表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/35

第19話 空を覆う災厄

カーン――。

カーン――。

カーン――。


警戒鐘が鳴り響く。


その音は魔王城全体へ広がり、空気を一変させていた。


先ほどまでジェノアビートルを追いかけていた魔族兵たちも、今は真剣な表情で持ち場へ向かっている。


武も城壁へ向かって走っていた。


「今度は本物の緊急事態か……」


隣を走るルシエラが頷く。


「ああ。警戒鐘が鳴るのは数年ぶりだ」


「そんなに?」


「少なくともジェノアビートルよりは深刻だ」


「比較対象がおかしいですよ」


思わずツッコミを入れる。

だがルシエラは真面目な顔のままだった。


冗談ではないらしい。


その後ろではアレクがやたら嬉しそうに歩いている。


「強いのかな?」


「楽しそうですね」


「もちろんだ!」


「戦闘狂か」


武は呆れた。

しかしアレクは否定しない。

むしろ堂々と胸を張る。


「勇者だからな!」


意味が分からなかった。


城壁へ到着すると、既に多くの兵士たちが集まっていた。


弓兵。

魔導兵。

飛行部隊。


全員が空を見上げている。


武も視線を向けた。


そして絶句した。


「……でかい」


遥か彼方。

黒い雲の中に巨大な影が浮かんでいる。


最初は山だと思った。

だが違う。


その影はゆっくり動いていた。


巨大な翼。

長い尾。

黒い鱗。


まるで伝説の怪物だった。


「ドラゴン……ですか?」


武が尋ねる。


だがルシエラは首を横に振った。


「違う」


「え?」


「あれはドラゴンではない」


その表情は険しい。


「――グラディウスワイバーン」


周囲の兵士たちが息を呑んだ。


どうやら有名な魔物らしい。


「強いんですか?」


「強いという表現では足りん」


ルシエラは空を見上げる。


「小国なら一匹で滅ぼせる」


武は固まった。


聞き間違いだと思いたかった。

だが誰も笑わない。


冗談ではないのだ。


その時。


アレクが口笛を吹いた。


「へぇ」


「へぇ、じゃないですよ」


「面白そうだ」


「だから面白くないですって」


いつものやり取りだった。

しかし今回は周囲も余裕がない。


やがて監視兵が叫ぶ。


「接近速度上昇!」


空気が張り詰める。


巨大な影が動いた。


一気に距離を詰めてくる。


雲を突き破り、その全貌が現れた。


全長は百メートル近い。

巨大な翼が空を覆う。


一度羽ばたくだけで突風が発生する。


黒い鱗は鎧のように硬そうだった。

赤い瞳が不気味に輝く。


まさに災害だった。


武は思わず呟く。


「勝てるんですか……?」


ルシエラが答える。


「勝つ」


短い言葉だった。

だが強い意志が込められていた。


「ここは私の城だ」


その瞬間。

魔王としての威厳が溢れ出す。


兵士たちの士気が上がった。


「魔王様!」

「魔王様のために!」

「迎撃準備!」


怒号が飛び交う。


魔法陣が展開され、巨大な防御結界が城を覆った。


武は少し安心した。


――その直後だった。


グラディウスワイバーンが咆哮した。


グォォォォォォォォォォッ!!


耳をつんざく轟音。

空気そのものが震える。


武は思わず耳を塞いだ。


結界が激しく揺れる。


一撃。

たった咆哮一発で。


城壁にひびが入った。


「うそだろ……」


兵士たちの顔色が変わる。


ルシエラの眉が動いた。


結界だけでは防げない。

そう判断したのだろう。


「迎撃開始!」


命令が飛ぶ。


無数の魔法弾が放たれた。


炎。

氷。

雷。

光。


数百発にも及ぶ攻撃が空を埋め尽くす。


直撃。

爆発。

黒煙が上がる。


だが――


煙の中から現れたワイバーンは無傷だった。


「なっ……」


兵士たちが絶望する。


鱗に傷一つ付いていない。


武の顔も青くなった。


強すぎる。


その時だった。


アレクが前へ出る。


「よし」


剣を抜いた。


聖剣が陽光を反射する。


「俺が行こう」


「待て」


ルシエラが止める。


アレクが振り返る。


「なんだ?」


「一人で行く気か」


「もちろん」


「馬鹿か」


即答だった。


武も心の中で頷く。


しかしルシエラは続けた。


「私も行く」


一瞬静寂が訪れる。


魔族兵たちが驚く。


勇者と魔王。

本来なら敵同士だ。


だが今は違う。


アレクは笑った。


「共闘か」


「勘違いするな」


ルシエラが睨む。


「城を守るだけだ」


「そういうことにしておこう」


二人は城壁へ立った。


その姿を見て、武は思う。


――この光景を誰が想像できるだろう。


勇者と魔王が並んで戦うなど。


物語の常識が崩れていた。


そして。


二人が同時に飛んだ。


ドンッ!!


城壁が砕けるほどの踏み込み。


一瞬で空へ。


武は目を見開く。


速すぎる。

人間の動きではない。


ルシエラは闇の翼を広げる。

アレクは空中を蹴るように加速する。


そして。


巨大ワイバーンへ突撃した。


次の瞬間。


轟音が響いた。


空そのものが爆発したかのようだった。


勇者の剣が閃く。

魔王の魔法が炸裂する。


ワイバーンが怒りの咆哮を上げる。


戦いは激化していく。


しかしその時。


武は気付いた。


ワイバーンの視線。


それが戦っている二人ではなく――


自分へ向いていることに。


赤い瞳。

巨大な瞳孔。

明確な意思。


そして。


誰にも聞こえないはずの声が。


武の頭の中へ直接響いた。


――見つけた。


武は凍りつく。


――ようやく見つけたぞ。


心臓が激しく脈打つ。


周囲の音が遠ざかる。


頭の中へ流れ込む異様な声。


――継承者。


その言葉を聞いた瞬間。


武の胸の奥で何かが反応した。


熱い。

体の内側が燃えるように熱い。


武は胸を押さえる。


「な、なんだ……?」


呼吸が苦しい。

立っていられない。


膝をつく。


周囲の兵士たちも異変に気付く。


「武さん!?」

「大丈夫ですか!?」


だが答えられない。


頭の中で声が響き続ける。


――時は満ちた。

――封印は終わる。

――我らの王よ。


その瞬間。


武の身体から眩い光が溢れ出した。


城壁全体を照らすほどの光。


兵士たちが驚愕する。


空で戦うルシエラとアレクも振り返った。


「武!?」


ルシエラが叫ぶ。


だが光はさらに強くなる。


誰にも止められない。


そして。


武の意識は深い闇の中へ沈んでいった。


――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ