転生者
「……あれ? 何これ。あ、まだ信じてないってことか? ヨクスだって言ってただろうけど、クラッキーは破壊神の転生した存在であって、いずれは神界に戻るべきなんだって」
いや聞いてないって。破壊神ってなんだ。俺がその転生した存在?神界に……戻る?
「とりあえず今度の約束だけ決めない? 基本そっちから来られないからさ。私はクラッキーのためならいつでも予定開けるよ?」
「……い、いかないでくれ!」
何もわからなくて不安だから、まだ別れも言っていないのに咄嗟に腕を掴んで引き留めた。アーリンはキョトンとした後、じわりと顔を赤くする。
「もう一回頼む。あの、俺って人間じゃないのか?」
確かに俺には両親がいる。もちろん人間の。なのにまるで今まで過ごしてきたこの世界がまるで間違っていたなんていうことか。
「人間……だけど、転生をする前、前世のクラッキーは人間界の存在じゃなくて、神界に存在していた破壊神クラッキーだったってこと。転生の前後でもその器だけは持ったままだから元の破壊神になり得る、って……まだダメっぽい?」
人間、倉木アレンがたった今の俺。そして、破壊神、クラッキーが転生前の俺。それは前世であって、俺の属性や要素に過ぎないということか。
「クラッキーはクラッキーなんだよな?」
意味不明な質問だがアーリンの会話のニュアンスだと、俺の、人間の俺のあだ名と混同する。
「そういや今の名前って何なの? 大して問題は無いけど」
「倉木アレンだよ。ってあんまり興味ないのかよ」
「倉木……やっぱクラッキーだったじゃん! すっごい偶然!」
「ややこしいな。ああもう」
「……あの! 勝手に二人だけで盛り上がるのやめてくれませんか?」
そういえば妙に静かだったがずっと二人だけで話し合っていたからか、機嫌が悪くなったヨクスは声をあげる。
「はあ。私としてはそういうことはまだ親密になってから話そうと思っていたのですが」
勝手な想像ながら、やんちゃな子供であっても容易くたしなめそうな強かな雰囲気を持つヨクスが、今までに見たことの無い呆れた顔をしてがくりと肩を落とした。
「ヨクス……ヨクスもこの事を知ってたのか?」
ヨクスは迷わずにはい。と返事をする。
「黙っとく必要なくね? 駆け引きにもなりやしないぞ」
「もちろん会ったすぐそばに言ってもよかったですけど……私のことは信じてくれましたか? 倉木さん。いえ、クラッキー」
「そ、それはだな……」
初めて会って、その日の内に転生者云々の話を聞かされていたらきっと信じてはいなかっただろう。勢いで全て明らかにする手もあっただろうが、むしろ冷めて不信感が増していた。
「計らずもこうして第3者の女神が現れて、こうして話されてみれば信憑性はあるでしょう。という訳で、改めて。クラッキー、私とともに神界に行き、神として再誕しましょう?」
何が吹っ切れたか、ヨクスは素早い変わり身を見せる。俺の元まで来ると、アーリンの腕を握っていた俺の手を強引に奪って甘えた声を出した。
しかし、きちんと事情は説明してくれたからと言っても少しは申し訳なさそうにはしないのか。
「あっ、抜け駆けか! 私だって!」
アーリンは空いていた俺の腕に再度密着をする。
「ね。まずはどうしたい?」
「どうしたい……?」
なんだその抽象的な質問。どうしたいって何をだ。
どう「したい」ということは、俺の願望だよな。何を、か……。
唸りながらあちこちに目を動かしていると、つい止まったのは大きく開いていたアーリンの胸元。今一度、確かに感じている豊かな胸は、褐色の肌に映える赤い柄の入った衣服から谷間を覗かせている。
……いや違うよな。何を聞こうとしてるんだ俺は。
「……あのなー、クラッキーとの予定でも考えたかったんだけどー」
「予定……えーと、俺が何をするかってことか」
「神界には行けないからー。いっぱいどっかに出かけようよ」
犬なら尻尾でも振りそうな、期待を込めた眼差しで俺を見つめる。ヨクスを前にしても目立つ対抗心は無く、自身の願いだけを目一杯に顔に出している。さっきは俺のためにならいつだって予定を開けるとも言っていて、自身できちんと適度な甘えどころみたいなのを制御してるようだ。
「……アーリン。ヨクスも。まだ少しだけ考えさせてほしい。せめて一週間、その時一旦考えてみたことを伝えるからさ」
まだ誰かに話せるような恋愛経験は無い。
けど、男女が友情を越えて結ばれるのには互いを想う気持ちは必須だということはわかっている。
2人が帰った後、駅前まで出かけた。多くの、関わり合わなくともなんの障害にもならない雑踏を眺めて、一つ考えたことがあった。




