第四話 魔王軍、出陣
――人間どもに教えてやる。
――魔王に逆らう愚かさをな。
自分で言っておきながら、黒崎武は死ぬほど後悔していた。
(うわあああああっ!! 言っちゃった!!)
中学時代でもギリギリ封印していたレベルの台詞である。
しかも今は、魔王モード全開の演出付きだった。
黒い魔力はゴォォォォと唸り続け、玉座の間を震わせている。
一方、四天王たちは――
『おおおおおっ!!』
『さすが魔王様!!』
『痺れる……!』
めちゃくちゃ盛り上がっていた。
「魔王様のお言葉、しかと胸に刻みました」
ルシエラは感動したように跪き、
グラドールは巨大な斧を肩に担いで不敵に笑う。
「久方ぶりの戦争か。血が滾るな」
セレスティアは妖艶に微笑み、
「人間たちを絶望させて差し上げましょう♡」
ミレイユも興奮したように飛び跳ねた。
「ついに魔王様の戦いが見られるのじゃ!」
(戦うの俺なの!?)
武の顔が引きつる。
だが空気的に、今さら「やっぱ無理です」とは言えなかった。
「しゅ、出陣する!」
『ハッ!!』
魔族たちが一斉に頭を下げる。
その迫力だけで武は泣きそうだった。
◇
数十分後。
武は魔王城のバルコニーに立っていた。
眼下には、数え切れないほどの魔族軍が広がっている。
黒い鎧の騎士団。
巨大なオーガ。
翼を持つ魔物。
さらにはドラゴンまでいた。
完全に魔王軍だった。
『魔王様!!』
『魔王様!!』
『魔王様!!』
地鳴りのような歓声が響く。
武は震えた。
(俺みたいなおっさんが立っていい場所じゃないだろここ……!)
だが――。
《魔王覇気が自動発動しています》
ゴォォォォォ――ッ!!
武の身体から凄まじい黒いオーラが噴き上がる。
魔族たちの歓声はさらに大きくなった。
『おおおおおおっ!!』
『これぞ魔王様!!』
『圧倒的覇気……!!』
「勝手に出るなぁぁぁっ!!」
しかし周囲には、威厳ある叫びに聞こえたらしい。
ルシエラがうっとりした目を向けてくる。
「素晴らしい覇王の咆哮です……」
「違うんだよなぁ……」
するとグラドールが前へ出た。
「魔王様。西の砦には人間軍三千が展開しています」
「さんぜん!?」
「はい。しかし我ら魔王軍にとっては小規模戦闘です」
スケールがおかしい。
武は普通にビビった。
「ちなみに、こっちは何人いるんだ?」
「約五万です」
「多っ!?」
完全に戦争だった。
いや、侵略戦争である。
「……あのさ」
「はい」
「俺、行かなくてもよくない?」
その瞬間、空気が凍った。
しまった、と武は思う。
だがルシエラは静かに目を閉じた。
「なるほど……」
「え?」
「つまり、“自分一人で十分”と」
「違う」
「人間ごとき、配下だけで蹂躙可能だと」
「違うって」
『おお……!!』
『なんという王の余裕……!!』
『これぞ魔王様だ!!』
「なんでそうなるんだよ!?」
完全に誤解されていた。
しかし――。
《提案》
《人間軍との接触により、ソウルイーターの成長が期待できます》
「ゲームみたいに言うな」
《現在の推定戦闘能力:人類国家を単独滅亡可能》
「さらっと怖いこと言った!?」
武は頭を抱えた。
その時だった。
空から巨大な影が降りてくる。
バサァッ!!
強烈な風圧が吹き荒れた。
黒い鱗。黄金の瞳。山のような巨体。
「ドラゴン!?」
「はい」
ルシエラが当然のように頷く。
「魔王様専用の飛竜です」
「専用!?」
ドラゴンは武の前で頭を下げた。
まるで忠犬のようだった。
『グルルル……』
「乗れって?」
ドラゴンは再び低く鳴く。
武は乾いた笑いを漏らした。
「……マジかよ」




