目覚め
「破壊神の神罰が発動した」
戦国の時代から今まで生き永らえてきたように、刀を携え、和装に身を包んだ女神が、共に円卓を囲んでいた青年、少女の見た目をした神にそう呟く。黒い髪は後ろで結い、その鋭い左目には青い炎が揺れていた。
「あいつ生きてたのか……」
「よかったね。ラッチェスの親友なんでしょ?」
「ば、馬鹿言うなよ。騒がしくなるだけだっつの。また『ピースプ』にいくだろうから関係無いし」
破壊神の再誕の兆しを知り、破壊神を知らぬ者、知っていた者とで各々の反応を示した。特にラッチェスは少女に面白がってからかわれる。
「やれやれ。所属でその個人を判断するとはな」
「ラッチェスだって『ワンリミア』じゃん」
「ぐ……」
「何かな? 『ヘトモ』のミータちゃんに言いたいことが?」
ミータが円卓に身を乗り出し、にやにやとラッチェスの顔を覗き込むが誰にも咎められない。
「ならば私にも何も、ゆえん、な」
「お、幽炎神だけに?」
「うむ」
「あっはっはっは」
幽炎神キキセリアの駄洒落をミータだけが大声で笑う。
「もうやだこいつら……クラッキーでも誰でもいいから早く来てくれよー」
汗が気持ち悪い。
倒れてしまうかと感じる体の熱さだ。
汗を拭おうと横になったまま左腕を上げようとしたが、何かがしかかっている。人の頭、綺麗な金髪のだ。
「よ、ヨクス!?」
俺の部屋の俺のベッドで、ヨクスが上半身を突っ伏して静かに寝ているようだ。
「これはどういう……っつ、いった!」
思考を巡らそうと自由な右手で頭をかきたかったが包帯が巻かれたそれに激痛が走り、横たわる頭を押すように膝を跳ねさせてしまった。
「ん……クラッキー、目が覚めたのですか……」
「えーと、おはよ……」
「クラッキー。よかった。目を覚ましてくれて……うう……」
涙をボロボロとこぼしていつもの会話よりもずうっと大きな声で泣いた。目を赤く腫らせてくしゃくしゃにした顔は周りの目を気にしていることはなく、本当に子供のようにただ泣いていた。
「……ラーズにやられてたんだ。けど生きてる」
「けふん。それであの、勝手でしたが奥に招いている方がいて、クラッキーについて大事なお話があるのですが」
「この怪我と俺が生きてることも全部?」
ヨクス1人では説明が難しく、ましてこの調子であったから必須なものとして了承した。
「あ、立ち歩かなくてもいいです。その場で」
ベッドに座り、戸の奥へと向かったヨクスが話している様子を見てしばらく待つ。
そういえば。いや、あるわけ無いか。渡せなかったな、ケーキ。
そう考えている内にヨクスが招き入れたのは、ふわふわの髪に丸い眼鏡の背の小さな女性と、対称的に長身の軍隊の制服のような白い衣装に身を包んだ20代後半ぐらいの男だった。
そしてたった今見たばかりの男であったが、おかしなことにテレビで見るような著名人が目の前の現実に現れたように、名前がふと頭に浮かぶ。
「剣舞神フィルビス……さん?」
「……名乗る手間は省けたね。うん、その通り。よろしくね、クラッキーさん」
穏やかに話すフィルビスであったが、まだどうしてこうなっているかがわからないままだ。
神だと確実にわかった。なら、ヨクスだっていつもと何かが違うのか。一番はっきりしていたのは人間と見比べてみることだが、残っていたフィルビスの連れももちろん神のはず。
そして初めて会った2人の内、何故フィルビスだけを知っていたのか。剣舞神という、その能力まで頭に浮かんでいる。
「気になることはあるでしょうけど、まずは私やクラッキーさんのような『特異』について知ってもらいますか」
「あの! 一応なのですが、私は書物神のホーネアと申します。……私は特異ではないので」
早く俺の体に起きたことを説明しろ、と迫るには早すぎる。とりあえず何をするにも大事な話だというので、フィルビスにホーネアの話を聞くことにした。
「ヨクスさんから聞いたけど、これまでにも割と神達と付き合いをしてきたんでしたね。そもそも神がなんたるかの説明はよしといて、ヨクスさんやホーネアと、この私には決定的な違いがある」
「その『特異』っていう?」
「察しがいい。特異とは、神の司る豊穣に、書物、そして破壊のような能力に関して、そのある特定のたったひとつを神界にて有している神のことで、簡単に言うと、剣舞神と言われれば迷うこと無く、私フィルビスしかいない」
理解はできた。あまりに人間じみていたが、例えば名字が藤堂の人物がいて、学校か職場の中でわざわざフルネームを出さずとも通じる、といった感じだな。自分なりの理解であって、不覚にも馬鹿らしくにやつきそうになったのでフィルビスに確認はしなかった。
「特異の更なる特徴として、こうして顔を合わせただけで能力も名前も判明する、ということ。神同士なら」
剣舞神フィルビスはすぐにわかった。
針の魔神ラーズは。
あっちが勝手にそう名乗っていただけなのかもしれない。断定はできない。
「誰でもいいから人間に来てもらって見比べてもいいけど」
俺の思ってたことだ。
「これではっきりわかる。特異が認知できる、君は神になってしまった」




