↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【選択式】生まれる前に、逃げなさい  作者: みき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/30

第18話 夫のいる部屋

 管制室の前で、律子は歩く速さを落とした。

 膝が痛むのだと思ったが、扉の曇りガラスに男の影が見えたとき、違う理由もあるのだと分かった。律子は職員証を読み取り機へ当て、一度失敗してから、持ち直した。


「私が話している間、あなたは扉の近くにいて。中へ入るかどうかは、自分で決めていい」


 ナギは入口に立った。律子は振り返らず、室内へ入った。

 牧瀬征一は、机に座っていた。白衣の袖をまくり、腕時計を外している。机の隅に、冷めた飲み物のカップが二つあった。


「騒ぎを大きくしたな。部品を運び出すのに、職員を退避させる必要があったのか」

「中央通路を開けて。回収区画にいる子たちを出す」

「その言い方をやめろ。おまえまで区別がつかなくなったら、誰が現場を見る」


 律子は机の向かいに立ったまま、書類を置いた。外部監査への申告書だった。最初の署名欄に、自分の名前がある。

 征一は目を落とし、しばらく動かなかった。


「これにはおまえの承認も入っている」

「入れた」

「澪が求めれば、全部の責任を私が負うと言ったはずだ。おまえが仕事まで失う必要はない」

「私がしたことまで、あなたの判断で取り上げないで」


 ナギは二人を交互に見た。長く一緒にいた人にしか分からない言葉が、会話の底を流れていた。

 征一は椅子の背へ体を預けた。


「彼女とのことは、謝った。だが、胎児を失った原因が私だとは言えない。それまで、この書類に結びつけるつもりか」

「誰も結びつけていない。妊娠が終わったあとも、あの子を使った試験と販売準備を続けたことを書いている。あなたは、別の話を混ぜて逃げている」


 征一の視線が、入口のナギへ向いた。


「ナギ。寒いだろう。中へ入って、椅子に座りなさい」


 その声は、ユノより人間らしかった。だからこそ、言う通りにしたくなるのが嫌だった。


「ここでいい」

「無理をする必要はない。君の体温は、ちゃんと監視している」

「痛いことも、見てた?」


 征一は一瞬だけ口を閉じた。


「不具合があったなら、担当者に確認する」


 ナギは律子を見た。報告を読んだと言った人と、確認すると言う人が、同じ部屋にいる。その違いを、覚えておこうと思った。


 律子は操作卓へ移った。自分の認証を入れ、回収区画から中央通路までの防火扉を順に指定する。征一が立ち上がり、手を伸ばした。

 ナギは思わず一歩進んだ。律子が振り返る。


「止めるなら、監査記録にあなたの操作が残る。この端末は、もう外部への接続待機に入っている」


 征一の手が止まった。殴られるのではないかと思っていたナギは、自分の肩に力が入っていたことに気づいた。

 机の画面に、扉が開いたことを示す緑の線が増えた。


「警備は止められないぞ。出荷前の機体を持ち出すなら、外でも回収の対象になる」

「だから、正式に止める記録を作る」


 律子は画面を閉じず、そのまま部屋を出た。ナギもあとへ続いた。廊下へ出た途端、律子が手すりにつかまった。膝よりも、息を整えるのに時間がかかっている。


「怖かった?」


 ナギが聞くと、律子はうなずいた。


「ええ。長いこと、あの人に間違っていると言われると、自分のほうを調べていたから」

「わたしも、そうなるように作られた」


 律子はナギの顔を見た。それから、目をそらさずに言った。


「それを使いやすいと評価したのは、私です」


 中央通路に着くと、澪とユノが運搬台を押してきた。晴を含めて八人、反応のある子どもたちを連れ出したという。残る六人は元の状態へ戻せず、その記録と器体を保存指定にしたと、澪は短く説明した。

 晴は黄色い髪留めを握っていた。

 ナギが名前を聞こうとしたとき、背後で管制室の扉が開いた。征一が、ゆっくりこちらへ歩いてきた。

【移動】

・中央通路で施設長と向き合う。→第19話へ移動

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。