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まずそうな状況が重なる

「クラッキー。大丈夫ですか。まだお休みでしょうか」


「んむっ!? んー! んー!」

 扉の向こうからヨクスの声が聞こえてきて、俺はいの一番にギアピーネの口を塞いだ。当然暴れられるが、口に指を当てて会話の音量に気を付けるように体で示した。それと小声でも。

「ここ壁が薄いから、静かにするんだ。いいな?」

 また乱暴されて、その眉間に怒りを露にしていたが、必死に主張を続ける俺を見て観念し、ゆっくりと頷いてくれた。

「……わかった。窓から出ていくよ。靴も持ってくから」

 こっちは疲れを忘れるほどはらはらしてしていたのに、ギアピーネは声の大きさには細心の注意を払っていたにはいたが、どこか落ち着いている。

「……一応怪しまれないように適当に相手してて」

 足音も立てぬようそろそろと靴を回収して玄関とは向かい側の窓の方に引き返していく。わかってはいるがそのゆっくりと歩く様はもどかしく感じる。

「待っててくれ。今片付けてるから」

 知り合いに過ぎないが、交遊を隠している女を逃がすという場面など縁の無いものだと思っていたのでつい苦笑いする。

「ん……あれ?」

 ががっ。

 ギアピーネがいる方から嫌な音がする。何事もないことを期待したが、案の定助けを求める顔をしている。

「こ、壊れた……」

 窓は開けたものの、一枚向こうにある網戸が引っ掛かってしまっていた。

「ああ……それはかなりがたがたなんだ」

「どうしよう、出られない……」

 部屋の窓のもう片方は雨戸の収納で塞がれて、開けたところで何の好転もしない。

「後で直すから……ごめん、いいかな」

「壊す気か!? 待て待て、そんなもん怪しまれるに決まってる。あー……どうせすぐにここは空けるんだ。こっちに」


「ごめん、待たせた。今開ける」

 顔は冷や汗をかいていないかという意味で変じゃないか確かめてから二人を部屋にあげる。すぐに出ていくことになるが。

 このとき、ふとヨクスの手に提げていた布のかかったバスケットが気になった。あれは収納しないのか。

「それじゃあ今日はどこにいく?」

 皆でテーブルを囲んでから、俺はなるべく早くこの息苦しさを抜けるために先手を打つ。

「どうしたんだ? クラッキー。珍しく乗り気だな」

「別に……お、おかしくないって。ほら、昨日のことで気を使わせたくないからさ。この通り元気だって」

 そういえば俺からこういうのは変か。危ない。

「その事なのですが」

 横からヨクスが挙手をする。

「よかったらこれを。私のところで採れたものです」

 バスケットの中身はどれも美味しそうな果物が盛られていた。量は少ないが多分食べ切れるようにしてくれたのだろう。

「私もだからな。その、これ……」

 断ろうとするも、すぐにアーリンも片手で持てるほどの菓子折りの箱を差し出してくる。これも後ろ手で隠し持っていたようだ。

「えっと、ありがとな。わざわざ」

 受け取らないのも悪かったから礼を言って、きちんと対応をする。そこまではよかった。

「今日ぐらいは私だって流石につれ回すのも自重する。その代わり、ほら、オセロとかトランプ持ってきたぞ」

「……どういうこと?」

「部屋で遊べばいいってこと。なに? どっか行きたいとこあったの?」

 今はそういう心遣いはいらない。なんて間の悪い。

「私も。食事のお世話ぐらいならしようと思ったのですが、何より二人きりにはさせたくないです」

 ヨクスもか。


 二人を連れて。行ってみたい場所。というのは無い。

 それが俺の意見であった。そして、言えるものなら帰ってくれとも。

 いらいらしても仕方ない。なんとか帰ってもらおう。


「はい。ダイヤの6であがり」

「かー、クラッキー強いなー」

 流石に二人ではつまらないのでヨクスも交えて大富豪で遊んでいる。ルールはすでに知っていて、誰かが抜きん出て強いわけでなく、買ったり負けたりを繰り返している。

 決してただ遊んでいるわけではない。いかに自然に過ごすかをどうにか模索しているのだ。ギアピーネが辛いのはわかっているし、俺もぐっと唇を噛んで耐え忍ぶ。

「そうだ。台所を借りてもいいですか? 昼食をお作りしようかと」

 きりがいいところでヨクスがそう尋ねてくる。正午にはまだ早かったが、支度も考えるとそれぐらいがいいのかもしれない。

 でも冷蔵庫に食材なんか無いと伝えた。

「一応もしもに備えてちゃんと持ってきていますよ」

 ヨクスは「ロッカー」から新鮮なトマトを一つ取り出した。さっきの見舞い用の果物はなぜ手で持ってきたんだろうか。

「一つのマナーですよ。こうして他人に贈るときはなるべく使わないように。……これは少し目をつぶってくださいね」

 魔法とかそういう類いの高次元な問題であったので親近感は無く、ヨクスの申し訳なさそうな笑顔のままに許した。

「二人ならこれだな」

 調理の合間、アーリンはオセロ盤を出してくる。

「……なーんて。今なら二人きりだよ」

 適当なところで石をぱちんと鳴らし、そっと手を重ねてくる。

「こういうのドキドキしない? 見られちゃうかもって思うと」

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