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第七話 降伏勧告

「そ、そんな……」


砦の兵士たちは完全に戦意を失っていた。


希望だった聖騎士アルベルトは敗北。

しかも魔王は、玉座に座るような余裕の態度で一歩も動いていない。


絶望的だった。


一方その頃。


(終わった……)


黒崎武は別の意味で絶望していた。


(俺もう二度と普通の人生に戻れない……)


勢いで「弱いな」とか言ってしまった。

しかもかなりラスボスっぽい低音で。


完全に黒歴史更新である。


「魔王様」


ルシエラが静かに口を開く。


「敵軍は崩壊寸前です。総攻撃へ移行しますか?」


「総攻撃!?」


武は思わず素っ頓狂な声を上げた。


「いやいやいや! 待て待て待て!」


「……?」


四天王たちが不思議そうな顔をする。


「え、なんで?」


「なんでって……人死ぬだろ!?」


その瞬間。


魔族たちがざわついた。


『おお……』

『なんという慈悲……』

『敵兵にすら情けを……』


「違う、普通の感覚だから!」


だが誰も理解してくれない。


ルシエラは感動したように胸へ手を当てた。


「さすが魔王様……」


「何が!?」


「無益な殺生を好まれないのですね」


「そりゃそうだろ!?」


すると大賢者が機械的に告げる。


《提案》

《降伏勧告を推奨》


「お、珍しくまとも」


《成功率82.4%》


「高っ」


武は恐る恐る砦を見下ろした。


兵士たちは怯えきっている。

アルベルトも膝をつき、折れた聖剣を見つめていた。


(……これ、帰ってくれないかな)


武は小さく咳払いした。


「に、人間ども」


ゴォォォォ――ッ!!


声に反応するように黒い魔力が空を震わせる。


兵士たちがビクリと肩を震わせた。


(毎回これ出るのやめてくれ……!)


だが武は必死に威厳ある顔を作る。


「今すぐ武器を捨てろ」


砦が静まり返る。


「俺……いや、我は無意味な殺戮を望まん」


自分で言ってて恥ずかしかった。


しかし効果は抜群だった。


「ま、魔王が……」

「命を奪わないだと……?」

「そんな馬鹿な……」


アルベルトが顔を上げる。


「……本気、なのか?」


武は頷いた。


本当はただ帰りたいだけだが。


「抵抗しないなら殺さない」


しばし沈黙。


やがて――


ガラン。


一人の兵士が武器を捨てた。


それをきっかけに、


ガラン、ガラン、ガラン――。


次々と剣や槍が落ちていく。


「降伏します……!」

「た、助けてくれ……!」

「もう戦いたくない……!」


武は目を丸くした。


(え、マジで成功した!?)


一方、魔王軍側は大歓声だった。


『おおおおおっ!!』

『魔王様万歳!!』

『戦わずして勝利を……!』


ルシエラなど感動で涙ぐんでいる。


「これぞ真の王……」


「そこまで!?」


すると。


アルベルトがゆっくり立ち上がった。


彼は武を真っ直ぐ見つめる。


「……魔王」


「は、はい」


「貴様は本当に、人間を殺す気がないのか?」


「え?」


武は少し考えた。


元の世界では、ただの会社員だった。

人を殺したいなんて思ったこともない。


だから。


「ない」


武ははっきり答えた。


「俺は、そんなことしたくない」


アルベルトは目を見開く。


やがて苦しそうに拳を握った。


「……何故だ」


「え?」


「なぜ魔王が、そんな顔をする……」


「いや俺もよく分かってないんだけど」


その言葉を聞き、

アルベルトは初めて迷うような表情を見せた。

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