ギアピーネの乱心
「直せるのか?」
「応急処置だけど」
激しかった争いの後、壊れたドアの修理を壊した張本人であるギアピーネにやらせていた。
木製のドアは裏側に蹴破られた跡がくっきりと残っており、変形した蝶番の交換だけでは済まない。弁償の相談も含めてまた後日にきてもらう。
「終わったか。なら集まるぞ」
「……本当にいかなくちゃいけないか?」
「当たり前だ。本人がいなくてどうする」
並んで座ったアーリン、ヨクスに、俺が向かい合うように座る。ギアピーネは体ごとそっぽを向いている。しかし、しばらく待っているがなかなか話し出さず、緊張している感じではなく、どこか不貞腐れているようだ。
沈黙に耐えられず、ギアピーネの脇腹を肘でこっそりつつく。
「わかったよ……」
「きちんと顔も上げて、な」
しぶしぶ体勢を整えて、その口を開く。
「……ギアピーネだ……」
独り言ほどの声量で隣の俺がなんとか聞けるほどであった。
「まったく……機械神のギアピーネっていうんだ。少し前に転生者の俺のことを辿ってきて知り合った」
代わりに簡単な紹介をしてやった。勝手に話すな、と不満たっぷりの視線にこちらも、仕方がないだろうと視線で主張をした。
「ギアピーネさん、ですか。……転生者としてのクラッキーを辿ってここに?」
始めに反応したのはヨクス。
ギアピーネは、俺を見つけたが陰から見守り、破壊神としての凄惨な運命を再び辿らぬように俺に協力をしている。と、俺に付きまとっていたことや、陰でヨクス達を目の敵にしていたりしたことを上手く隠せばそう説明できる。
「そうだけど」
「なら貴方もクラッキーを?」
「……嫌いだったらこうして会ってない」
好きでもなければ顔も見たくない、とか何をしているかも気にならなかったり、とにかく関わらないようにするだろう。自惚れだが俺はそれに当てはまらない。しかし回りくどい言い方をする。
「つまりは? 契約の意思があるかどうか、を知りたいのです」
曖昧な返答にヨクスの雰囲気が変わる。ギアピーネから目をそらさず、俺がじっとその顔を照れずに見続けていられるほど真剣だ。
「か、関係ないだろ。フられたそっちには」
「ちょっ、ちょっと待て」
冗談にしたって笑えなかった。神妙な面持ちだったヨクスが逆に冷たく笑みを浮かべた時、俺の手にどっと汗が溢れる。
たまらずギアピーネの肩を掴んで、秘密の話ができるように二人に背を向けさせる。
「なんで喧嘩腰なんだよ。いいか、事実だけを話せばいいんだ」
「フられたのも事実だって。下手に言質をとられるよりましだよ」
「いいだろ別に。そっちは契約する意思が無いって決めてるんだから」
「それだけど、さっき言いそびれた考えがあるの」
「考え? 今じゃなきゃだめなのか?」
「むしろ今だから……」
「おーい」
テーブルをこんこんとノックしてアーリンが割って入ってくる。
「こそこそされるのは嫌だな。今はそいつと話してるのに」
半端なところで会話が終わったから、上手く気持ちが切り替わらず歯痒さが残る。
「それで、契約のことだ。明らかに初対面ではないし、ここに通っているってことは何かの目的があるんだろ?」
雰囲気からも察したのだろうが、よく知り合った仲ではある。そして共通の一つの目的もある。
「ここに通ってる理由なら決まってる。こ、こ……」
「こ? なんだよ」
「こん、や……」
「こんや……今夜、ですか?」
「婚約してるからだって! わ、私と倉木が……」
「……って、はあ!? なに言ってるん……」
「どういうことだよ、あーもう、またこそこそして! おい、詳しく聞かせろ!」
アーリンの激しい制止に押し退けられ、ギアピーネとの会話を阻まれる。
「……面白い冗談ですね……」
告白の内容を完全には否定できず紡いだ言葉は精気のこもっていないものであった。
「冗談なんかじゃない。私と婚約していたから二人の話を断ったんだ」
「クラッキー……本当なのか?」
全くのデタラメな言葉を否定しようとするが、ギアピーネの体が割って入ってくる。
「本当だ。でも、クラッキーは二人をどうしていいのかわからずに、なんとか諦めさせようとしていた」
次から次へと勝手な行動をとられる。何のつもりだ。ギアピーネは俺を神にする気なんて無いはずだろ。
「でも、なぜそれを隠して……」
誘いを断るもっともな理由についてヨクスが言及する。
「クラッキーは私も守ってくれていた。私に余計な心配をさせないように、って」
「おいギアピーネ、さっきから何を言い出してるんだよ」
「倉木は何も言わなくていい。私が必ず幸せにする。人間じゃあなく神として。神が一人として私がなすべきことなんだ」
矢継ぎ早に言葉がつながれているのは不自然な感じがした。まるでわざと気になる言い方を意識しているようだ。
だがまた別の違和感もある。確か、神が一人として、なんて重々しい言葉、いつかどこかで聞いたことがあるような。
『破壊神の存在を否定する身として、道はとうに別った。神が一人として、私は私の成すべきことを実行する』
初めて聞いたギアピーネの覚悟。それとまた真逆の言葉であった。ギアピーネの異図は。まさか。




