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第12話 聖女に監視されることになった

「しばらく、一人行動は禁止です」

「えぇぇぇ!?」

武の叫びが廊下に響く。だがルシエラは真顔だった。

「聖女フィリアは、確実にタケル様を疑っています」

「いやだから俺、一般人!」

「魔王城の最深部に住んでいる時点で説得力がありません」

「ぐっ……!」

正論だった。武は言い返せない。


周囲では魔族兵たちが慌ただしく行き来している。

「第三防衛線、再構築急げ!」「勇者を中央区画へ近づけるな!」

完全に戦場だった。

(なんで異世界来てこんなことになってんだよ……)

武は遠い目をする。


するとルシエラが歩き出した。

「移動します」

「どこへ?」

「安全区域です」

「そんな場所あるの!?」

「地下です」

「不安しかない!」

ルシエラは無視して進む。武も慌てて後を追った。


魔王城の奥へ、さらに奥へ。途中、巨大な扉の前で止まる。黒い紋章が刻まれた重厚な扉だった。

ルシエラが手をかざす。

ゴゴゴゴ……

低い音を立て、扉が開いた。


その先にあったのは――

「……え?」

武は目を瞬かせた。


豪華だった。赤い絨毯。巨大な本棚。ふかふかのソファ。シャンデリアまである。どう見ても高級ホテルの一室だった。

「ここが地下?」

「はい」

「魔王城の地下って牢屋とかじゃないの!?」

「昔はそうでした」

「今は!?」

「ルシエラ様専用休憩室です」

「お前の部屋かよ!!」


ルシエラは平然としている。

「防音、結界、防御術式を完備しています」

「なんか要塞みたいだな……」

武がソファへ座ると、驚くほど柔らかかった。

「うぉ……すげぇ」

少しだけ緊張が抜ける。


だが次の瞬間。

コンコン。

扉がノックされた。武の肩が跳ねる。

「ひっ!?」

「失礼します!」


入ってきたのは若い女性の魔族だった。メイド服を着ている。銀色の髪に小さな角。

「ルシエラ様、お飲み物を――」

そこで止まる。メイドの視線が武に固定された。

「……人間?」


空気が固まる。武は嫌な予感しかしなかった。

するとメイドは目を輝かせた。

「きゃあああ!! 本当にいたぁぁ!!」

「え?」

「噂の人間!! ルシエラ様のお気に入り!!」

「違う違う違う!!」

武は全力で否定する。


だがメイドは止まらない。

「どうしましょう! 他のみんなにも――」

「言わなくていいです」

ルシエラが即座に止めた。

メイドは「はっ」と姿勢を正す。

「も、申し訳ありません!」

だが興奮は隠せていなかった。ちらちら武を見ている。

(見世物か俺は……)


メイドは飲み物を置いて去っていった。静かになる。

武は疲れ切った顔でソファへ沈んだ。

「もう帰りたい……」

「元の世界へですか?」

「うん……」


ルシエラは少しだけ黙る。その横顔が、わずかに曇った気がした。だがすぐに表情を戻す。

「難しいでしょうね」

「だよなぁ……」


武は天井を見る。

異世界。魔王城。勇者。聖女。

どう考えても普通じゃない。

「……俺、なんで召喚されたんだろ」

ぽつりと漏れる。ルシエラは答えなかった。


その時だった。

ピシッ。

突然、空間に亀裂のような光が走る。

「っ!?」

ルシエラが即座に立ち上がる。魔力が膨れ上がった。

「誰です!」


次の瞬間、白い魔法陣が展開される。

武は嫌な予感しかしなかった。

そして光の中から現れた人物を見て、叫ぶ。

「またお前ぇぇぇ!?」


現れたのは聖女フィリアだった。

「こんばんは」

「こんばんはじゃねぇ!!」


フィリアは平然としている。

ルシエラの殺気が一気に高まった。

「……どうやって結界を?」

「解析しました」

「早すぎません?」

「努力しました」


会話がおかしい。武だけがついていけない。

フィリアは武を見る。じーっ、と。

「な、なんだよ」

「監視です」

「はい?」

「あなたを監視します」

「なんで!?」

フィリアは真顔だった。

「危険人物なので」

「違うって!!」


ルシエラが冷たく言う。

「却下です。帰ってください」

「嫌です」

即答だった。空気がさらに悪化する。


武は頭を抱えた。

(なんでこうなるんだよぉぉぉ……!)


フィリアは武から目を離さない。

「あなたからは異常な気配を感じます」

「だから普通の会社員だって!」

「会社員?」

フィリアが首を傾げる。

「あっ……」

異世界だった。説明が面倒だった。


ルシエラが小さくため息をつく。

「タケル様」

「はい……」

「しばらく騒がしくなりそうです」

「もう十分騒がしいよ……」


武は知らなかった。

この日を境に――

聖女フィリアが、本格的に彼の周囲へ居座り始めることを。

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