↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【選択式】生まれる前に、逃げなさい  作者: みき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/30

第11話 予測という商品

 記録室の入口には、『未来の家族に、今日会える』と書かれていた。

 その下の写真で、女の子が大人二人に手を引かれている。ナギとは違う顔だったが、着ているカーディガンは、見覚えのある黄色だった。

 参加票を読み取り機へ置くと、端末に自分の写真が現れた。『利用者向け説明』『担当者記録』『個体監査』。上の二つは開けたが、最後だけは鍵の印がついていた。


 説明は、ナギにも読める言葉で書かれていた。

 生まれる前の子どもの資料から、育った姿を予測する。家庭で起こりうる問題を先に体験し、出産や養育について考える。対面する人型の機械には、会話、学習、表情、痛みを避ける機能が備わっている。

 紙の上では、どれも親切なサービスに見えた。


 担当者記録を開くと、別の文章が出た。


『人格予測の精度を保証しない。検査情報による将来の性格の確定は不可能。顧客への説明時には、不安を増幅しない表現を用いること』


 下には調整履歴が並んでいた。反論の回数を減らす。相手が沈黙したときに謝るまでの時間を短くする。大人が悲しんだ場合、自分の要求を取り下げやすくする。

 ナギは指を画面から離した。

 謝りたくなる気持ちまで、数字で触られていた。そう思うと、これまで謝ろうとした場面が、すべて急に恥ずかしくなった。

 ハチが足元へ来た。ナギは何か言おうとして、『ごめん』が先に浮かんだので、口を閉じた。


 初回製造記録には、澪の名前があった。九十六日前、妊娠十週四日の検査資料が登録されている。三日後に、ナギの体が初めて起動していた。

 母親になるかもしれない人のおなかにいた子と、機械のナギは、同じではない。資料の一部が使われただけなのに、書類では二人をつなぐ線が一本、太く引かれていた。

 父親の欄には、二つの名前が重なっている。修正前の名は牧瀬征一。修正を承認した者の名も、牧瀬征一だった。


 隣には、律子の署名があった。


『同意範囲の再確認を要する。ただし、研究継続を妨げない』


 その一文のせいで、確認されないまま進んだのだろう。ナギは長い署名を目でなぞった。先ほど通話機から話した人の字だった。


 端末の脇の棚に、個体監査の説明書があった。面談の記憶を消しても、操作した者と操作内容の履歴は別の封印領域に残る。納品時にはその領域を施設へ回収し、利用者用の新しい領域に替えると書かれている。

 ナギの胸の中には、誰が何をしたかという履歴が残っている。記憶はなくても、何もなかったことにはなっていない。


 余白に、律子の書き込みがあった。


『外部監査への送付手順。現場責任者と原設計担当者の立会いが必要。停止・再導入の前に保全すること』


 原設計担当者の欄には、綾瀬澪と印刷されていた。

 ナギは、初めてその名前を怖いと思った。自分を検査に使われた人であると同時に、自分を作る仕組みに関わった人でもある。


 端末の画面が切り替わった。赤い帯に、『閲覧終了。点検区画へお戻りください』と出る。

 ナギは参加票を抜き、書き込みのある説明書だけを手に取った。ここにあるほかの人の記録を、勝手に持っていくことはできないと思った。

 扉の外で、重い足音がする。ハチは棚の間へ入り、奥にある作業扉を押した。


「わたし、謝りたくなるように作られたんだって」


 ナギは歩きながら言った。ハチの返事はなかった。


「でも、あなたにありがとうって言ったのは、消したくない」


 その二つをどう分ければいいのかは、まだ分からなかった。分からないまま持っていくしかない。

 作業扉の先には階段があった。下の踊り場で、黒い服の女が手すりにつかまっている。隣には、小さな男の子が座っていた。

 女はナギを見つけると、階段を上がろうとして、膝を押さえて止まった。

【移動】

・連絡階段にいる律子と話す。→第13話へ移動

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。