第33話 第二覚醒
ゴォォォォォォォ――――!!
黄金の光が地下神殿を埋め尽くした。
崩れかけていた壁が震え、天井から降り注いでいた瓦礫が空中で停止する。
まるで世界そのものが武の力に呼応しているようだった。
「これは……」
武は自分の手を見つめた。
指先から溢れる黄金の粒子。
身体が軽い――いや、軽いというより違う。
世界が近い。
風の流れ。
大地の鼓動。
空気に満ちる魔力。
そのすべてが手に取るように分かる。
まるで世界の一部になったような感覚だった。
《第二覚醒……》
滅界の魔神が呟く。
その声には、先ほどまでなかった感情――警戒と、わずかな苛立ちが混じっていた。
《本当に存在していたか》
武は顔を上げる。
黄金に染まった瞳が滅界の魔神を捉えた。
その瞬間――見えた。
魔神の身体を覆う膨大な闇。
その中心に存在する“核”。
今まで見えなかったものが、すべて見えている。
「……なるほど」
武は思わず呟いた。
《何が見える》
滅界の魔神が低く唸る。
武は静かに答えた。
「お前の弱点」
空気が凍りついた。
アレクが目を見開く。
「見えるのか?」
「分からないけど……見える」
武自身も驚いていた。
説明できない。
だが確かに見える。
巨大な闇の中心。
脈打つ黒い核。
――あれを破壊すれば倒せる。
確信があった。
《面白い》
滅界の魔神が笑った。
次の瞬間――消えた。
「なっ!?」
アレクが叫ぶ。
速すぎて視認すらできない。
だが。
武には見えていた。
右。
「そこだ!」
黄金の剣を振るう。
ガキィィィィィィン!!
凄まじい衝撃。
黄金の剣と黒い爪が激突し、衝撃波だけで神殿の床が吹き飛んだ。
「防いだ……!?」
ルシエラが驚愕する。
少女も信じられない表情だった。
「滅界の一撃を……」
武は歯を食いしばる。
重い。
山を押し返しているような圧力。
それでも――押し負けない。
《ほう》
滅界の魔神が目を細める。
《面白い》
今度は無数の黒い槍が出現した。
百。
二百。
五百。
空を埋め尽くす闇の槍。
「まずい!」
ルシエラが叫ぶ。
だが武は動かない。
ドクン。
胸が脈打つ。
黄金の紋章が輝く。
すると――。
武の背後に無数の光の剣が現れた。
「え?」
本人が一番驚いていた。
数百本。
数千本。
黄金の剣が空を埋め尽くす。
《界護人の武装か》
滅界の魔神が呟く。
次の瞬間、闇の槍と光の剣が激突した。
ドドドドドドドドドドド!!
轟音。
爆発。
衝撃波。
地下神殿全体が揺れ、空中で無数の光と闇がぶつかり合う。
まるで神話の戦いだった。
「タケル……」
アレクが呆然と呟く。
数ヶ月前まで普通の高校生だった男。
その男が今、世界最強クラスの魔神と互角に戦っている。
信じられない光景だった。
だが――。
武の表情は険しい。
互角ではない。
押されている。
確かに力は増した。
だが滅界の魔神はまだ本気を出していない。
その証拠に。
《退屈だ》
滅界の魔神がため息をついた。
ゴォォォォォォ!!
黒い魔力が膨れ上がる。
空間が悲鳴を上げ、裂け目の向こう側まで震え始めた。
少女の顔色が変わる。
「まずい……」
「何がだ?」
アレクが尋ねる。
少女は震える声で答えた。
「あれは……二千年前に世界を滅ぼしかけた力だ」
黒い魔力が巨大な球体となる。
山ほどの大きさ――いや、それ以上。
「おいおい……」
武も顔を引きつらせる。
《終わりだ》
滅界の魔神が告げる。
《消えろ》
黒い太陽が放たれた。
世界が暗くなる。
全てを呑み込む絶望。
誰も防げない――そう思った瞬間。
『守れ』
頭の中で声が響く。
界護人の声。
『お前が望むなら』
黄金の紋章が輝く。
『世界は応える』
ドクン。
鼓動が響く。
武は剣を握った。
守りたい。
仲間を。
この世界を。
元いた世界を。
その想いが溢れた瞬間――。
黄金の光柱が天を貫いた。
《何!?》
滅界の魔神が初めて驚愕する。
神殿。
大地。
空。
世界中から光が集まる。
まるで星そのものが武に力を貸しているようだった。
そして――。
武の背後に巨大な人影が現れる。
黄金の巨人。
神々しい鎧。
巨大な翼。
圧倒的な存在感。
少女が震えながら呟く。
「まさか……」
アレクも息を呑む。
ルシエラは目を見開いた。
その姿を知っていたからだ。
古代文献。
神話。
伝承。
すべてに記されていた。
世界を守る最後の守護者。
「界護人……」
滅界の魔神が低く唸る。
《原初の守護者》
武は知らなかった。
だが理解した。
背後の存在が、自分の力の源だと。
そして――黄金の巨人がゆっくりと剣を掲げる。
武も同じように剣を構えた。
呼応するように。
完全に重なるように。
《面白い》
滅界の魔神が笑う。
《ならば見せろ》
黒い太陽。
黄金の巨人。
二つの超越存在が激突しようとしていた。
その時だった。
裂け目のさらに奥。
誰も気付かない場所で。
巨大な赤い瞳が開く。
滅界の魔神ですら気付いていない。
最も深い闇の中で眠っていた存在。
真なる魔神王。
二千年前、界護人と相討ちになったはずの存在が――。
静かに目覚めようとしていた。




