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第九話 魔王城の夜

聖騎士アルベルトが魔王城へ滞在するようになって数日。

城内はいまだ微妙な緊張感に包まれていた。


人間側の英雄が魔王軍の城にいるのだ。

当然といえば当然である。


もっとも――。


「アルベルト殿、飯食うか?」

「む、いただこう」

「おかわりありますわよ♡」

「……意外と馴染んでおるのぅ」


思ったより普通に馴染んでいた。


(順応力高いな!?)


黒崎武は内心でツッコむ。



夜。

魔王城は静寂に包まれていた。


巨大な黒い城、禍々しい尖塔、窓の外には赤い月。

完全にラスボスの居城だった。


(いや慣れねぇ……)


武は広すぎる自室で一人、落ち着かずにソワソワしていた。


豪華な天蓋付きベッド、高級そうな絨毯、意味不明なくらい広い部屋。

なのに――。


「……眠れねぇ」


原因は明白だった。


異世界転生、魔王化、四天王、聖騎士撃破、人間軍降伏、さらにアルベルトの滞在。


(情報量多すぎるだろ……)


さらに。


《ユニークスキル『ソウルイーター』》

《対象の魂・魔力・能力を捕食可能》

《現在解析中》


「解析中ってなんだよ……」


武は頭を抱えた。


うっかり触れたら人を殺しかねない、完全に危険物だ。


さらに。


《ユニークスキル『アイテムクリエイト』》

《生成可能:鉄剣・革鎧・回復薬・黒ローブ》


「地味に便利なんだよなこれ……」


試しに回復薬を作ると本当に出てきた。

しかも高品質。

大賢者曰く高級品レベルらしい。


(これ普通にチートでは?)


その時。


コンコン。


「……はい?」


「失礼いたします」


入ってきたのはルシエラだった。

銀髪の美女、黒いドレス姿。

いかにも魔王の側近である。


武は一瞬固まる。


(美人すぎるだろ……)


四十六年間、女性経験ゼロ。

当然耐性などない。


「魔王様、お休み前のお茶をお持ちしました」


「お、おぉ……ありがとう」


彼女は自然に隣へ座った。


「…………」

「…………」


近い。

めちゃくちゃ近い。


(距離感バグってる!?)


「どうされました?」


「い、いや別に!?」


顔は真っ赤だった。


「……なるほど」


「え?」


「魔王様は純情なのですね」


「ブッ!?」


武はむせた。


「じゅ、純情!?」


「はい。強大な力を持ちながら女性に免疫がない」


「やめて!分析しないで!」


《報告》

《女性経験ゼロ》

《恋愛経験ゼロ》

《推定童貞歴46年》


「うわああああああああっ!!」


「なんで出てくるんだよその情報!?」


ルシエラはわずかに微笑む。


「……ふふ」


武は思わず見惚れた。


(あ、笑った)


その瞬間――。


ドゴォォォン!!


城全体が揺れた。


「なっ!?」


外から叫び声が響く。


「敵襲ーっ!!」

「侵入者だ!!」


ルシエラの表情が一変する。


「魔王様、下がってください」


「いや俺も行く!」


「危険です」


「部下だけ行かせられるか!」


ルシエラは目を見開き、そして小さく頷いた。


「……承知しました」


武は黒ローブを翻す。


そしてまだ知らなかった。


この襲撃が、“聖女”との出会いになることを。

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