転生の真相と運命の少女
「ひとまずそれを明かしていこう。今のクラッキーさんなら特異である彼女のことがわかるはずだ」
特異。なら、顔を見るだけで名前から能力まですべて判明する。
ちょうどヨクスも隣にいるし、いや、確かに利用しているみたいで心苦しいがフィルビスもホーネアも待っている。
そしていざその姿を思い描こうとしてみるが、ずばりフィルビスに言い当てられたり、いつもよりも他人に見られているという感じで集中できない。
「クラッキー。手を」
顔に苦しむ様子が出ていたのか、ヨクスが見かねて左手の方へ移動して手を添えてきた。これはこれで緊張するが……。
でもなんでヨクスは自身が俺の運命の少女を思い浮かべるための手がかりだと知っているんだ。いつの間にか話していた、なんてはずもない。
だがそんな悩みは心地よい冴え渡る風が吹くように頭の中に現れた運命の少女にかき消された。
「……運命神、イーアス」
やはり女神であった。俺がその名を呟くと、ホーネアは書物の神器を出して検索を始める。
「んっ……その……クラッキー、やぁ……駄目です……」
なんだ。ヨクスが何やら赤面している。
むにむに。さすさす。
ああ。そういえば手を握っていたんだ。力が入り過ぎていたのか。そう思っていたが。
俺の手は穴堀りをする子犬のようにヨクスの太ももの間に無理矢理滑り込ませていた。まだ素肌の上からでなかったからよかった……じゃあなくて、何やってるんだ俺は。どこをどうしていきなり発情しているのだ。
「いや、ごめん、本当にごめん」
左手を引き抜いてみたがまだ温もりの残るそれをどうしていいものかとフラフラとさせる。
こういう時は責め立ててくれた方が助かるが、ヨクスは照れてしまっている。
「……あ、大丈夫です! これはその、事故であって……」
ホーネアはもちろん、フィルビスもこういうのをからかうタイプではなくて重い空気が漂っていた。誰一人として味方のいない中、必死に取り繕う。
「えーと……はい。運命神イーアスさんですが、その名の通り、あらゆるものの運命を操作できる神罰を有しています。それが及ぶ範囲は1人の神から、滴り落ちる水滴まで事細かに操ることができるそうです」
ホーネアの口から運命の少女、いや、イーアスについての説明がされる。だが。
「イーアス、ですか……それで、俺の転生と何が……」
姿はあれど、不意に声を聞いたりするものの、それ以上知り得ていることがない。
「クラッキーさんが転生することとなった、二人に起きた出来事をお伝えします」
あるところ、運命神と破壊神は恋人として結ばれ、仲良く暮らしていた。
来る日も来る日も二人の間に笑顔は絶えず、神の世界でも特に有名な恋人たちであった。
しかし、とある日、破壊神は神の世界の一部を唐突に我が物にしようと目論み、すべての神の長である全能神の怒りを買った。
神罰同士を交えることとなり、破壊神といえど全能の前ではその神罰は無に帰し、不死身に近いその肉体も、再生ができない欠損により、ただ生き永らえているだけのものとなる。
力を奪われ、全能神の圧倒的な力に屈した破壊神は最後の力を振り絞り、その魂を人間界へ転生させた。
一方破壊神の悲劇を耳にした運命神はひどく悲しみ、もう二度と破壊神とは会えぬと知り、愛する者のいない世界に生きる意味など無いと、自らも消えることを決意する。
運命逆行。運命神は自らの出自に傷を抱えていて、すべてが始まる前、自身が生まれるまで前へと、そのルーツとなる3人の神の状態へと巻き戻し、再びそれらに新たな運命を背負わせた。
「これが恋人同士であった破壊神と運命神に起きた出来事です」
恋人同士か。だからあれほどに、一途だったのか。俺は。
それで、前世の俺がなぜそんな暴挙に出たのか、はあの語り口からわかっていなさそうだ。なら、もうひとつ。
「イーアスはその話し方だとまだ存在している、んですか?」
「それは……」
ホーネアが何か言いかけたところでフィルビスが制する。よほど言いにくいことなのか、フィルビスの口から伝えられるのかと思うとやはり黙ったまま。不思議に思わないはずがなく、疑いをこめてを込めて注意深く見ているとしきりとヨクスを見ているようである。ヨクスも知っているのか。
「あ。あと、運命神のルーツが3人? というのは一体……」
俺が人間として馴染んでいた神話としては、神であっても産まれるときはやはり父役と母役、かけ算か足し算らしく2つから1つの産物ができる。
「それは、ですね。ある夫婦、AとBとして、その子Cと、その父親Aとの子だということです」
ヨクスが真相を教えてくれた。近親とは、なんとも神話らしい。
「クラッキー。クラッキーが望むのなら、運命神は存命ですよ」
続けて質問から少し遅れたがそれにも回答をした。
なんだ。ヨクスも知っているならこうも勿体ぶる必要は。
「クラッキー、目を見て……」
「え……?」
なぜ、俺が望むなら、ということも聞いておこうとしたらじっとその琥珀の目で見つめてくる。きれいな瞳だ。やはりその目はドキドキしてくる。確かギアピーネの時もこんなことがあったような……。
「琥珀の目……3人……」
そんなはずは。
「運命神が一部に過ぎない、私は作られた女神のヨクス……」
ヨクスの告白は一際弱く、すすり泣くような声であった。




