第九話 魔王城の夜
聖騎士アルベルトが魔王城へ滞在するようになって数日。
城内はいまだ微妙な緊張感に包まれていた。
人間側の英雄が魔王軍の城にいるのだ。
当然といえば当然である。
もっとも――。
「アルベルト殿、飯食うか?」
「む、いただこう」
「おかわりありますわよ♡」
「……意外と馴染んでおるのぅ」
思ったより普通に馴染んでいた。
(順応力高いな!?)
黒崎武は内心でツッコむ。
◇
夜。
魔王城は静寂に包まれていた。
巨大な黒い城、禍々しい尖塔、窓の外には赤い月。
完全にラスボスの居城だった。
(いや慣れねぇ……)
武は広すぎる自室で一人、落ち着かずにソワソワしていた。
豪華な天蓋付きベッド、高級そうな絨毯、意味不明なくらい広い部屋。
なのに――。
「……眠れねぇ」
原因は明白だった。
異世界転生、魔王化、四天王、聖騎士撃破、人間軍降伏、さらにアルベルトの滞在。
(情報量多すぎるだろ……)
さらに。
《ユニークスキル『ソウルイーター』》
《対象の魂・魔力・能力を捕食可能》
《現在解析中》
「解析中ってなんだよ……」
武は頭を抱えた。
うっかり触れたら人を殺しかねない、完全に危険物だ。
さらに。
《ユニークスキル『アイテムクリエイト』》
《生成可能:鉄剣・革鎧・回復薬・黒ローブ》
「地味に便利なんだよなこれ……」
試しに回復薬を作ると本当に出てきた。
しかも高品質。
大賢者曰く高級品レベルらしい。
(これ普通にチートでは?)
その時。
コンコン。
「……はい?」
「失礼いたします」
入ってきたのはルシエラだった。
銀髪の美女、黒いドレス姿。
いかにも魔王の側近である。
武は一瞬固まる。
(美人すぎるだろ……)
四十六年間、女性経験ゼロ。
当然耐性などない。
「魔王様、お休み前のお茶をお持ちしました」
「お、おぉ……ありがとう」
彼女は自然に隣へ座った。
「…………」
「…………」
近い。
めちゃくちゃ近い。
(距離感バグってる!?)
「どうされました?」
「い、いや別に!?」
顔は真っ赤だった。
「……なるほど」
「え?」
「魔王様は純情なのですね」
「ブッ!?」
武はむせた。
「じゅ、純情!?」
「はい。強大な力を持ちながら女性に免疫がない」
「やめて!分析しないで!」
《報告》
《女性経験ゼロ》
《恋愛経験ゼロ》
《推定童貞歴46年》
「うわああああああああっ!!」
「なんで出てくるんだよその情報!?」
ルシエラはわずかに微笑む。
「……ふふ」
武は思わず見惚れた。
(あ、笑った)
その瞬間――。
ドゴォォォン!!
城全体が揺れた。
「なっ!?」
外から叫び声が響く。
「敵襲ーっ!!」
「侵入者だ!!」
ルシエラの表情が一変する。
「魔王様、下がってください」
「いや俺も行く!」
「危険です」
「部下だけ行かせられるか!」
ルシエラは目を見開き、そして小さく頷いた。
「……承知しました」
武は黒ローブを翻す。
そしてまだ知らなかった。
この襲撃が、“聖女”との出会いになることを。




