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明らかな違和

「そりゃあ単純に考えたらアーリンの服だよな……」

 穏やかな寝息を立てて丸まっているギアピーネ。ぶかぶかのアーリンの服に包まれて、着ているというよりまるで寝ている間にそっとかけてもらったようだ。

「……とりあえずギアピーネとヨクスには一枚かけておいてやるか」

 無防備、という言葉が正にギアピーネの今の状況そのものであった。ぶかぶかの、しかも露出の多いアーリンの服であったからその気になれば寝返りだけで脱衣できるだろう。

 放置するわけにいかず、起こしたときに恥ずかしいだろうから、アーリンに貸していたパーカーを今一度アーリンの服と重ねる。

 アーリンも正常な状態ではなく、胸が窮屈そうだがよほど不自然ではない。だがヨクスはこれではな。

 もし目を覚まして、慌てて右往左往すれば衣服ははち切れ、破壊しかねない。ベッドからタオルケットを持ってこよう。

 別に起きてもよかったのだが、手やら足を踏まないためにゆっくりとギアピーネの脇を通り抜ける。

「……ギアピーネでもこんなに短いのか。どうなってんだか」

 視点が変わって今度はよく似合っているミニスカートが目に入った。姿勢の問題かもしれなかったが、臀部にさしかかるギリギリの辺りを注目させているような着衣状態であった。

「んー……ん?」

 もちろん覗くなんて許されなかった。ただ、少しかがんで目当てのタオルケットに手を伸ばしてみた時、それが目に映った。服は入れ替わっている、と口にしてみてからアーリンの服を着ている女神の顔を確かめた。ギアピーネだ。

「そんな……下着まで替えてるのか?」

 勝手な憶測だった。今まで事故とはいえアーリンの下着、パンツを2回は見た。そしてそれらは色は違えど縞模様であった。

 そして3枚目のパンツ。黒、水色ときて、濃紺だ。ヨクス、アーリン、ギアピーネの間で服が入れ替わっているという事象に加えて、これまでの縞パンツの連続からして、今ギアピーネが穿いているパンツは、いや、パンツも丸ごと服装が入れ替わっている。そう疑わざるを得なかった。

 まだ服の交換だけなら許容はできたが、やはりこの事態は何かがおかしい。

 だが別の可能性もある。ギアピーネだって縞のパンツを穿くことだってあるだろう。つまりたった今全身にギアピーネの服を纏っているヨクスのパンツを確認すれば。

「って違う! なんで自然に気絶してる女神のパンツを見ようとしてるんだ俺は!」

 一丁前に探偵気分にでもなっていたみたいだ。あほらしい推理を猛省し、ヨクスにタオルケットをかけてやった。

「直接事情を聞くのが一番だな。誰を起こす。……ギアピーネ、か」

 話を聞くのは一番気兼ねなく声をかけられるギアピーネに決めた。

 そういえばしばらく外出していたからなのか前までの部屋の不快さは無くなっていた。結局あれは何だったのだろうか。


『───』


「だっ、誰だ!?」

 薄暗い部屋の中、小さな小さな羽虫が首筋にとまったような寒気がして、背後に何者かの気配を感じた。

 頭から胴体、下手くそに体を動かして振り返って左右を確認する。人の影は無い。

 乾いた唇を舐めて、小さく吸った鼻腔には甘い刺激がした。そしてそれがなぜか喉奥に届いた直後、固く結んでいた眉の緊張が解ける。それから、まるで野性動物のように、それを噛み締める間もなくもっともっと欲している自分がいた。

「う……ぐ、はっ……」

 さっきよりも強烈な息苦しさだ。この甘い香りの仕業だったのか。

 突っ込んだ片足は抜け出せず、きつく首を絞めてくる抗えない幸福に気が絶えるまで浸ってしまっていた。


「こーら、静かにしてあげてよ。やっと落ち着いてきたんだから」

「なに。ただ具合を見てやってただけだぞ。一言だって喋ってないし」

「もー。だったら私だって看病するもん」

 誰の声だ。ぱちん、と照明を点ける音もする。

 寝起きには眩しすぎた明かりに目を細めながら、何やら赤と水色の丸いものが右往左往しているのが見えた。

「うー……アーリン達か?」

「クラッキー。目が覚めたのか。体調は? どこか痛むところはないか?」

 ぼんやりとした影と声からして大方の予想はついた。しかしあのギアピーネが俺の元まで飛んできたのには驚いた。それに倉木、と呼ぶのもうっかり忘れている。

「俺気絶してたんだっけ。うーん。いまいち記憶が曖昧だ」

「そうだぞ。こっちが目を覚ましたら今度はクラッキーが倒れてて……いぎっ」

 ギアピーネがアーリンの脇腹を小突く。

「そういやみんなで何してたんだ。確かアーリンはヨクスの服着てて、ギアピーネはアーリンの……」

「何の話だ?」

「いや、だからー、俺が倒れる前に……」

 おかしい。アーリンがギアピーネの言いなりになっている。何を隠しているんだ。

 そう。あの服をヨクスが着ていて。

「なっ、なにじっと見てるの!? ううー……」

 行儀よく正座をするギアピーネの太腿を見つめていたら逃げ出されて、対照的にあぐらをかくアーリンの背中に隠れられた。いや、だからそんなに仲良かったか。

「騒がしいですけど、もしかしてクラッキーが起きたんですか?」

 台所の方からヨクスの声がする。ヨクスも何か変わってしまっているか。

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