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【選択式】生まれる前に、逃げなさい  作者: みき


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第19話 迎えに来た人

 征一は、運搬台にいる子どもたちを一人ずつ見た。

 名前を呼ぶことはなかった。胸元の札を確かめるように視線を動かし、ナギの前で止まった。外した腕時計を手に持ち、その留め具を指で押している。


「こんな所で立っていないで、話をしよう。もうすぐ朝だ」


 廊下の時計は四時三十八分を指していた。ナギには、こんなに長い夜が初めてなのかどうかも分からなかった。

 征一は相談用の椅子を一つ運び、ナギの前へ置いた。座るよう強制はしなかった。それが、ユノに指示をする男と同じ人だということを、ナギは忘れないようにした。


「君を迎えたいという家族がいる。試験運用の説明を受けた上で、君と暮らしたいと申し出ている」


 ナギは椅子の背に触れた。


「わたしを見たの?」

「面談用の記録を見ている。機械だということも理解しているよ。食事の時間に会話をして、休日には出かける。君の体の保守も、こちらで引き受ける」


 澪が一歩前に出た。


「どの記録を見せたの。本人が拒否した映像も、調整を受けた履歴も見せた?」

「不安定だった時期の映像を、わざわざ見せる必要はない」


 ナギは椅子から手を離した。不安定だった時期。それは、自分が怖がり、嫌だと言った時間のことなのだろう。

 それでも、休日に出かけるという話は、頭から離れなかった。窓に映された鳥ではなく、外の鳥を見る。どこへ帰るか知っていて、どこかへ出かける。


「その家へ行ったら、消されない?」


 征一はすぐには返事をしなかった。ナギは、その間を見た。


「新しい生活に不要な情報は整理する。今日のような恐怖を、ずっと持ち続ける必要はない。君の安全のための処置だ」


 ユノが、晴の肩へかけた布を直した。その指が少し止まった。

 律子は征一の持つ端末へ手を伸ばし、契約画面を開いた。征一は止めなかった。読めば納得すると思っているのかもしれない。


「出生登録と同時に、個体監査領域を回収。生活記憶は引取先向けに再導入。本人による設定変更を制限……征一、これを安全とだけ説明するの?」

「購入者の生活を守る義務もある」


 その言葉のあとで、廊下が静かになった。

 ナギは、きちんと聞いていようと思った。購入者という言葉が、家族のすぐ隣にあることを。


 晴が運搬台から言った。


「僕たちも、誰か買うの」


 征一は晴へ向いた。


「君たちは別の支援計画へ移す。今夜は全員の回収を保留できる。ナギの手続きが済めば、東棟の封鎖も解除しよう」


 律子が端末を押さえた。


「ほかの子を人質に、同意を取らないで」

「条件を示しているだけだ。外へ出れば、彼らの権利を誰が保証する? 部品が切れたとき、誰が直す? 君たちは約束だけで連れ出そうとしている」


 ナギには、すべて嘘だとは言い切れなかった。外での暮らしは決まっていない。ここなら体を直せる。それは本当なのだろう。

 だから、ほかの言葉まで本当のように聞こえてしまう。


 澪はナギの横へしゃがんだ。腕には触れなかった。


「外へ出る手段を、私たちはまだ持っている。あなたの記録を、外へ正式に渡す。今夜の消去を止めるよう求める。あなた一人の引渡しと引き換えにする必要はない」


 ナギは三人の大人を見た。誰も、失った時間を戻せる人ではなかった。

 それでも、これからを選ぶために、何を聞き、何を断るかは決められる。

 征一は契約の端末を、椅子の上へ置いた。


「内容を読んでからでいい。君が望むものを、考えなさい」

【選択】

・引取先の家族と、記憶を整理する契約の内容を詳しく聞く。→第20話へ移動

・引渡しの提案を断り、自分たちの記録を外へ渡す方法を選ぶ。→第21話へ移動


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