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第13話 聖女、魔王城で飯を食う(そして勇者が来る)

「監視です」

「嫌です」

「帰ってください」

「断ります」


武はソファの上で頭を抱えた。

(なんでこうなった……)


ルシエラとフィリアが正面から睨み合っている。

空気が痛い。物理的に痛い気さえする。


「ここは魔王城です」

ルシエラが冷たく言う。

「人間、それも聖女が気軽に出入りしていい場所ではありません」


「なら侵入できないよう結界を強化するべきです」

「次は侵入できません」

「では次回、確認します」

「宣言しないでください」


会話が怖い。

武は完全に蚊帳の外だった。


フィリアが武の隣へ座る。

「近い近い近い!?」

「監視ですので」

「距離感!!」


ルシエラのこめかみに青筋が浮かぶ。

部屋の温度が下がった。


「……フィリア」

「なんです?」

「タケル様から離れてください」

「嫌です」


即答だった。

(子供か!!)


その時。


ぐぅぅぅ……


静かな部屋に、妙に情けない音が響いた。


沈黙。


フィリアがぴたりと固まる。

武はゆっくり視線を向けた。


フィリアの顔が、ほんの少し赤い。


「……」

「……お腹?」

「違います」


ぐぅぅぅ……


「いや鳴ってる!!」


フィリアは視線を逸らした。

「朝から何も食べていません」

「食えよ!?」

「勇者一行は現在、魔王城攻略中でしたので」

「真面目か!」


ルシエラがため息をつく。

「……食堂を使いますか?」

「いいんですか?」

「タケル様の前で餓死されても困りますので」


言い方が酷い。


◆ 地下食堂

数分後、武たちは地下区画の食堂にいた。

長いテーブルには料理が並んでいる。


肉料理、スープ、焼き立てのパン。

普通に美味しそうだった。


「魔王城って飯ちゃんとしてるんだな……」

「栄養管理は重要です」


フィリアが席に座る。

「いただきます」


次の瞬間、ものすごい勢いで食べ始めた。


「速っ!?」


パンが消える。

肉も消える。

スープまで一瞬だった。


「聖女ってもっとこう……清楚な感じじゃないの!?」

「戦場ではカロリー効率が重要です」

「理論派!!」


ふと、フィリアがスプーンを止めた。


「……このスープ」


「え? まずかった?」


フィリアは真顔で首を振る。


「いえ。魔界産の《黒根菜》を使っていますね。えぐみを抑える処理が上手いです」


周囲の魔族たちがざわつく。


「聖女が……魔界料理を分析してる……?」

「なんでそんな詳しいんだ……?」


フィリアは淡々と続ける。


「この肉も良い焼き加減です。魔獣の脚肉は火を通しすぎると硬くなりますが……これは柔らかい」


「料理番より詳しい!!」


武がツッコむと、厨房から料理長が顔を出した。


「し、聖女様……! まさか我が料理を評価してくださるとは……!」


「美味しいものは美味しいと言うべきです」


「聖女が魔界料理を肯定したぁぁ!!」


魔族たちがざわめき、メイドは感動して泣きそうになっていた。


武は遠い目になる。

(なんかもう普通に食レポしてるだけだな、この人……)


「おかわりを」

「まだ!?」


フィリアは真顔で頷く。

「今日は移動距離が長かったので」

「燃費悪いな聖女!!」


ルシエラは厨房へ指示を出す。

「戦争中、人間側の補給部隊を壊滅させた際、聖女が一人で三日分の食料を消費した記録があります」

「なんでそんな情報知ってるの!?」

「敵戦力分析です」

「分析結果が食欲なの!?」


フィリアは淡々とパンを口へ運ぶ。

「成長期でしたので」

「今も!?」


食堂の扉が勢いよく開いた。


「ルシエラ様ぁぁ!!」


昨日のメイドだった。

そしてフィリアを見て固まる。


「……聖女」


空気が凍る。


「な、なぜここに……!?」

「監視です」

「食事してるだけにしか見えませんが!?」


メイドは完全に混乱していた。


「え、えっと……その……通報を……」

「やめてください」

ルシエラが即答する。

「今刺激すると面倒です」

「もう十分面倒ですよぉ!」


その時だった。


フィリアの動きが止まる。


さっきまで料理の感想を語っていた少女とは思えないほど、

鋭い魔力が空気を震わせる。


フィリアは窓の外を見つめた。

その表情は、最強クラスの聖女のものだった。


ルシエラも立ち上がる。

「……勇者か」


武は青ざめる。

「いやいやいや待て待て待て!!」


次の瞬間、魔王城全体に警報が鳴り響いた。


『侵入者接近!! 正門突破!!』


食堂の空気が一変する。


メイドは半泣きで机の下へ隠れた。

「もう嫌ですぅぅぅ……!」


フィリアは杖を握りしめる。

「……食事は後にしましょう」


ルシエラは険しい顔で言う。

「タケル様、ここから動かないでください」


武は震えながら叫ぶ。

「来なくていい!!」


だが警報は止まらない。


重い衝撃音が、少しずつこちらへ近づいてくる。


――そして武はまだ知らない。


その勇者が、想像以上に面倒な男だということを。

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