その6 美和、団五郎に魅了される
その6 美和、団五郎に魅了される
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「天子ちゃん、立派な建物だね。吉原とはまた違う派手さがあるよ」
「そうかの?」
「うん。私の世界の歌舞伎座よりずっと大きくて、周りの賑やかさも段違いだよ。凄い」
美和は初めての歌舞伎座にびっくりしている。
歌舞伎座はとても豪華で大きな建物だ。色とりどりの提灯、俳優の名前の旗が並び、一枚目、二枚目と役者の似顔絵看板が並ぶ。
周りには沢山の出店があり、中で食べるお弁当や饅頭や団子、飲み物を買う人々で賑わっている。歌舞伎を庶民が気軽に楽しんでいる感じが、美和には好ましく感じた。
「美和ちゃん、中に入ろうか。グッズも色々売っているからな」
「え?お弁当、買わなくていいの?」
「うん。今日は松江の所から、仕出し弁当が来るように、心が頼んでくれた。急だったので、後で松江の使役の孔が持ってきてくれるぞ」
「松江さんって、天子ちゃんが前言っていたお弁当屋さん?」
「ああ、よく覚えているな。松江は松竹亭という人気料亭をやっている。美しい所だぞ」
「凄いね。料亭からの仕出し弁当なんて。ところで天子ちゃん、使役って何?」
「松江に仕える、神の使いじゃ。心にもまるちゃんという使役がいるぞ。普段は狆の姿をしとるが、そういえばさっきは留守だったな」
「凄いよ。やっぱりここは異世界の江戸なんだねぇ」
(そうだ。使役っていうのも凄いけど、何より天子ちゃんは弁天様だったな。うっかり忘れそうになるけど、ホントそれが一番凄いことだよ)
二人は話しながら歌舞伎座に入る。するとすぐにグッズ売り場が見えてきた。売り子が声を張っている。
「さぁさぁ、団五郎の名前入り手拭いだよ!」
「私、色違いで!」
「二枚ちょうだい!」
「私は浮世絵で!」
「はいはい、皆様押さないで!」
団五郎グッズには特に女子が押し寄せ大変なことになっている。
「団五郎の焼き印が入った団五郎団子だよ〜」
「こっちに三個だ!」
「何だかこの光景、私の世界でも見たことあるような……」
「そうなんじゃ。最近グッズが益々増えてな。団五郎木札、団五郎の浮世絵は芝居の名シーンの物や、似顔絵が売れとるな。
手拭いは浦安団五郎の名前と団子が模様になってる奴が人気だ。色も沢山ある」
「本当だ!うわっ、これなんて団子が七色になってるよ。可愛い〜」
「美和ちゃん、じゃあこの七色の団五郎手拭いを買ってみるか。芝居を見てまた気に入ったのがあれば買えば良い」
「いいの?天子ちゃんありがとう。なんだか異世界の江戸に来てからお世話になりっぱなしだよ」
「そんなことか。美和ちゃん、私らもう友達であろう?美和の世界では、また私が世話になるんじゃ。
特に今回はお礼だから気にしなくて良いぞ」
「また?天子ちゃん、これからも私の世界に来てくれるの?」
「そうじゃ。今回美和ちゃんの世界に来たのは、去年神会議後の宴会で、神ビンゴ大会があって異世界への定期券を当てての。向こう百年は自由に行けるのじゃ。まぁ仕事の合間だから年に数回だがの」
(神ビンゴって、何それ。やっぱガラガラまわすのかな?しかも景品半端ないな!)
「お、そろそろ始まるぞ。美和ちゃん行こう!」
そろそろ芝居が始まる。二人は急いで席に着いた。
「天子ちゃん、ここって、凄いいい席なんじゃあ。
花道っていうの?凄く近いよ」
「いつも、私はこの辺りだ。役者が目の前で見れてとても良いぞ。
今日は団五郎十八番の『助八由縁江戸柳』略して『助八』。恋物語だな。お、始まるぞ!」
芝居が始まった。きらびやかな衣装を着た役者の中に天子ちゃんの推し浦安団五郎が出てくると、ひときわ賑やかな声が上がった。
(何だろう、モモ君も素敵だったけどこれは……これは全然違うよ)
見ただけで心臓が止まりそうな圧倒的な魅力。周りでは、団五郎が色気のある流し目を送ると、目が合った何人かの女人がため息をついて倒れてしまう。が、
既に運び人も雇われており、さくっと運ばれていく。
団五郎だけがキラキラ光っていて、その声を聞くだけで、まるで自分に話しかけて貰ったような感覚だ。
何か強いお酒を飲んだときのように、体に染み渡るようでふわふわする。
花道の近い席では、団五郎の息づかいまで聞こえ、汗が頬を伝うのも見える。汗で髪が張り付きそれもゾクリとするほどの色気を醸し出す。
団五郎が踊れば、美しく力強く、まるでこの世のものではないように感じる。それなのに、芝居はしっかり入ってくるのだ。
「……神!まさに神!」
美和が一言言うと、天子もうんうんと首がちぎれんばかりに頷いている。
天子が持ってきたファンサうちわを二人で出して応援すると、気がついた団五郎から流し目をもらい、二人はもう少しで気絶しそうになった……
休憩の時間がきた。
「はぁ〜、良かった。良かったよ!天子ちゃん。
何度言っても言い足りないくらい、良かったよ〜」
美和は興奮と感動の汗と涙でぐしょぐしょだった。
「うん、うん。わかる、わかるぞ」
天子ちゃんもより輝きが増している。
「もうな、こやつは私と同じ神なのかと思うてな。
私が加護もあげとる中でもピカいちの役者なんじゃ。
あ、今日は芝居が終わったら団五郎から楽屋に来て良いと言われとるぞ」
「!!!」
美和は心臓がバクバクし過ぎて、倒れるかと思っていた。
「ははは、何とも可愛らしいお嬢様ですね」
振り向くと、白い長髪で毛先が黒、前髪だけが金髪。その長髪を右サイドに紫の革紐でまとめている美青年が立っていた。
「ああ孔、丁度いい所に!弁当は?」
瞳は紫と金の美しいオッドアイ。
紫の中国風の服に、鎖付きの眼鏡をかけている。
(なんて素敵な人…… 異世界、イケメン多すぎ!)
美和はまたドキドキが止まらなくなる。
「今日は秋の松茸の炊き込みご飯弁当ですよ。月見風のつくね串や銀杏、ミニ茶碗蒸しも入ってます」
「相変わらず、素晴らしい弁当だな。松江にも礼を言っておいてくれ」
「はい、弁天様もお嬢様も続きをお楽しみ下さい。
では」
そう言うと孔は足早に去っていった。
「また今度こちらに来た時、改めて松江やえり、友子や他の使役達も紹介しよう。皆、看護師で使役達も面白い」
「わぁ!私もまた来ていいの?嬉しい!楽しみだよ」
(団五郎様にもまた会えるのね……)
美和はそれが一番嬉しかった。
松江の仕出し弁当を食べ、その美味しさにまたとない幸せを味わい、いよいよ後半の芝居を見る。
物語も終盤に向かい団五郎の魅力は増すばかり。
美和と天子ちゃんはもう感動し過ぎて、芝居が終わっても直ぐに立てなくなっていた……
やっと気持ちが落ち着き、立ち上がった二人は、いよいよ団五郎の楽屋を訪ねた。
楽屋には浦安団五郎の名入りの暖簾がかかっている。
「団五郎様、天子です……」
「やあやあ天子様、お入り下さい」
「はい。では……」
二人が楽屋に入ると、衣装と化粧を落として、スッキリした紺地の縞の着物に着替えた団五郎がいた。
「わぁ、ま、眩しい……」
楽屋の中で、ゆったりと座っている団五郎自身がキラキラと光って眩い。
(なんで?どうしたの?私の錯覚?)
美和は焦っていた。
次回の投稿は10月1日(木)19時です。
天子ちゃんと美和ちゃんの旅のお話が、少しでも気になった方はリアクションや星(☆☆☆☆☆)で応援頂けると嬉しいです。皆様の反応が作者の大きな励みとモチベーションになります。今後ともよろしくお願い致します。




