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闘争神降臨

「クラッキー!」

「うおっ!」

 夢の女性の様にポップなあだ名で俺を呼び、胸元に飛び込んできて強く抱きしめてくる。

「うん。なるほど……『特異』だもんな。クラッキーだ! クラッキー、クラッキー!」

「お、おい、急に何するんだよ」

 体に密着されているので上手く引き剥がせず、同時に押し付けられている巨大なものに怯まざるを得なかった。

「あの……離れてくれないか」

「うん? 顔赤いぞ?」

 少女は俺に抱きついたまま上目遣いで俺を見上げる。そして、その目を見た時、はっと頭が冴え渡った。

「君は……神様か?」

「そーだよ。闘争神のアーリンだってば」

 琥珀の目を持つ、俺の前に現れた二人目の女神、アーリン。ヨクス同様に俺に目一杯の好意を持っているようで、抱擁によって全身でそれを表している。そしてヨクス同様に俺は、そんな可愛らしいアプローチを犬猫のようなじゃれつき程度にしか認識できなかった。

「……どうした? さっきから黙ったまんまで」

 女神様が抱きついてきているのに他のことを考えていた、とは言えない。とりあえず苦しいから離れてもらおう。

「アーリンだっけ? 離してほしいんだけど」

「えー、いーじゃん。未来の旦那さんとして甲斐性見せてよー」

 離してもらうどころかさらにぐりぐりと豊満な胸を押し当てられる。別に好意こそ無かったものの、生まれて初めて至近距離に来た女体は頭の中を邪な感情に占有させ、為されるがままに思考を放棄させる。

「……って、旦那さんって! まさかアーリンも俺に……求婚を?」

「おう! なんだ、この辺りで妙な感じがしたと思ったら丁度転生者がいて、なんかいい感じだったし! ほら、巡り合わせってやつだよ」

 また「巡り合わせ」か。女神はお花畑思考回路が多いらしい。えっと、なんか転生者、とか言ってなかったか。

「なー? 聞いてるー?」

「う……」

 アーリンは不思議そうに俺の顔を覗き込んで左右に揺れる。真面目に考え事をしようとしても、目を閉じれば視覚以外の感覚が余計に研ぎ澄まされるだけであった。

 いかん。煩悩退散、煩悩退散。

「何か騒がしいかと思ったら……アレンさん。玄関先で、大胆な方なんですね」

 ヨクスの一段と低い声に背中がぞくりとする。まだヨクスとは深い仲に発展してないし、浮気だなんだと攻められる覚えは無かったが慌てて弁明をする。

「違う違う違う! ついさっき初めて会ったんだ! 急にこの、アーリンが……」

 人間は追い詰められると爆発的な力を発揮するみたいでアーリンの拘束を解いて完全降参して両手を高く掲げた。

「おー……先客がいたんだ」

「初めまして。どちら様でしょうか?」

 明らかに不機嫌だ。怖くて後ろも見れないし、下手に絡まれたくもないからアーリンの方も向けず俺は天を仰ぐ。

「あれっ、私とおんなじ目じゃん。ていうか、なんで女神がここに?」

 一呼吸置いてからヨクスが女神だと気づいたようだ。勘違いしていたが、あの目は神特有のものじゃなかったらしい。しかし、あの反応からして珍しそうな個体なのか。

「初めまして。私は豊穣神ヨクスと申します。今、私の未来の伴侶となるこちらのアレンさんと朝食を共にしていたんですよ」

 おいおいヨクス。自己紹介にそのマウント的要素は必要無いのでは。

「豊穣神のヨクスか。あたしは闘争神のアーリンだ。よろしく」

 俺を挟んでのアーリンの返事はそんなことを何ら気にしていないものであった。

「朝食……朝メシか。そういえば最近なにか食べたっけかな?」

 ぐうう。

 本当に生活のリズムとして食事が組まれていないようで、思い出したかのようにアーリンの腹の音が大きく鳴る。

「先客の用事は邪魔するわけにはいかねーし、今日のところは帰るわ。けど、明日は二人で会いたいな」

 ヨクスのことを尊重しドライに振る舞ってはいたが、最後のその一言だけ、ぐっと詰め寄って大事そうに気持ちを込めた。

「明日? あー、ごめん。大事な用がー、学校の大切な講義があってな。あ、後でヨクスさんにも言っておこうとは思ってたんですけど」

「ヨクスでいいですよ。あと敬語も結構です」

 また怒った。確かに敬語は親密感無いけどさ。

「じゃあどうすっかな……うーん。ヨクスがもう来てたってことは……」

 多分、と付け加えてここに来た理由はヨクスと同じで、話が被らないようにと質問を連続してする。

「これ、リングで契約をするのは?」

 ヨクスの色違い、赤いリングをミニスカートのポケットから出す。色は気にするなと言うので言いたいことは同じだろう。

「そうしたら神界で夫婦になるのは?」

 契約の性質上、そういう流れになるな。

「クラッキー……えーと、君が転生者だってことは?」

「……?」

「……?」

「いや、誰が?」

「ん」

 ぴっと真っ直ぐに俺の方を指差した。

「俺が? なんだって?」

「いや、だから」


「君が破壊神の転生者だってこと」

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