表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/35

第32話 絶望の魔神

地下神殿に、深い沈黙が落ちた。


誰も言葉を発せない。


裂け目の奥から現れた“それ”を見た瞬間、本能が理解してしまったからだ。


――勝てない。


巨大だった。


侵界の魔神ですら霞むほどの威圧感。


黒い霧に包まれた身体は人型にも見えるが、輪郭は曖昧で、存在そのものが世界から拒絶されているようだった。


巨大な二本の角。

深淵のような漆黒の瞳。

背後に広がる無数の黒い翼。

そして、身体から溢れ続ける圧倒的な魔力。


空間が悲鳴を上げ、地面が砕け、神殿の壁に亀裂が走る。


「な……」


武は言葉を失った。

アレクは剣を握ったまま固まり、ルシエラの顔は青ざめている。


ただ一人、古き魔王の少女だけが震える声で呟いた。


「……滅界の魔神」


武が振り返る。


「知ってるのか?」


少女は唇を噛みしめた。


「二千年前の戦争で、最も多くの国を滅ぼした魔神だ」


「……は?」


「世界の三分の一を消滅させた」


その言葉に、全員の顔色が変わる。


「三分の一……?」


「そうだ」


少女の表情は険しい。


「人類、魔族、亜人族。そのすべてを滅ぼした怪物」


アレクが額に汗を浮かべた。


「冗談だろ……」


「冗談なら、どれほど良かったか」


少女は首を振る。


「奴が現れた場所は、地図から消えた」


空気が重く沈む。


武も理解した。


今までの敵とは格が違う。

完全に別次元だ。


《懐かしいな》


滅界の魔神が口を開いた。


その声は静かだった。

だが、聞くだけで頭痛がする。


《二千年ぶりの世界か》


巨大な瞳が周囲を見渡す。


《ずいぶん弱くなった》


その一言で空気が震えた。


ゴゴゴゴゴゴゴ!!


魔力の余波だけで神殿の柱が崩れ落ちる。


「うわっ!?」


武たちは慌てて距離を取った。


だが滅界の魔神は動いていない。

ただ立っているだけ。

それだけで周囲が壊れていく。


「化け物かよ……」


武の呟きに、アレクが乾いた笑いを漏らす。


「今さらだろ」


「いや、レベルが違う!」


その時、滅界の魔神の視線が武に向いた。


《なるほど》


黒い瞳が細められる。


《界護人か》


ドクン。


武の胸が脈打つ。

黄金の光が反応した。


《まだ幼いな》


「誰が幼いだ」


《力がだ》


滅界の魔神はつまらなそうに言い放つ。


《その程度では話にならぬ》


武の眉がひそむ。


次の瞬間――滅界の魔神が指を動かした。


それだけだった。


ズドォォォォォン!!


衝撃波が襲いかかる。


武たち全員が吹き飛ばされた。


「ぐああああ!」


壁に叩きつけられ、肺の空気が抜ける。

息ができない。


アレクもルシエラも同じく倒れ込み、少女ですら膝をついていた。


「なんだ……今の……」


武が震える。


攻撃ですらない。

ただ指を動かしただけだ。


《弱い》


滅界の魔神は告げる。


《あまりにも弱い》


武は歯を食いしばった。


悔しい。

何もできない。

守ると決めたのに、何一つ届かない。


その時――。


《だが面白い》


滅界の魔神の視線が武に固定される。


《界護人の力を持ちながら、完全覚醒していないとは》


古き魔王の少女が前に出た。


「滅界」


《久しいな、魔王》


少女は睨みつける。


「なぜ今さら現れた」


滅界の魔神は笑った。


《決まっている》


黒い翼が広がる。


《世界を終わらせるためだ》


ゴォォォォォォォ!!


裂け目の向こうで何かが蠢く。


さらに巨大な影。

さらに多くの魔神。


まだ終わりではなかった。


《門は開いた》


滅界の魔神が言う。


《やがて我らは、すべての世界を侵食する》


ルシエラの顔色が変わる。


「すべての世界……?」


《そうだ》


滅界の魔神は笑う。


《この世界だけではない》


武の背筋が凍る。


まさか――。


《お前のいた世界もな》


「――っ!」


武の瞳が見開かれた。


日本。

家族。

友人。

元いた世界。


《いずれ滅ぶ》


その言葉を聞いた瞬間――武の中で何かが切れた。


「ふざけるな」


黄金の光が爆発する。

神殿を照らすほどの輝き。


《ほう》


滅界の魔神が初めて興味を示した。


武は立ち上がる。

全身が光に包まれていた。


「この世界も」


一歩前へ。


「元の世界も」


さらに一歩。


「誰にも壊させない」


ドクン。


鼓動が響く。

黄金の粒子が舞う。


《面白い》


滅界の魔神の口元が歪む。


《なら見せてみろ》


黒い魔力が噴き出す。


同時に、武の黄金の力も膨れ上がる。


白と黒。

二つの力が激突し、空間が割れた。


神殿が悲鳴を上げる。


アレクが叫ぶ。


「タケル!」


ルシエラも声を張り上げる。


「無茶です!」


だが武は止まらない。


身体の奥から力が溢れる。

怖い。

だが、不思議と迷いはなかった。


守りたい。

その気持ちだけが力になる。


そして――。


『第二段階』


頭の中で声が響いた。


武が目を見開く。


あの声だ。

界護人の声。


『覚醒条件を確認』


黄金の光がさらに強くなる。


少女が驚愕した。


「まさか……!」


《何!?》


滅界の魔神ですら驚愕する。


武の背後に巨大な黄金の紋章が出現した。


神々しい光。

世界を包むような温かさ。


そして――武の瞳が金色に染まる。


『第二覚醒開始』


ゴォォォォォォォ!!


神殿全体が黄金の光に包まれた。


滅界の魔神が初めて警戒する。


《馬鹿な……こんなに早く》


少女も震えていた。


「あり得ない……」


アレクは呆然と呟く。


「タケル……」


ルシエラも言葉を失う。


武自身にも分からない。

ただ、力が溢れてくる。


世界と繋がる感覚。

その先で――何か巨大な存在が目を覚まそうとしていた。


界護人。

二千年前の守護者。


その真実が明かされる時が近付いていた。


そして――滅界の魔神がゆっくりと笑う。


《いいだろう》


黒い翼が広がる。


《ようやく遊べそうだ》


最強の魔神。

第二覚醒した界護人。


二つの存在が向かい合う。


その戦いは――世界の歴史を変えることになる。


だが誰も知らなかった。


裂け目のさらに奥で。

滅界の魔神すら従う“真の支配者”が、静かに目を開いたことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ