第14話 勇者、来訪
魔王城に警報が鳴り響く。
『侵入者接近!! 正門突破!!』
食堂の空気が一変した。
メイドは半泣きで机の下へ隠れている。
「もう嫌ですぅぅぅ……!」
フィリアは杖を握りしめた。
「……食事は後にしましょう」
「食事優先だったの!?」
武は思わずツッコむ。
ルシエラも立ち上がった。
「タケル様、ここから動かないでください」
「来なくていい!!」
武は全力で叫ぶ。
だが警報は止まらない。
ドォン……。
ドォン……。
重い衝撃音が少しずつ近づいてくる。
まるで巨大な魔物が城内を歩いているようだった。
「絶対ヤバいやつだろ……」
「勇者ですので」
フィリアが平然と答える。
「その説明で納得できるか!」
その時だった。
食堂の扉が勢いよく開く。
飛び込んできたのは若い魔族兵だった。
「ルシエラ様!」
「報告を」
「勇者が止まりません!」
「予想通りです」
「壁を二枚破壊しました!」
「予想通りです」
「中庭の噴水も壊しました!」
「予想通りです」
「何が予想通りなんだよ!?」
武は思わず叫んだ。
魔族兵はさらに続ける。
「それと勇者が迷子になりました!」
全員沈黙。
「……は?」
「現在、第三倉庫周辺をうろついております!」
「なんで!?」
「食堂を探しているそうです!」
「遠足じゃねぇか!!」
フィリアが小さくため息をつく。
「アレクらしいですね」
「らしいで済むの!?」
その時だった。
遠くから声が聞こえた。
「フィリアー!」
全員が固まる。
「フィリアー! どこー!
返事してー!」
声が近づいてくる。
武は頭を抱えた。
「勇者ってもっとこう……世界を救うために戦う存在じゃないの?」
「普段はそうです」
「普段は!?」
そして――。
ドォォォン!!
食堂の扉が吹き飛んだ。
煙の向こうから、一人の青年が姿を現す。
金髪。
白銀の鎧。
背中には巨大な聖剣。
そして爽やかすぎる笑顔。
「いたー!」
武は叫んだ。
「第一声それかよ!!」
青年は満面の笑みで近づいてくる。
「やあ、フィリア」
「どうも」
「やあ、ルシエラ」
「帰れ」
「やあ、魔王タケル!」
武は眉をひそめた。
「誰だお前」
青年は胸に手を当てる。
「僕は勇者アレク」
そして爽やかに笑った。
「世界を救うために君を倒しに来たよ」
「爽やかに言うな!!」
アレクは不思議そうな顔をした。
「変かな」
「変だよ!」
「そうかぁ」
少しだけ落ち込んだ様子を見せる。
しかし一秒後には復活した。
「それでフィリア」
「なんですか」
「帰ろう」
「嫌です」
「即答!?」
アレクが固まった。
「どうして?」
「監視です」
「何を?」
「魔王です」
「なんで?」
「危険かもしれないので」
「なるほど」
アレクは納得したように頷いた。
「じゃあ僕も監視する」
「増やすな!!」
武のツッコミが炸裂する。
ルシエラの額に青筋が浮かんだ。
「勇者」
「うん?」
「タケル様に近づかないでください」
「無理かな」
「なぜですか」
「倒しに来たから」
「帰れ」
「帰らない」
空気が凍りつく。
黒い魔力がルシエラの周囲に渦巻いた。
フィリアも杖を構える。
アレクは聖剣の柄に手を置いた。
食堂全体が震える。
「ちょっと待て!!」
武が慌てて割って入った。
「なんで俺の周りだけ毎回戦争になるんだよ!!」
誰も答えない。
アレクは優しい笑顔のまま言った。
「安心して、タケル」
「何を!?」
「痛くしないから」
「絶対痛いだろ!!」
その瞬間だった。
天井から巨大な影が落ちてきた。
ドォォォォン!!
床が揺れる。
食堂中の視線が一斉に向く。
そこに立っていたのは――
黒い外殻。
四本の腕。
赤く光る単眼。
ジェノアビートルだった。
沈黙。
そして武は絶叫した。
「なんでお前も来てんだよぉぉぉぉぉ!!」
混沌はさらに加速するのだった。




