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第三話 ステータス

「……帰りたい」


黒崎武の切実な呟きは、静かに玉座の間へ響いた。


だが四天王たちは感動したように目を見開く。


『おお……』

『まさか“故郷”を……』

『滅びた魔界を憂いておられるのか……』


「違う違う違う!」


武は思わず立ち上がった。


「俺は日本に帰りたいの! 分かる!? 東京! コンビニ! ネット! エアコン!」


しかし魔族たちはざわつくだけだった。


「ニホン……?」

「トーキョーとは古代魔界の地名でしょうか」

「ネット……禁術の類かもしれません」

「エアコン……!? なんと恐ろしい響きじゃ……」


「もう嫌だこの世界……」


武は再び玉座へ崩れ落ちた。


すると――。


《個体の精神的不安定を確認》

《大賢者がサポートを開始します》


頭の中に機械音声が響く。


「うおっ!?」


《ステータスを表示します》


次の瞬間、武の目の前に半透明の黒い画面が現れた。


────────


【名前】黒崎武

【種族】魔王

【レベル】1

【魔力量】測定不能


【ユニークスキル】

・ソウルイーター

・大賢者

・アイテムクリエイト


【固有能力】

・超速再生

・状態異常無効

・全属性魔法適性

・威圧

・魔王覇気


────────


「…………は?」


武は固まった。


「いやレベル1なのにおかしくない!?」


「どうかなさいましたか、魔王様」


ルシエラが不思議そうに尋ねる。


「いやこれ見えないの!?」


「……?」


どうやら見えていないらしい。


武は恐る恐るステータス画面へ触れた。


すると――。


《ユニークスキル『大賢者』を起動します》

《質問を入力してください》


「AI!?」


完全にゲームだった。


「えっと……俺、なんで魔王になってるんだ?」


《回答》

《現在の個体は“魔王因子”との適合率99.8%を記録》

《そのため異世界転移時、自動的に魔王として覚醒しました》


「なんで適合したんだよ……」


《中学時代の黒歴史ノートにより、精神構造が魔王因子と極めて近似していたためです》


「死にたい」


まさかの理由だった。

四十六年間の人生でもトップクラスに恥ずかしい。


するとミレイユが目を輝かせた。


「おお! 今、空間に超高密度演算反応が発生したのじゃ!」


「やはり魔王様は常時思考演算を……!」


ルシエラまで感動している。


「違うから!?」


その時だった。


ドゴォォォン――ッ!!


突然、城全体が揺れた。


「な、なんだ!?」


武が立ち上がる。


直後、兵士らしき魔族が広間へ飛び込んできた。


「ご報告!!」


兵士は顔を青ざめさせていた。


「人間軍が西の砦へ侵攻を開始しました!!」


空気が一変する。


グラドールが低い声で唸った。


「……来たか」


セレスティアは妖しく笑う。


「ふふっ、人間風情が」


だがルシエラは武へ視線を向けた。


「魔王様」


「え、なに」


「ご命令を」


「いや急に言われても!?」


全員の視線が武へ集中する。

魔王軍の未来を託すような目だった。


(無理無理無理無理!!)


ただの会社員だぞ。

戦争なんてゲームでしかやったことがない。


しかし――。


《大賢者が提案します》

《現在の戦力差なら勝率98.2%》

《最適解:魔王による威圧行動》


「いやその“威圧行動”ってなんだよ」


《カッコよく振る舞ってください》


「ふわっとしてんな!?」


武は脂汗を流しながら四天王たちを見回した。


全員、本気で自分を信じている。


(……やるしかないのか?)


武は震える足で立ち上がった。


そして――

昔、黒歴史ノートに書いていた台詞を、半ばヤケクソで口にした。


「――人間どもに教えてやる」


ゴォォォォォ――ッ!!


黒い魔力が広間を震わせる。


四天王たちが息を呑んだ。


武は内心泣きそうになりながら、腕を組む。


「魔王に逆らう愚かさをな」

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