望むなら
俺が生きる意味は、多分世間体のために働き、社会で認められたいがためだっただろう。やはり男なもので、ドラマのようにそつなく仕事をこなし、周囲に頼られる姿に憧れたものだ。
しかしそれは人間としてのもの。神となった今は、大衆の中の、一般男性と呼ばれることはもうない。俺は既に破壊神という肩書きを持っている。まして特異だともいう。
そしてその肩書き通りに、俺を取り巻く全てに向き合い、付き合っていかなくてはならない。それが生涯をかけた、ある意味破壊神としての生きる意味であった。
「運命神のルーツの機械、闘争、あと豊穣の神が分離をした姿がギアピーネにアーリンに、ヨクスだって?」
ヨクスは判断に困るほど小さく、一応頷いた。
記憶には無いが俺のように転生をすればいいものを、とはふと思ったがそれはそれでこっちの居心地も悪い。それに俺に責任があるのは確かだ。
「ヨクスは、イーアスの記憶だったりはあるのか?」
転生した俺とは事情が違う。けど、少し考えてみれば予想できたであろう、何よりも重要なことを忘れていた。
「私は、ただクラッキーへの好意しかありません。彼女達もきっとそうだと」
俺がイーアスを愛していたように、ヨクス達も明確な理由無く俺に好意を寄せていた。
だが待て。その好意は。
「作られた女神、か……」
分離をした後にも残っていたイーアスのものに過ぎなかった。ヨクス達もまた、生まれし時より背負わされた運命があり、それに翻弄されていた。
「……望むのなら。私は、あなたのために……正しい姿に戻ります」
俺のために、正しい、などと口にした言葉には、何か秘めた真意が感じられた。
「消えるのか?」
壊れたのなら元に戻すのが正しいはずだ。何より俺がそれを望んでいる。単純にそんな話であるのだが。
「またあの、無というのを感じるのは覚めたときは怖いです。けど、そのまま覚めなければいいのかもしれません。2人もそう思っているなら」
「無……まさかあの時のことか? 服の入れ替わっていた」
「一度、おそらく統合されました。すぐにまた分かれてしまいましたが、そこでイーアスさんのことを共通して知りました」
「あの光景はその時の現場だったわけか……」
1つの真相は明かされた。しかし、事態はちっとも好転することはない。どうしたものかと、辺りを見渡してみてフィルビス達が目に入る。
「……フィルビスさん。ホーネアさんも、どうしたら、俺は……」
あまりにも相手に依存し、もやもやとした質問であった。ただ、こんなことで頼りにできるのは2人だけである。
「フィルビスさん……」
他人事とはいえ、完全に無視をするのをためらうホーネアは、対して静かに構えるフィルビスに助けを求める。
「今ここでこれ以上立ち入れば仮に事態が悪化した時、互いに残る傷は深くなる」
期待はしていなかったが、わざわざハッキリ、巻き込まないでくれ、と断られる。
「我々は『ピースプ』。互いに過剰に干渉をしない、助け合わない。そういうコミュニティなのです。だから、それを決めるのは当事者だけ」
続けてピースプなどという言葉が出てきて、理解するまでにほんの少し固まる。組織の名であるようだ。当然ではあったが、それにしてはあまりにも突き放してくるフィルビスの回答に、遅れてなにか小さく不満が湧く。
「クラッキー、いいんです。これは私達の問題なのですから」
ヨクスもピースプの一員としてか、よく聞き分けて気持ちを固めていた。しかしそれは未来の無い者の、自暴自棄な思考らしい。
「ちなみにギアピーネとアーリンはすぐにコンタクトはとれるのか?」
「少なくともピースプにはいません。……今までクラッキーを介して集まっていたので、今後は期待はできないかと」
確かに。良い別れ方はしていない。
もし俺が、失ったイーアスを取り戻そうと、その一歩前まで来たとしてもそれは一世一代の決断だというのに、ましてそこまでの経過へと、ヨクスに、アーリンやギアピーネにだって、自身を消そうとする未来に力を借りたいなど頼むなどできない。
俺が望むなら。俺がそう強要させているとして、その主の選択に従うのみ。目の前にいるヨクスは自分の意思を持ち合わせていない。心ここにあらず、ヨクスという存在に執着していない。
「とにかく、これは俺とヨクスだけじゃあ決められない。……今は冷静に考えられないだろ」
俺は体よく先延ばしにする。集まってしまえばもう答えは決まっているようなものなのに、それすらもハッキリと意思を示せない。
全員が納得する、損のしない結末なんて綺麗事、心底憎たらしくなる。
「番は1人と1人で1つ。人間が、他の誰かに取られたくなくてそうなった。それは認める。けど覚えてて。みんながみんな、譲り合いをしないってこと」
アーリンがいつか言った言葉が思い出された。
その言葉は自身の気持ちを告白していただけでなく、全ての真相を知った俺がこういう状況になった時を見越したものだったのかもしれなかった。




