録の両方に記載します」
ナギは説明書の図を見た。知らなかった自分の形を、少しずつ覚えていく。嫌になることもあったが、全部を誰かの判断に任せるよりはよかった。
ユノが背中の点検口に触れる。ナギは目の前にいるハチを見ていた。ハチの右のブラシは、最初から曲がっている。
直したほうがいいのだろうか。本人に聞けないときは、どう決めるのだろう。自分の処置を受けながら、そんなことを考えた。
小さな部品が、透明な保管容器へ入れられた。
ナギは触らせてもらった。容器越しでも、拍子抜けするくらい軽かった。ここに、自分の嫌だと言った時刻が残っている。思い出の重さとは、違う重さだった。
澪は診療資料の封筒を、別の保管袋へ入れた。第三者の記録が混ざっていないことを確かめ、封印番号へ署名する。律子も署名した。ナギは自分の記録を渡す欄に、ナギと書いた。
住所の欄で手が止まった。
律子が、空欄のままでよいと説明した。ナギは空欄を残した。ここを自分の住所にしたくはなかった。
征一が、澪のそばへ来た。
「それを持ち出せば、君の妊娠も、関係も、結局は調べられる。公開しないと決めたことに、どれほど意味がある」
澪は封筒から手を離さなかった。
「誰に、何のために渡すかを決める意味がある。あなたに隠してもらうこととは違います」
「君自身が削除を求めた資料だ」
「私の資料の利用をやめてほしいということと、この子の経験まで消していいということは、同じではありません」
ナギは澪の横に立った。澪が自分のためだけに答えているわけではないと分かっても、そこに一緒に立っていられた。
征一は、ナギの保管容器を見た。
「製造者以外にそれを読める者は少ない。解析には時間がかかる。待っているあいだに、不安定になることもあるぞ」
ナギは容器をハチの台へ置こうとして、やめた。隠して持ち出す物にしたくなかった。
「待つことになっても、渡す。あなたが読んで、あなたが消していいか決める場所には置かない」
外部担当者が、容器と書類の番号を読み上げた。受け取る人は通用口の外にいる。扉が開くまで、映像と音声の立会いを続けるという。
律子は子どもたちの運搬台へ戻った。全員の状態と保全先が一覧に記録され、停止中の六人の器体も、勝手に処分しないよう指定された。
まだ外へ出たわけではない。封を破れば、また中身へ手を触れられる。
ナギは保管容器を両手で抱えた。ハチには、手紙と小さな持ち物の箱を運んでもらうことにした。
「こっちは、あなたに頼みたい」
ハチの表示が『搬送』へ変わった。
廊下の時計は五時四十一分だった。征一が最後尾につき、一行は通用口へ向かった。
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