表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/7

君に任せよう!

「お願い……逃げて……」

「でも……」 

「私のことはもういいから……この子を……」

「***?」

「……」

「なんで……***!!」

私は逃げた。どこまでもどこまでも。気の遠くなるような距離を。やつらの支配する世界から完全に逸脱するまで、私は境界線をいくつも越え、命の灯火をすり減らしながら、ただ遠く、途方もなく遠い世界へと逃げ込んだ。

抱き込んでいた赤子のスワドルにはノア(わたし)と書かれていた。

 ――――ねぇ。

 ――――――――――――ねぇ!

ハッと目を覚ました。夢か……その瞬間少し安堵した。目の前にはセレスがいた。

「やっと起きた、」

「もしかしてノア、眠り深いタイプ?」

「多分そうかも……」

「早く着替えて!今日はあなたにこの国を案内するんだから!」

「はいはい。」

そう返事をしたはずなのに、身体がまだ夢の底に沈んでいるみたいに重かった。

――“ノア”。

寝起きの頭の奥に、さっきの夢がまだ貼りついている。

「ほら、早く!」

「ルミナリアよ、わらわに天の恵みを授けよ!」

「……は?」

セレスがカーテンを勢いよく開けた。

朝の光が一気に部屋へ流れ込む。白い床、金の装飾、広すぎる天井。現実のはずなのに、まだどこか作り物みたいに見えた。

「まぶし……」

「健康的な朝よ!」

どこが、と思ったが口には出さなかった。

私はベッドから降りて、渡された服に着替える。白い生地は昨日より少しだけ身体に馴染んでいた。

なんだか、まだ背中が痛む。見ないようにしているのに、存在だけは消えてくれない。

「準備できた?」

「うん」

「よし!」

セレスは満足そうに頷くと、私の腕をつかんだ。

「行くわよ、ノア」

「引っ張らなくても歩くけど」

「勢いが大事なの!」

「腕が痛いって……」

宮殿から一歩外にでると、昨夜の静けさとは一転して、活気のある町という印象だった。

石畳の通りには人が溢れ、露店の屋根には布が揺れ、どこかで鉄を打つ音が規則的に響いている。パンの甘い匂いと、香辛料の刺激が混ざって、世界が一気に“現実の重さ”を持ち始めた気がした。

「すごいでしょ」

セレスが胸を張る。

「うちの国は結構いい感じなの」

「自分で言うんだ」

「女王だからね」

「便利な言葉だね、それ」

セレスは笑って、私の腕を離した。今度はちゃんと並んで歩く形になる。

「まずは私のお気に入りのお店にいくわよ!」

「うん」

「テンション低くない?なにかあった?」

「いや、特に。」

「そう、ならいいわ!」

ぶっきらぼうな反応に私は愛想をつかした。

そうして私たちはそのお店にいった。

店の前につくと、小麦のいい匂いがした。どうやらパン屋のようだった。セレスは勢いよくドアを開けた

「クレシア!今日はやってる?」

「いらっしゃいませ、やってますよ……」

明らかにテンションが下がっている。すると、彼女と目があった。

「……女王様、その人は?」

「この子はノア!私の弟子よ!」

「え?」

「反応からして絶対ちがいますよね?」 

「はいはい、そうですよ。まったく!クレシアはつれないわね!」

セレスは頬を膨らませながらカウンターに肘をついた。

クレシアと呼ばれた女性は、焼きたてのパンを並べながらこちらをちらりと見る。 淡い茶髪を後ろで束ねた、落ち着いた雰囲気の人だった。

「で、その“弟子”さんはどこで拾ってきたんです?」

「拾ってないわよ!偶然よ、偶然!」

「女王様が“偶然”って言う時、大体ろくなことじゃないんですよね……」

「失礼ね!」

私は二人のやり取りをぼんやり眺めていた。 店の中は暖かかった。焼きたてのパンの匂いが鼻をくすぐって、頭が少しだけぼうっとする。

「……ノアさん、でしたっけ」

「うん」

「大丈夫ですか?顔色、あまり良くないですよ」

「そう?」

「そうですよ」

クレシアは少し眉を下げたあと、棚から丸いパンを一つ取ってこちらに差し出した。

「あっ!私にもなんか頂戴!!もちろんツケね!」

「またそうやって……あたしの店が潰れるのでやめてください。」

「ちぇ!ケチ臭いなぁ!」

そんな二人を横目に私はパンに口をつける。とても美味しい。なんだか落ち着く味だ。

「ノア、美味しいでしょ?」

「うん」

「でしょ!」

セレスはなぜか自分の手柄みたいに胸を張った。

「この店のパン、王都で一番なんだから!」

「女王様、その言い方だとまた変な噂が立ちますよ」

「え?」

「“王家御用達だから一番”とか言われるんです」

「実際おいしいじゃない」

「そういう問題じゃありません……」

クレシアはため息をつきながらも、どこか慣れた様子だった。

私はパンをもう一口かじる。

外は少し硬くて、中は驚くほど柔らかい。噛むたびに甘みが広がって、冷えていた身体の奥がゆっくり温まっていく気がした。

「知ってる?ノア。クレシアはね、ルミナリア一の魔法使いなのよ!」

「知らない、昨日来たばっかりだし」

「そういえばそっか」 

「魔法だったら女王様も使えますよね。あたしは人より少しだけ上手な程度です。」

「クレシア、たまには見せてよ!」

「嫌ですよ、また爆発するかもしれないじゃないですか!」

「ノアもみたいでしょ?」

「うん、見てみたい」

「みんなしてそこまで言うんだったら、見せてあげないことも無いですけど……」

「……いきますよ?」

クレシアが腰につけている杖をとり、構える。

杖の回りにオーラのようなものが纏う。少しだけ紫色に淡く光っている。

クレシアは杖をセレスの目の前にあるコップに振り下ろす。するとコップの中の水が一瞬にして凍る。

「おー!」

セレスは子供のようにはしゃぐ。

「すごい……」

「他にもなにかできないの?」

「まあ……火をつけたり、筋力増加魔法とか、ちょっとだけの間だけですけど物を動かせますよ。」

「ノア聞いた?クレシアはやっぱり凄いよね!」

「女王様がそこまで褒めるなんて、なんか照れますね。」

「あ、時間がもう無いからもう行くわね、クレシア」

「代金をいただいてないですよ!女王様!」

「つけといて!おねがい!」

そうしてセレスは私の腕を引っ張って店の外に連れ出した。後ろからクレシアの怒声が聞こえるような。

しばらく歩くと、王都の景色が少しずつ変わり始めた。

賑やかな商店街を抜け、人通りの少ない区画へ入る。 建物は古く、壁には蔦が絡まり、空気もどこか静かだった。近くには大きな教会もある。

すると、セレスはその教会のほうに向かいだした。

「次はあの教会よ。ノアに伝えたいことがあるの。」

「なに?」

「ついてから言うから!」

「そう、」

教会へ続く石段は、町の喧騒から切り離されたみたいに静かだった。少しだけ遠くから町の賑わう音が聞こえる。足音だけがやけに響く。

私は隣を歩くセレスを見る。 さっきまでパン屋ではしゃいでいたのに、今は少しだけ表情が硬い。

「……そんな真面目な顔もするんだ」

「失礼ね」

「だってさっきまで“ツケで!”とか言ってたし」

「それとこれとは別!」

セレスはむっとしたあと、少しだけ視線を逸らした。

「……ここはね、ルミナリアで一番古い教会なの」

目の前の建物を見上げる。

白い石造りの巨大な教会。 尖塔は空を突き刺すみたいに高く、色ガラスの窓には朝日が差し込んでいた。

ただ綺麗なだけじゃない。 どこか“重い”。

何百年もここに在り続けたものだけが持つ、圧みたいな空気。

「入るわよ」

重い扉を押し開ける。

途端に、外の音が全部遠ざかった。

中には冷たい空気が満ちている。 長椅子が規則的に並び、奥には巨大な女神像が立っていた。

両手を広げた女性の像。 優しい顔をしているのに、なぜか少し怖かった。

「……ルミナス?」

「そう。この国で信仰されてる女神よ」

セレスは像を見上げながら言う。

「この像のモデルは最初に落ちてきたニンゲンらしいわよ。フィレンが言ってたの。」

「最初の……」

沈黙が広がる。

「本当はね、この教会にも祭主がいるんだけど、最後にいたのが私がちっちゃい頃だったの。」

「……その人はどんな人だったの?」

「フィレンが言うには、ノアと同じニンゲンで、優しくて常識人だったらしいわよ。たまに寄行に走るらしいけど……」 

「そうなんだ。変な人だね。」

 そう言った瞬間、セレスがぴたりと立ち止まった。

「……ねぇ、ノア」

「なに?」

「教主ってね、昔からの決まりでニンゲンにしか勤まらないらしいの。」

「もしかして……」

セレスは髪をなびかせ、懐から紙の切れ端をとり、声高々に宣言する。

「今、女王セレスは貴女を第10代目ルミナリア教団の祭主に任命することをここに宣言する!!」

「ノア、今日からあなたは祭主としてこの王国を私と一緒に支えていくわよ!」

「これって強制?」

「いいえ、あなたの意思よ?」

 教会の静けさの中で、自分の声だけが妙に浮いた。

紙の切れ端を掲げたままのセレスは、いつもの勢いのままだった。けれどその目だけは、冗談を探している感じじゃない。

「祭主って、そんな簡単に決めていいものじゃないでしょ」

「簡単じゃないわよ」

即答だった。

「だから今、この場でちゃんと決めてるの」

「……意味がわからないんだけど」

セレスは一歩近づく。長い影が床の石に落ちる。

「ルミナリアの教団はね、もうずっと“空席”なの。名目だけはあるけど、実質動いてない」

「それを、私に?」

「そう」

あまりにもあっさりした肯定だった。

私は思わず女神像を見上げた。両手を広げたその顔は、さっきよりもさらに遠く感じる。

「理由は?」

セレスは少しだけ言葉を選ぶように間を空けてから言った。

「“ニンゲン”だから」

「適当だね。」

「……でどうするの?」

「ここから抜け出す方法が見つかるのなら、Yesかな。」

「きっと見つかるわよ。きっと。」

「……Yesね!じゃあ今日からあなたは祭主よ!」

「祭主!フィレンに伝えにいくわよ!」

「祭主呼びなの?」

「ええ、そうよ。みんなも私のこと女王様っていうじゃない。」

「そういうことなのかな?」

「私が言ってるから合ってるんです!!」

そうして、私は祭主としてセレスと一緒に王宮に行った。

「フィレン、いる??」

 セレスの声が王宮に広がる。

「はいはい、ここにいますよ女王様。ノアも一緒でしたか。」

「フィレン、もう今日からノア呼びはできないわよ!」

「どうしました?女王様。ついに壊れましたか?」

「私のことなんだと思ってるのよ!?」

「仕事せずに遊び呆ける女王。」

「ひどい!」

「……そんなことより!フィレン、ノアが祭主になったわよ!」

「それは本当ですか?」

フィレンの表情が一瞬だけ固まった。

「……今、なんと?」

「だから!ノアが祭主になったの!」

セレスは胸を張って繰り返す。まるで“いい買い物をした”くらいの軽さだった。

フィレンはゆっくりとノアへ視線を移した。上から下まで一度確認するように見て、それから小さく息を吐く。

「……冗談、ですよね?」

「冗談に見える?」

「見えますね」

「ひどい!!」

セレスが頬を膨らませるが、フィレンは一切動じないままノアを見つめていた。

「ノア、おめでとうございます。いや、ありがとうございますのほうがいいですね。」

「私、お礼言われるようなことしたかな?」

「何百年ぶりに祭主が戻ってきましたからね。」 

「じゃあノアが祭主になった記念に今日はご馳走でも食べるわよ!」

「たまにはいいでしょう。」

「ノア、嫌いなものとかある?」

「特にないよ。」

――――――――――――――――――――――――

そうして、私はこの王国の教団の祭主になってしまった。

ちゃんと仕事をこなせるのだろうか。

フィレンから聞いたが、祭主はルミナリア王国だけでなく他の地域の問題も解決しないといけないらしい。他はだいたいセレスとやることは同じだ。

この世界には二つの王国がある。

ひとつは、妖精の女王セレスが率いるルミナリア王国。

もうひとつは、魔女の女王フェイダが率いるフロレシア王国。

あとは種族ごとに小さな村を作ったりや集団生活をしているらしい。

明日はセレスとフィレンと一緒に件のフロレシア王国に訪問する。

不安しかないが大丈夫だろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ