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最終回

 どうしてこうなってるんだっけ。


 プロポーズの後、一晩あけたら、自分自身驚いたがその驚異的な治癒力によってもう傷は塞がってしまい、まずはシャワーを浴びることにしたんだった。

 鏡の前で改めて傷の具合を見てみると、前腕部にはつるつるの、裂傷の痕が残っていた。痛みは無くて、これはしばらくか、一生そのままだろう。

 貫通していた腹の方にもあった傷もすっかり痛みはない。それでべたべたであった頭を洗うために、もちろん一人で浴室に立ったのだが。


「……落ち着けよ。ほら、頭撫でてやるから」

 まだ全裸の俺の前に、ほとんど裸に近い、タオル一枚だけのヨクスが立ちはだかる。

 恐らくはイーアスの暴走でこのような突撃をしてきたのだろう。そう思ってこれまでの経験から、思い切り甘えさせてやる。これで欲望を発散させれば。

「……かわいいよ」

 こうでもすれば満足して引っ込んでくれる。そのはずだが、なかなか黙ったままの時間がじいっと過ぎていく。

 女の子の髪に触るのはギアピーネ以来であった。久し振りの体験に、つい邪な気持ちがよぎる。

 頭というか、モデルのように小さかった顔は、大きなもの、特に女性の胸には母性を感じるのに対し、愛玩動物であるかのように庇護欲がくすぐられる。手ぐしで難なく整う美しい金髪はまた、絵に描いたような、童貞が一方的に想像していた通りの至高の芸術品に相違無かった。

「今のクラッキーは、神の力が覚醒しているとはいえ一部は魔神によっておかしな覚醒を遂げています。純粋なる神となるためには、今一度儀礼を実行し、上書きする他ありません」

「『上書き』って、そ、そういうことか……」

 そういえば数日前にホーネアが話題にしていたことだったか。

「って、あれ? ヨクス……」

「は、はい……」

 今の人格はイーアスに乗っ取られていないヨクスのままじゃあないのか。

「イーアスか?」

 とは、彼女の所在がギアピーネにあると嘘をついている以上、口が裂けても言えない。

「何してるんだよ。すぐにあがるから、ほら、出ててくれ」

 タイムリミットか何かが近づいているものだと俺は思って、ヨクスが何の説明もしないほど、そして入浴中に迫ってくるほど事態が深刻なものかと勝手に理解をして、ひとまずきちんとした話し合いの場を設けようとした。

「……この方が、こうでなければいけないんです」

「ヨクスー……う!?」

 次の瞬間。ヨクスはまだぎりぎりテレビだったら流せていたはずの格好から、俺にとっては衝撃という意味で事故レベルの装い、というより何も装わない状態となった。

「ヨクス! 一旦落ち着こう!」

 落ち着いていないのは俺だったが。

 いや、ヨクスも顔から耳まで真っ赤だ。

「魔神の力は毒のように体内から吸収されます。同じく上書きも、深くで繋がりあわなければいけないのです」

「ひっ……」

 深く、とか、繋がる、とかエロ漫画みたいに出来すぎている話の流れに、はいそうですかと素直には従えない。俺はどうにかなってしまう前に風呂場の天井を仰ぐ。

「×××××……××××……」

「よ、ヨクスぅ!?」


 あ、そうか。これは夢か。


 思えば最近そういう気分になってなかったし、ヨクスが添い寝を仕掛けてきたときに不意に高ぶったけど、結局寸止めのままだった。

 こんなベタなシチュエーション、ヨクスの口からそんなやらしい言葉が出るなんて。

 おかしいに決まってる。俺の秘めた願望に基づいた夢なんだ。

 ならここでの過ちは過ちではないな。こんなことしたって。

 ぷにん。

 人差し指でまずはおっぱいをつついてみる。

 うーん。なかなかリアリティーがある。高校の頃は学生でいっぱいの満員電車でよく胸を押し付けられたことはあったけど、ブラの有無でこうも感触が違うとは。

 さすさす。

 次は尻だ。

 おお。これはなかなか。

 すべすべで、脂肪の一部であるおっぱい同様とろとろ、ふわふわで指が埋もれる。これきりでは惜しいし、もうひと揉みしておこう。

 しかし、イメージに過ぎないとはいえかなりのボリュームだ。

 少し覗き込んでみれば背中からぷりぷりとその丸い桃がはみ出しているじゃあないか。

 覚めるのがもったいないな。たぶんそろそろなんだけど。

「い、意外とえっちなんですね……」

 夢の中でヨクスが話しかけてくる。

「そりゃあ夢だからなー。ほら、こうしても……」

 夢うつつの時の行動の定番として、自らの頬をつねってみた。けど、本来は夢でないことを確かめるためであって。

「……痛いぞ? えーと、ヨクスも……」

 濡れていた手でぺたぺたと音をさせながら、子供か動物みたいにヨクスの頬を触ってみた。

「あはは、はは……すみませんでしたぁ!」

 笑って済ませられるはずがなかった。今までに経験がないほど頭を下げて平謝りする。

「もうそっちからはシてくれないんですか……?」

「えと、あの、俺出てるから!」

「『天地を繋ぐ蔦』」

 俺の四肢はいつかのギアピーネのように、ヨクスの神器から伸びた蔦に拘束される。

「ホーネアさんによると破壊神は能力こそ強力なものの、こうした拘束には相性が悪いそうです」

 くっ。何てことを聞いているんだ。

「クラッキーからきてくれないならこっちからです……」


「……!? …………」


「…………」


「……! ………………」



「……はい。フィルビスさんにはこれ以上はお願いすることはありません」

「うん。なら明日の内に神界に来てもらって、案内はヨクスさんに任せます」

「はい。案内の役割はしっかりと果たします」

 約束していた通りにフィルビスは俺の選択を確認しにきて、俺は大切なパートナーの一人としたヨクスを頼ることにした、と伝える。


「……フィルビスさん」

 四人での会話中、ホーネアが耳打ちをする。

「大丈夫でしょうか? 何かよそよそしくありません?」

「……ホーネア、不自然ではあるけど、我々が立ち入ることじゃあ」

「はい……」

 そういう取り決めであるのは理解していたが不満そうに顔を曇らせるホーネアに、フィルビスは耐えかねて口を開く。


「……何かあったのかな?」

「「何にもありませんから!」」

 仲良く発言がハモってしまうと、そこでやっと、フィルビス達の前でヨクスと目が合った。

「……本当に何でもないですから」

 しかしすぐに互いに顔を真っ赤にして他所へ視線を向けてしまう。

「あっ」

「ホーネア?」

「いっ、いえ、えっと、そっとしておきましょう、か……」

「ホーネアが言い出したんだけど……まあいいや」

 フィルビスを除いてホーネアまで顔を赤くする。


「それじゃあまた明日に」

 特に店や何かじゃあないのでごく普通に、軽くお疲れさまですと挨拶だけして二人を見送った。

「……だから口だけでよかったんだろう、ってのに……」

 お互いにまだ探り合いをしていた結果、雰囲気に流されてしまって、体を重ねあった。ハッキリとは言えないがあのホーネアの様子から、一応体液、粘膜同士なら口づけだって構わなかったのだった。

「私だって健全に、口で済ませようとしていたのに……」

「は、裸で風呂場に来といてそんなこと……」

「介助、介助のためでしたから! それに……そっちからあんなところ撫でてきて……」

「頭だったよな!?」

「おっぱいとお尻もです!」

「ええー、ああ! ぐぐ……あの時はその、頭が混乱してて。だけどあの後俺としては誠心誠意謝って出てくとこで……」

 出ていくところ、でヨクスは神器によって俺を拘束した。そして襲われた。

「手を出したことはなんであろうと許されない。そこは十割俺が悪いと認める。けどそれからのことはヨクスの責任だよな?」

「あれは、半端に刺激をしてしまっていたあの状況でもしも私が拒絶して、その結果神罰を暴走されてはいけませんでしたから」

「それは……」

「仕方なく、そこに私情は一切、誓ってありませんでしたからね」

「必死すぎない?」

「そ、そんなことは……ですが、神罰についての危惧はその通りです」

 確かに自信の神罰の制御と言われると、完全には出来ていないし理解も出来ていない。

「……ごめん、本当に。うん……」

 きっかけは完全にヨクスだけにあるとは言い切れない。考え過ぎとも思ったが一度そう頭で考えるとそれからすっかり固まってしまって切り替えられない。

「怖かったか……?」

「それは……好きな人のためならなにも辛くなんかありません」

「無理させた……」

「……そんなことないです。辛いとか怖いとか、そんなのほんの少しの杞憂に過ぎませんでした。幸せで、私が望んでしたことなんです」

「ありがとう、でいいのか?」

 困ったときは大体、すみません、とか謝罪を一番にするが今だけはお礼の方がいいかもと思った。

「お、お礼はやめてください! 恥ずかしいですから……」

 顔を覆ってばたばたと逃げ出したヨクス。よく考えたら下品な褒め言葉だとも捉えられかねない。

「よ、ヨクス。今のは無し。忘れよう。だからさ、何かしてほしいこととか。これからどうすればいい?」

 精一杯の罪を償う気持ちをそう口にする。

「そんなの……ずるいです」

 開いた戸の陰、薄い仕切りの向こうからの返事を待つ。

「もう一回。ハグと口づけから誓いを始めてください」

「はは……昨日のはもう滅茶苦茶だったからな」

「向こうに着いたらまずは抹消神に記憶を消してもらいに行きましょうか」

「! すみません! もうしませんから!」


 その琥珀の瞳には恨むべき運命や宿命は無く、前世の俺へのちょびっとだけ複雑な想いが秘められていた。

「クラッキー。嘘じゃあないならもう一度、あの言葉を」

 料理の腕前に異性への甘え方も達人並みで、色んなところで頭が回る手強い女神様。かと思うと大食らいで体型を気にしていたり、見られているなんて気にせずわんわん泣いたり、死にかけてた俺にその身を尽くす、健気な一面もある。

「一緒になろう。ヨクス。必ず幸せにする」

「はい。幸せにしてください。ちゅっ」

 俺が触れた唇は春先の陽射しのように暖かく、優しかった。

 そして大切な女神のその身体を抱き寄せたが、緊張してやかましく鳴る心臓の音が聞こえてしまうかが気になってなるべく腰を引いた変な体勢になっていたと思う。

「ふふ。ドキドキ、ですね」

 やっぱりバレていた。しめたと思ったか胸にグリグリと顔を押し付けてきた。

「よろしくお願いしますね。旦那様」

「こちらこそよろしく。ヨクス」

 こうして、神として、夫としての新たなクラッキーの生活は始まるのであった。

「あほかわ」としては最終回にしました。

続きも書くつもりでいます。

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