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フィルビスの忠告とヨクスの介助

「ヨクス、ほら」

 テーブルの上からティッシュを2、3取って顔の前に差し出す。

 ヨクスは涙を拭えど拭えど一向に落ち着かず、乱れた髪さえも直すことはしない。

「気にしないでいいって。今はこうして助かったことには変わりない。今度こそこんなことは起きないように気を付ければいいんだ。ヨクス。そのまま泣かれてるのはこっちも辛くなる」

 なるべく楽観的に、深刻に考えすぎないようになんとか落ち着かせてみる。

 こういう時って背中でもさすった方がいいのか。

「ヨクスさん。向こうの部屋で一度落ち着きましょうか。……すみません、クラッキーさん、フィルビスさん。少し席を外します」

 俺が迷っている間にホーネアがヨクスに声をかけた。女性同士だからか、ヨクスの弱った様子と、どうしてほしいかを雰囲気で察するという、俺には到底できないことも可能らしい。

 こうして俺とフィルビスだけが寝室に残った。

「あー……ホーネアが行ってしまったね。いや、少し大まかな説明になるけど、クラッキーさんの神罰について、覚えている限り話すよ」

「神罰?」

「もともと神の始祖である全能神に倣って名付けられた神毎の能力のことだ。破壊はもちろん、ホーネアの書物に関することも神罰。ちなみに、その元々の特性を強化したり応用したものというのが神器になっている」

 全能神なんて一気に異界感の増すフレーズだ。

 そして、神器はあくまで神罰という異能の延長であるとのことだ。

「破壊神の神罰は『破壊神の癇癪』。さっきの新聞にあった抉れた地面だったり、魔神をあっさりと蹴散らす威力がある反面、感情に強く左右されるという側面がある」

「はあ。癇癪、というやつですか」

「ホーネアの話の大雑把な要約だけど、どうも『気に入らない』ものしか破壊できないらしい。破壊神の特性であるそのタフさと合わせて、直接攻撃を受けた相手に対してそれを発揮できる」

「そういえば確かあの時は……許せないことがありました。なるほど」

 突然の襲撃で怪我を負わせてきた、大事なプレゼントを壊された、ヨクス達を辱しめようとしていた。

 人間であった俺だって未知の力が湧くであろう、どうやっても手をつけられない怒りの感情であった。

「ホーネアもヨクスさんもいないか……クラッキーさん。まだ話はあるけど今日のところは一旦帰らせてもらうよ」

 俺にまつわることを調べられるホーネアがヨクスの付き添いでいないために一度帰還をするというフィルビス。

「体が頑丈とはいってもその怪我が治る早さは人間並み。顔色も決して良くはないし、大事をとった方がいい。あと怪我が伴わない限りは無縁だけど、ここぐらいの家屋なら壊せる力を持っていることもわきまえて穏やかにね」

「あっ、はい」

 フィルビスが釘を刺したのは、人間としての残りの時間を過ごす間の気を付けるべきことであった。

 確かに初対面のフィルビス達とこんな満身創痍の状態で話していたらかなり汗をかいてしまった。

「それじゃあ後のことはヨクスさんに任せてあるから」

「へ?」


「お疲れさまでした、クラッキー。ごめんなさい、途中で取り乱してしまって」

「へ、平気だって。えーと、それよりも……」

 また泣き出されたりしないように即座に話題を変えようとするが、いかんせん上手く思い付かない。必死に絞り出そうと試みて出てきたのは腹の虫であった。

「お食事ですか? 任せてください」

 1日で目を覚ましたものの、少しフィルビスの話を聞いて落ち着いた頃にはすでに夕方であった。

 ヨクスは張り切ってエプロンを身に纏った。

「何か食べたいものはありますか?」

 確かこういうのは何でもいい、が駄目なんだよな。

「う、うどんとか」

「わかりました」

 特に買い出しにも行かず、すべて『ロッカー』の中のものでできるようだ。考え無しに言ってみたが和食も作れるらしい。

「お待たせしました。えーと、取り分けるお皿があった方がいいですね」

 食べやすいように小皿に取り分けてくれたが、俺は片手、ましてや利き手が動かせない。

「……食べさせますね。あー……そうでした。ふぅ、ふぅ。あーん」

 食べていいんだよな。

 さっきホーネアと席を外した時に化粧を直したようで、麺を冷ますためにすぼめた唇はやらしいピンク色をしていた。

 歯の治療の時などに大きく開けた口は正直、骨である歯と皮膚の無い、剥き出しのピンクの歯茎とが不気味で、わざわざ見たくはないものである。

 しかし目前にあるヨクスの唇は桜の味をした菓子のようにとても甘そうで柔らかそうであり、今すぐにでも口にして……。

「本当に冷めちゃいますよ?」

 ヨクスの吐息によって冷まされた麺。

 何かもう知能がガクッと下がっていて、唾液など一滴もついていないのにとんでもないアレンジをされたような気がして、何も口にしていないのに顔が熱い。

「……あ、おいしい」

 出汁の香りが漂っていたことは既にわかっていたが、麺を口にするとその旨味もしっかりと味わえる。柔らかすぎず、ほどよく食感のある麺はまた、次へ次へとよく箸が進んだ。ヨクスのではあるが。

「喜んでいただけて嬉しいです。……お休みですか?」

 食べたらすぐになんて単純だったが、疲れていたし、大きなあくびをしてしまった。

「それじゃあ歯も磨いて、体でも拭きましょう」

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