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剣舞と書物の神

「クラッキー……」

 ヨクスに責任があるわけではないが、神になることを提案したことのある身として、有無を言わさず強引に神となった俺のことを不安そうに見てきた。けどヨクスは責められる責任は無いはずだ。

「契約はいつ、俺……自分はそう誓ったこと記憶が無いんですが……」

 神になると誓いを立てることで自分の意思で再誕を果たすのが手順だった。たしか一旦力を共有するとか。

「ラーズの、神器での一撃を受けたことで血液を介して力が流れたとみられてます」

 ホーネアが恐らくではあるが、仮定をひとつあげる。

「ですが魔神の力です。また改めて上書きをしていただこうと……ああ、今は気にしないでください」

 ワクチンか何かみたいにそうやって注入されてもよかったのか。それで、上書きだって。なんだ改めてヨクスに頼まなくちゃいけないってことか。

「ヨクス、上書きってのは任せてよかったのか?」

「……お願いします。でもまだ、その前に怪我を治してからです」

 耳を赤くしたヨクスはなぜか逆に挨拶を返してくる。そして珍しくヨクスの方が緊張しているようだ。

「クラッキーさん。転生者とはいえこんな形で神になってしまって、気分は良くはないだろう?」

 フィルビスにそう尋ねられたが、まだ実感がない。

「さっき目が覚めて、ヨクスに、フィルビスさん達もいて……はは、1人になったら改めて軽く落ち込むのかもしれませんね」

 他人の目があったから自制できていた。一番繊細な股間の辺りから背中が寒くなっていて、独特の緊張状態だった。

「けどあまり心配はし過ぎないでほしい。神界に来た時は必ず力になる」

「フィルビスさんは神界ではひとつのコミュニティの長なんです。私はその部下ですから、遠慮はしないでくださいね」

 フィルビスとホーネアとは組織の一部らしき関係があったらしい。隣り合って座った様子はどことなくお似合いだ。

「ありがとうございます。でもしばらくはここにいても?」

 しばらくとは、気持ちの整理がつくまで。年単位になるかもしれない。

「怪我が治って、『人の依る標』が難なく使えるまでの間だけなら。人間界にこのままいるのは危険だから」

「危険?」

「まずここから一歩でも出て、ただでさえ特異のクラッキーさんの所在がバレてしまったら、敵討ちのために地の果てであっても逃げ場は無い」

「……敵討ちって、ラーズって魔神の!? そうだ、俺ってなんで助かってるんですか?」

 敵討ちって、ラーズは俺が倒しただと。

 そもそも死を覚悟したあの致命傷を、現にこの身に受けてそれでなおこの場にいる。今この状態のこれまでの過程、何もかもが不明だ。

「今朝の新聞です。どうぞ」

「えっと、『大規模な爆破 不発弾か』だと!?」

 1面には昨日まで俺のいた公園の写真が載っていて、そこには月のクレーターのような綺麗に半球型に抉られた痕跡があった。

 近くに写り込んだ車と比べると数台は余裕で停められる広さだ。

「これ……俺が?」

「ホーネア。頼めるかな?」

 俺の質問に対してフィルビスはホーネアに何かを尋ねる。

 ホーネアはもちろん、といった感じで両手を大きく天に掲げた。

「神器、『語り、受け継がれし伝記』」

「あ」

 何度か見たことのある神器の発動に、いつもとは違う違和感があった。それはホーネアの発した神の言語が何の抵抗も無くすらすらと入ってきたからであった。

 思わず声を漏らしたが幸い誰にも聞こえず、気にされることもなかった。

 と、そんなことをしている間にテーブルの上に分厚く、人の座れるほどの大きさの本型の神器が置かれていた。ホーネアはそれを軽々持ち上げる。

「これにはあらゆる神の歴史、能力も記されている書物の神器です。とは言っても膨大な数の神がいるため、私自身が調べる神のことを知っている必要がありますが。クラッキーさんのような特異ならすぐに……」

 パラパラとページを繰り、あった、と小さく呟いた様子は体に比べて巨大な本を抱えていることもあって子供のようで可愛らしい。

「まず破壊神としての特性として、そのー、タフさがあります。特別強靭な肉体ではありませんが、今のように死に至り、行動不能となる傷であってもぎりぎり息ができるほどの状態で済むそうです。……現に昨日のことであったのにもう目を覚ましているというのが驚愕です」

 確かにさっきの朝刊は今朝のもので、未だ世間はその実態を飲み込めていないらしく、原因を調査中との文言がある。

「クラッキーのこの事態を、一目だけでもと伝えるためにフィルビスさん達をお呼びしたのですが、その直後に目を覚まして……」

 ヨクスがまず俺のことを話さなければならなかったのであろうからしばらく話をしていて、その時にたまたま俺が起きた、とのことだ。

 まさかとは思ったが俺が目覚めるまで泊まり込んでいた訳ではなかったようだ。

「……昨日は、思い切ってクラッキーに会いに行ったのですが、クラッキーの事故を目撃して、ぐす、こうして今ではお話ができていて、もし昨日でなかったら、そんなことを考えると……」

「よ、ヨクス……」

 またボロボロと涙を流して泣き出してしまった。

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