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第24話 暴走する黒角

「来るぞッ!!」


アレクの叫びが森に響いた。


ゼクトが姿を消した直後――

ブラックホーン・ベヒモスが、先ほどまでとは比べ物にならない魔力を放ちながら突進してくる。


地面が砕け、大樹が根こそぎ吹き飛ぶ。

まるで巨大な山が移動しているようだった。


「冗談だろ……!」


武は思わず後ずさる。

だがルシエラが肩を掴んだ。


「下がれ!」


「でも――!」


「今は生き残ることだけ考えろ!」


ベヒモスの角が黒金色に輝く。


次の瞬間。


ドォォォォォォン!!


黒い衝撃波が放たれ、森が消し飛んだ。

数十本の木々が一瞬で粉砕される。


武には何が起きたのか理解できない。

ただ“破壊”だけがそこにあった。


「《紫壁結界》!」


ルシエラが即座に魔法陣を展開し、紫色の巨大な障壁が三人を包み込む。


衝撃波がぶつかる。


ギギギギギギッ!!


障壁全体に亀裂が走った。


「割れる!?」


「黙ってろ!」


ルシエラの額に汗が浮かぶ。

魔王の結界が壊れかけている――それだけで異常事態だった。


しかし。


黄金の閃光が走る。


アレクだ。


「邪魔だぁぁぁぁぁぁ!!」


黄金の魔力をまとった剣が振り下ろされ、巨大な斬撃がベヒモスへ直撃する。


ズガァァァァン!!


爆発。

森全体が揺れ、ベヒモスの巨体が数メートル吹き飛んだ。


「やったか!?」


武が叫ぶ。


だがアレクは即座に否定した。


「いや、まだだ!」


煙の中から赤い瞳が光る。

ベヒモスは倒れていない。

むしろ傷口から黒金色の光が溢れ、再生を始めていた。


「再生してる……」


武は絶句する。


アレクも顔をしかめた。


「面倒な能力まで付いてやがる」


ルシエラが低く呟く。


「ゼクトの魔力だ」


「え?」


「奴の力が魔獣を強制的に強化している」


つまり――

今のベヒモスは本来の姿ではない。

ゼクトによって“改造”された状態だった。


武は拳を握る。


「じゃあ、あいつのせいで……」


「そうだ」


ルシエラは頷く。


「森の異変も、魔獣の暴走も、おそらく全て奴が関わっている」


武の中で怒りが湧き上がる。


勝手に人を巻き込み、森を壊し、命を弄ぶ。

そんなことが許せなかった。


その時――胸の奥で何かが反応する。


ドクン。


黒金色の光が武の身体から漏れた。


「っ!?」


武自身が驚く。


今までとは違う。

熱いだけじゃない。

力の流れが分かる。

まるで血液のように体内を巡る魔力を感じていた。


ルシエラが目を見開く。


「武……?」


アレクも気付いた。


「お前……」


武は自分の手を見る。

黒金色の光が指先を包んでいた。


恐怖はなかった。

不思議と落ち着いている。


「なんだろう……」


胸の奥から声が聞こえる。


――戦え。

――立ち向かえ。

――逃げるな。


そんな感覚だった。


ベヒモスが再び突進する。


「危ない!」


ルシエラが叫ぶ。


だが武は動かなかった。


いや――動けなかった。


吸い寄せられるように右手を前へ出す。


すると。


黒金色の魔力が溢れた。


ドォン!!


巨大な衝撃が発生し、ベヒモスの動きが止まる。


「……は?」


武は呆然とする。


目の前で、あの巨大なベヒモスが静止していた。

まるで見えない壁にぶつかったように。


アレクが叫ぶ。


「今だ!」


黄金の閃光が走る。

ルシエラも魔法陣を展開する。


「《冥界穿槍》!」


紫色の槍が放たれる。


二つの攻撃が同時に直撃した。


ズガァァァァァァン!!


大爆発。

衝撃で森の木々が吹き飛び、土煙が舞い上がる。


数秒後――静寂。


煙が晴れていく。


ベヒモスは地面に倒れていた。

動かない。

黒金色の光も消えている。


完全に沈黙していた。


「終わった……のか?」


武が呟く。


アレクが剣を肩に担ぐ。


「たぶんな」


ルシエラは慎重に様子を見ていたが、数十秒後に息を吐いた。


「終わった」


その言葉に武は膝から崩れ落ちる。


「はぁ……」


心臓が激しく鼓動している。

死ぬかと思った――本当に。


アレクは笑いながら近付いてきた。


「初戦にしては上出来だな」


「初戦ってレベルじゃないだろ……」


「確かに」


ルシエラまで苦笑する。


だがすぐに表情が引き締まった。


「問題はゼクトだ」


武も真剣な顔になる。


「うん」


あの男。

同じ力を持つ継承者。

そして自分を知っているような口ぶり。


謎だらけだった。


「奴は欠片を集めている」


ルシエラが言う。


「欠片?」


「初代魔王の力の欠片だ」


武は息を呑む。


以前聞いた話――

世界に散らばった魔王の力。

それを宿した存在が継承者。


「じゃあ俺も……」


「その一人だ」


ルシエラは頷く。


「そしてゼクトも」


武は空を見上げた。

木々の隙間から夕日が差し込んでいる。

いつの間にか日が傾いていた。


長い戦いだった。


だが――本当の問題はこれからだ。


アレクが地面に腰を下ろす。


「つまりあれだろ?」


「何だ」


「俺たちはこれから継承者探しの旅を続ける」


「そうだな」


「んで、その途中でゼクトとも戦う」


「おそらく」


アレクは笑った。

まるで面白い冒険の話を聞いている子供のように。


「最高じゃねぇか」


「どこがだ!」


武が即座にツッコむ。


ルシエラも呆れたようにため息を吐いた。


だが少しだけ空気が和らぐ。


武は仲間たちを見る。


勇者アレク。

魔王ルシエラ。

そして自分。


奇妙な組み合わせだった。

数日前なら想像すらできなかった。


しかし今は違う。


恐怖はある。

不安もある。


だが――一人ではない。


それだけで、少し前へ進める気がした。


その時。


ルシエラがベヒモスの亡骸へ近付く。


「……?」


何かを見つけたらしい。

武とアレクも後を追う。


ベヒモスの胸元。

そこに小さな黒い結晶が埋め込まれていた。


「なんだこれ」


アレクが尋ねる。


ルシエラの表情が険しくなる。


「魔核だ」


「魔核?」


「普通のものではない」


ルシエラは結晶を拾い上げた。

黒金色の光が内部で揺れている。


武の胸がざわつく。

嫌な感覚だった。


「まさか……」


ルシエラが呟く。


「ゼクトは人工的に魔獣を強化しているのかもしれない」


武の背筋が冷たくなる。


もしそうなら――

ベヒモスだけでは終わらない。

他にもいる。

もっと多くの魔獣が。

もっと多くの被害が。


アレクも真顔になった。


「急がなきゃならねぇな」


ルシエラは静かに頷く。


「南方都市エルバニア」


その名を口にする。


「ゼクトの手掛かりは必ずそこにある」


武も拳を握った。


もう逃げられない。


自分の正体。

欠片の秘密。

ゼクトの目的。


全てを知るために。


三人の旅は、さらに危険な領域へ踏み込もうとしていた。


――そして遠く離れた場所。


南方都市エルバニアの地下深く。


黒い玉座に腰掛けたゼクトは静かに目を閉じていた。


「武……」


その口元が僅かに歪む。


「やはりお前だったか」


赤い瞳がゆっくり開く。

その奥には期待と狂気が混ざっていた。


「待っているぞ」


闇が揺れる。


無数の黒金色の光が地下空間を照らした。


継承者たちの運命が交わる時は、すぐそこまで迫っていた――。

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