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大袈裟に言えば修羅場

「止せって。ヨクスがいつ来るかわからないだろ」

「ヨクスがいなかったらいいんだ?」

 ヨクスどころかギアピーネもいるが、誰がいようといなかろうと断固として俺の意思を見せつけなくてはならない。

 昨日と違ってギアピーネがそこにいるとわかっているというのも相まってやらざるを得なかった。


「やめろ」


 手を乗せられていただけの俺の手を引き抜いた。

「……そっか」

 ぽつりと小さな声で呟いてその場にごろりと寝転がる。俺が石を置くと一応反応はしてくれるが、いまいち盛り上がらない。

 いつもより強く言い過ぎたか。普段ならめげずに迫ってくるがうつ伏せになってその顔はよく見えない。

「……なんか私もしんどくなってきた。暑い」

 しばらく続けていたが、何かに耐えられなくなったようで音をあげる。

「大丈夫か? あ、てか俺のパーカーそろそろ返せって」

 パーカーのファスナーを開けてそれを扇ぐアーリンを見てそういえばそうだったと思い出した。

「うー……」

「おーい。……本当に大丈夫か?」

 俺の話を無視するためかと思ったが、もぞもぞと寝返りを打ちながら低く唸っている。

「すげーもやもやするんだ。この辺りが」

 とんとんとこりをほぐすように胸元を拳で小突いている。それによってアーリンの豊かな胸も揺れるが、くっと唇を噛んで耐える。

「なんだろうな。この部屋、他に誰かいない?」

 何かを察知したようだが、神特有の雰囲気を感じたというのか。だが神は転生者の存在しか感じ取れないはず。

「気になりますね。私もなんだか今日は味付けがイマイチなんですよ」

 ヨクスもため息をつきながら台所から顔を覗かせる。

「気のせいだろ。てか、誰かいたとしてそんなに体調が変わるか?」

「だからそれもわかんないって。上手く言えないけどこそばゆい感じ……」

 アーリンはいてもたってもいられず、キョロキョロと辺りを見渡す。まさか勝手にクローゼットを開けるわけはないよな。

「どうしたんですか? クラッキー」

 俺は胸を張れるほど度胸は無いので自分でも不自然に指を組んで動かしていたことがわかった。それをヨクスに見抜かれる。

「いやー、だからな。そんなリアリティーの無い話してもしょうがないだろ。ヨクス達も疲れてるなら、無理して俺に付き合わなくてもいいって」

「お手洗いに、お風呂場ははさっき確かめました。後は隠れられそうな場所はクローゼットだけですが」

 台所に行ってる間にちゃっかり覗いていたようだ。激怒まではいかないが、ヨクスがそんなことを、というなんともいえない不満が胸に湧く。

「クローゼットか。見ていい?」

 共通の目的のため、アーリンがヨクスの加勢に加わる。

「あー……だからいるわけ無いって。ほら、座った座った」

 真面目に質問に答えるよりもこれぐらいおちゃらけたほうがなあなあにできるだろう。

「ならば見せていただいてもいいのでは?」

 そりゃそうだ。それが一番の潔白を証明する術だ。

 ここで意地になって、取り繕うために興奮すればさらに疑われる。

「見せられないものがある」

 身を削る苦肉の策だ。俺こそいつ親が来るかわからないから無縁であったが、男が部屋を見られたくないのはだいたいそういうものによるだろう。ギアピーネしかやましいものはなかったのでこれはハッタリではあった。ヨクスが、アーリンがどう捉えるかによる。

「……はぁ」

 ヨクスは何となく察したようだ。少し照れている。

「あ、小さいときのアルバムとかか? 見たい見たい」

 どういう解釈なのか。確かに他人に見られたくないプライベートなものと言えばそういう類いのものも含まれるが。

「アルバムなんて無いよ。それは実家にある」

「なんだ……そっかぁ……」

 アルバムが無いということに落胆をする。だが、いまだに疑いは晴れていない。

 思っていたよりも危険で緊迫した事態になって喉はからからだ。台所に飲み物を取りに行きたいが、このアーリンから目を離すわけにはいかない。

 抑止力となる何かはないか。俺なら開けたくなくなる言葉はなんだ。

「ああ、わかったよ。本当にのことを言うと、今は開けない方がいいってこと。事情があって」

「今は開けられない、とかあるのか?」

「いや、虫がいる」

 とっさに思い付いたのが、古代から人類の天敵とも言われるあの虫だ。

「今朝ちらっと見かけた。俺は平気だから今度探して退治しとくんだ」

 俺も平気ではなかった。それこそ服のあるクローゼットにいたら気が狂ってしまうだろう。

「うえ……」

「はうぅ……」

 流石は××××さん。たとえ神であろうと、二人は気味悪がって距離をとる。その様子を見ているともうこれ以上誇張せずとも捜索が続く可能性は無さそうだ。


 ばたん。どさ。


「く、倉木ぃ! なんてとこに私を押し込めてるんだよ! ううー、どこも、どこもついてないよね? うあーん、むずむずするー!」

「……大丈夫だ。あれは嘘だからな。よし、もう一回戻ろうな」

「本当に? ちょっ、押さないでって」


「おい」


 一段と低いアーリンの声。まさに蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかる気がする。

「そいつ誰?」

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